失恋

第0.0話

 日が落ちかけて彩が付き出したイルミネーション。


 どこの店の外にも当たり前のようにいるサンタクロース。


 どこかの店から漏れて聞こえるクリスマスソング。


 でも、実際その一つ一つに意味はない。


「おまたせ太郎くん!」


「あ、花子ちゃん!メリークリスマス!」


 至る所から聞こえてくる同じような会話と、腕を組んで歩く無数の人間の姿。


 ここまでのその全てが揃ってようやく、今日という何でもないはずの日に深い意味を持たせる。…持たせてしまう。


「あ、もしかしてシオンさんですか?」


 スマホを持った女性が、ベンチに座る私の前に立ち、話しかけてくる。


 顔を上げて見ると、しっかり見覚えのある顔だった。


 ならば、釣りではない。正直に答えて大丈夫だろうと判断する。

 

「ん。君はコタツミカンさんだよね?」


「はい!…よかったぁ、生のシオンさんすっごい美人さんだ!」


 私が返事をすると、ミカンさんは満面の笑みではしゃぎだす。


 大当たりだと思う。


 明るい金髪に、肉付きの良い柔らかそうな身体。パッチリ二重とぷっくらとした唇。


「ミカンさんも、プロフよりずっと可愛いですね。」


「えへへ。ありがとです。」


 そして、あざとい程に全身を使って素直に感情を表現する姿。


 アイドルになっても全然戦えそうなくらいには容姿と仕草のレベルが高い。


 私の好きなタイプど真ん中の女の子だ。


「じゃあ早速、行こっか。」


 観察を終えた私は立ち上がって、腕を差し出す。


 すると、ミカンさんは迷いなくその腕に絡まってきた。


 これで、お互い了承の上となる。


 あざとく、わざと当ててくる大きな胸に、全身の柔らかい感触。そして甘い香水の匂い。


 全てに安心感を覚える。


「はい!クリスマスにのレズビアン同士、朝までたくさん慰め合いましょうね!」


 そして、満面の笑みを私に向けて歩き出す。


 その言葉は、今の私には少し効く。


「…うん。そうだね。」


 それでも、私が選択した事だ。


「そういえばシオンさんは、何かリクエストとかあります?」


 私に抱きつきながら歩くミカンさんが、ふいに私を見上げて聞いてきた。


 リクエスト…この手の関係ではよくある事だ。


 今までだって、私もリクエストをしてきたし、相手のリクエストに答えてきた。


 失恋相手の代わりだったり、片思い中の相手の代わりだったり…同性愛者だからこその悩みは同じ同性愛者だから分かち合える。だからリクエストは成り立つ。


「一つだけ…」


 そして今日も、私はあらかじめリクエストを用意していた。


 私はまるでとは正反対の女の子を見つめて、口を開く。


「君のこと、って呼んでもいいかな」



 


 

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