03 15時のおやつ

 台所。

 こまちは白玉を茹でている。

 お椀には既に大量の白玉が盛られている。

 釜神様はこまちの様子を見ている。


釜神様 何かあったんですか?

こまち え?

釜神様 あなたが料理を作りすぎるときは、大抵、疲れているか、何も考えたくないかのどちらかです。

こまち よく見てらっしゃるんですね。

釜神様 神様ですから。

こまち 味付けは何にしましょうか?きな粉にあんこにみたらしに。フルーツポンチもできますよ?

釜神様 こまちさんは良い子ですね。

こまち …良い子ですよ。良い子でいるつもりです。私。

釜神様 何があったんですか?


 こまちは白玉を茹でている。


こまち …神様が人間を娶ることって、あるんですか?

釜神様 そういうものもいると、聞いたことがあります。

こまち 釜神様は違うんですか?

釜神様 私は家に棲みつく神様です。家と共に盛え、家と共に滅びます。子孫を残す必要もなければ、ここから何処かに行くことも出来ません。

こまち 釜神様が存在するには、この家が必要なんですね?

釜神様 そうですね。あなたが毎日、お味噌汁を作ってお供えをしてくれているので、私はここにいられます。

こまち 良かった。

釜神様 ですが、あなたがここを出たいと言うのであれば、止めませんよ。

こまち …それは、どうしてですか?

釜神様 私が釜神だからです。

こまち …。

釜神様 釜神とは、家を守る神様です。あなたの意思で家を出ることを、私は止められません。

こまち …神様って、案外不便なんですね。

釜神様 そうですね。それが神様です。


 こまちは大量の白玉を茹で終える。


こまち 私、毎日お味噌汁作りますよ。朝も夜も、おやつも、これからもたくさん。

釜神様 そうですか。ありがとうございます。

こまち 白玉、何味が良いですか?

釜神様 きな粉が良いですね。あんこも捨てがたいですが。

こまち じゃあ、どっちも乗せちゃいましょう!ちょっと贅沢ですけど、たまには良いですよね。

釜神様 楽しみですね。


 こまちは白玉を盛り付ける。


こまち 家が賑やかになったら、釜神様は嬉しいですか?

釜神様 そうですね。懐かしく思います。


 こまちは神棚に白玉を供える。


こまち 空き家になったら、釜神様はどうなるんですか?

釜神様 家がある限り、そこに留まります。家もなくなったら、私もいなくなります。

こまち 一人ぼっちで?

釜神様 ええ。

こまち 寂しくないんですか?

釜神様 神様ですから。美味しい白玉です。こまちさんは、何味にするんですか?

こまち 私もきな粉にします。


 こまちは白玉にきな粉をかけ、頬張る。

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