理不尽狩りゲーの世界に転生した
@rereretyutyuchiko
狩る
第1話 狩り
「よし、今日はここらへんで切り上げるか」
照り返す太陽に目を細め曲げ続けた腰をいたわるようにゆっくりと立ち上がる。
周りには視界が閉じられるほどの背丈がある草に覆われているため半径2メートル分くらいの草をまるごと切り取ってそこを自分の領地としている。
今日はいい天気だ。こういう時は採取クエストを受けるに限る。雨が降ってると地面がぬかるんで仕方ないんだ。それに採取クエストだと大型モンスター相手にしなくていいから命の危険もないしな。
少し風が吹いた。
丈が長い草は花たちは揺らぎ光の反射による波を作る。さぁっという草と草が撫であって奏でる音がやけに心地よく感じる。
「ほんと、このまま採取だけできればいいんだけど」
それを許してくれるほどこの世界は甘くはない。
「やっぱ来るよなお前」
「グルルルルぅ」
草の隙間から顔出してきたのは地球でいうチーターのような形をした動物だ。だがその実態はチーターよりも獰猛であり隆起した背骨、発達した前腕、鋭利に研がれた牙は捕食者を食べきるまで離すことはない。体格はそこまで大きくはない、チーターと同じくらいだ。
名前をジャスといい、主に採取クエストにやってきたひ弱なハンターや小動物を喰らって生活している大型モンスターに勝てない卑怯な小型モンスターだ。
「………こいよ」
くいくいっと指を動かしジャスを挑発する。
「ぐらぁぁぁぁ!!」
するとこいつはさっきまでの警戒する様子はどこへやらすぐに挑発に乗って襲い掛かってくる。俺はその襲い掛かって来たところを喉めがけて、採取用のナイフをつきたて出血させる。
そして俺はすぐにジャスから距離をとる。
「きゃ、きゃ、ぐ」
喉から上がって来た血を吐き出し、しばらく暴れたあとジャスはびくん、と体が跳ねさせてから徐々に動きが弱くなっていく。息も絶え絶えになり、そして動かなくなった。
苦しませるなんてひどいと思われるかもしれないけど、モンスターの生きようとする力はものすごいからな、あんだけの致命傷でも近づいたら食い殺されかねない。ほんととんでもない世界だよ。
「ふぅ、何度やっても緊張するな」
もうこの世界に来て18年は経つけど、このモンスターの戦闘というやつは未だ慣れない。まぁこのびびりな性格になったおかげでここまで細々と生きてこれたっていうのはあるけどね。もしあのときのままの俺だったら………いや考えるのはやめよう。
「グルルルル」
「ぐらぁ」
「グルルルル」
ここで豆知識だ。ジャスははぐれ型と群れで行動する型の二つがあり、はぐれ型だとさっきの挑発戦法が使えるけど群れで襲われたらもう俺ではどうしよもない。ナイフ一本となけなしの金で作ったこの一本の刀だけでは勝てるわけがないのだ。
よって
「にげろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全力で逃げましょう。
肉食動物の前で背中を見せないようにしましょうという教えは確かにここでもある、けれどあんなの待ってれば誰か救援が来るときの対処法だ。この誰も助けてくれない状況ではただの延命処置でしかない。だから距離がそこそこ離れてる今逃げたほうがいいのだ。
幸いジャスはチーターみたいな見ためしてるけど攻撃力に極振りしているせいなのか足はそこまで早くない。装備のおかげもあって距離さえあれば俺でも逃げ切れる。
「はっ、はっ、はっ」
後ろからがさがさとジャスも必死になって獲物である俺のことを追ってきてるのがわかる。だがその足音は徐々に遠ざかっていき、さらに走っているとその音は消えてしまった。
「はっはっはぁ」
よかったどうやら諦めてくれたようだ。逃げ足だけは早いよなお前、と先輩ハンターに太鼓判を押されるだけはあるな俺。
あたりを見渡すとそこはさっきまでの草が生い茂った場所ではなく、開けた平原のような場所に出た。丈が低い草を踏みしめながら俺は拠点を目指しゆっくりと歩き始める。
ここまで来ればもう拠点は近い、ようやく一息つけ………ドン!!
