第2話

「どうだった」


 面接が終わって研究室に戻る途中、先端材料研究専攻の千田に声をかけられた。同期入所で仲は良いほうだ。


 研究棟の廊下で、待ち構えていたような笑顔の彼に溜め息を吐く。

「手応えがなかった」

 面接を振り返りながら、力なく答えた。つかみ所のないと思われる受け答えばかりになってしまった。今頃になって後悔の念にかられる。募集を教えてくれた千田にも合わす顔がなく、俯いてしまう。

「宇宙物理学専攻がほかに四名いた。単純な倍率は五倍だけれども、私よりも十歳以上も年上の優秀な研究者ばかりだった。選ばれる確率は一%もないだろうね」

 自分の言葉に脱力感が襲ってくる。踵を返して、自室に戻って横になりたくなった。


「ふーん。珍しく弱気だな。黒島秀は、体育会系の宇宙物理学者だ。MBRC勤務を実現するために体質改善してきたのだろ」


 黒島は歯を食いしばりながら深く頷いた。乗り物酔いが酷かったから、三半規管を鍛えた。毎日の運動で基礎体力を上げようとしている。泳ぎが苦手だったが、立ち泳ぎは得意になった。ストレスにも負けず、閉鎖空間にも堪えられる精神力をつけた。


「月面上において君以上にパフォーマンスを発揮できる奴なんてこの世にいない。あとは、自分が月にいくんだ、という信念が必要だよ。そんな弱気な精神状態では選ばれない」


 褒められているのか、けなされるいるのか。「そんな奴、いくらでもいると思うけれど」と答えた。


「いいや、いない。今回は公募ではない。宇宙科学研究所内からの人選だ。勤務成績も影響するだろう。特許取得数や論文投稿数を考慮するとかなり君に有利なはずだ」


「そうだろうか」


「書類審査を通っているんだ。実技訓練などを経て、見事に派遣研究員となって月に向かうだろう。俺は信じている」

 千田は肩を叩いてくる。

「結果発表まで諦めるな。ベストを尽くせ」


 送り出される形で研究室に向かった。

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