「っ!?」
けたたましい足音が聞こえた。その一歩の衝撃によって俺の体が一瞬浮いたほどだ。
すぐさま俺は近くにあった大岩の陰に隠れた。………やつだ。
「かぁう、きゃぁ」
「ふぅ、ふぅ」
猫の鳴き声みたいなかわいい声を出すそいつはその声に似つかわしくない巨躯をほこり、口からよだれを落としながらこの平原を闊歩している。
「ノームジャス」
あのモンスターを簡単に言うとさっきのジャスのでかい版だ。だが狂暴性はぴか一で年に40人は新人ハンターを喰らっている。ギルドではあいつは大型モンスターとして指定されている。
あいつ新人ハンターの討伐対象にされやすいくせに新人ハンターが狩るにしては強いんだよなぁ。数多くの新人があいつに食われていくのを俺は見たことがある。まぁ大型モンスターの中では弱い方の部類なんだどさぁ。けど新人ハンターがよく訪れる拠点近くに現れることが多くなちゃったんだよ、まじどうしてくれんのこれ。
「………すぅ」
やつに気取られちゃいけない。あいつの全長は5mもある。気づかれて襲い掛かられたらひとたまりもない。
息をひそめ、ただノームジャスが通り過ぎるのを待つ。ずしん、ずしん、重厚感あふれる足音はまだ鳴っている。
………というかこれ近づいてきてないか?
見るとノームジャスは獲物がいないのを見計らって自分の巣に帰る気のようだった。ていうかまずい、あいつの進行方向上に俺がいるこのままでは見つかってしまう。
仕方ない少し危険だけどあれをするか。
俺は近くにあった小石を拾い、向かって右に思いっきり投げた。
「ぎゃる!?」
ジャスたちは基本的に馬鹿だ。明らかに石を投げた張本人を見ていたとしてもその人間に目を向けることはなくより動いていた石の方に意識を向ける方が多い。
右に引き寄せられたノームジャスを確認してから俺は左から平原を駆けてゆく。当然ノームジャスは俺の存在に気付き俺のことを追いかけ始める。
「間に合えぇぇぇぇぇ!!」
俺が食われる前に拠点にたどり着けば駐屯してるハンターたちがノームジャスの対処をしてくれるはず、そう思いたい!!
よし拠点が見えてきた!このくらいの距離まで近づければ………。
「ひゃっはっーーーー!!」
声高らかな誰かの声が聞こえてきたと思えば拠点の方から光輝く何かが飛び出した。それは流れ星のようにこちらに迫ってくる。
そしてほんとに隕石でも落ちてきたんじゃないかと疑うほどの轟音が後ろで響いた。
俺はそれによる土煙により体を一瞬のうちに汚された。
「………助かりました」
「何、当たり前のことよ」
後ろには首を一刀両断され絶命したノームジャスとその死体の上であぐらをかいている一人の男がいた。
「それ生きてるのかぁ?」
「生きてます、埃まみれですけど」
「そうかよかったぜ、お前みたいな餌があるから俺がモンスターを狩れるんだからな、今後も餌担当よろしく!」
「………そうっすね」
あぁほんとこの人は苦手だ。たとえこの人がハンター最強の一角だとしてもなるべく関わりたくはなかった。
だがまぁ生きて帰れただけでよしとしようか。
そして今日という日は終わりを告げる。彼にとっての、だが………。
・
「はぁ、はぁ、はぁ」
竹長草という人間の背丈以上の高さを持つ草がある。竹長草が大量に生えるこの地域ではあたり一帯の土地勘がない人にとっては人間を喰らう森のようなものだ。
なんの知識もなしにその群草地帯を抜けることは難しい。だがそんな群草地帯を一人の少女が歩いていた。
少女の艶やかであったはずの赤髪は脂汗と数日前に降った雨によりぼさぼさになっている。
それに加え腕に残る深い切り傷に、泥だらけになったせで最早元の白が基調のワンピースの面影はなく茶色が主体となっていた、こうも不衛生であると感染症の危険すら生まれてくるだろう。
「絶対に絶対に生き残るんだ、あいつらを殺すまで」
だが少女は歩く、傷だらけになりまともに真っ直ぐ歩けずとも歯を食いしばり前を見る。
そしてこの少女との出会いがある一人の人物の運命を大きく変えることととなる。
世界は激動の時代に突入しようとしていた。
これはひ弱で、どこにでもいそうな一般ハンターが様々な苦難を乗り越え人類の英雄へと成り上がっていく物語、そしてモンスター側にとっての最大の仇敵になるまでの物語である。
第一章 狩る
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