第6話 カグヤ島沖海戦②

西暦2025(令和7)年9月25日 ミズホ連合首長国カグヤ島沖合


「レーダーに反応あり。敵機がこちらに向けて接近中です。機数は凡そ30」


 第1艦隊の前衛を担う水上打撃艦隊の旗艦「しなの」。その戦闘指揮所CICに報告が入る。能登艦長は砲術長に対して指示を出す。艦隊を構成するのは「しなの」を中心に、地方隊より引っ張ってきた6隻の多機能護衛艦FFMであり、対艦戦闘能力は非常に高い構成であった。この無理を通した運用も、暫し東京湾の守りを第7艦隊が引き受けてくれたからこそのものである。


「30、か…こちらで対処できる数だ。第32航空隊は?」


「現在、敵艦載機と交戦中です。圧倒的優勢ではありますが、制空権掌握までには至っておりません。やはり数的優勢を相手が握っているのが大きいですね」


「成程…では、さっさと蹴散らしてしまおう。対空戦闘用意、1機残らず叩き落とせ」


 命令が下り、「しなの」の艦橋構造物に備え付けられている4基の89式多機能レーダーで敵機を捕捉。そして艦橋を取り囲む様に4か所に配置されているSTIR射撃管制装置で敵機を捕捉する。その情報はCICのモニターに表示され、能登は即座に命じた。


「対空戦闘始め」


 命令一過、艦首甲板に仕込まれた64セルのマーク41ミサイル垂直発射装置VLSより発展型シースパローESSM艦対空ミサイルが発射される。本来ならば『スタンダード』艦隊防空ミサイルを詰めているであろうそこには、1つのミサイルセルに4発を装填できるESSMばかりを詰める事で数を確保していた。そして相手はESSMで十分に撃墜出来る相手なのも把握済みだった。


 数十秒後、モニターより次々と敵機を示すアイコンが消えていく。距離は30キロ程であり、相手は回避どころか攻撃の正体を把握する事すら不可能だった。対空ミサイルは僚艦からも連続して放たれ、一方的に敵機を撃墜していく。そして30もあった編隊の数をゼロにするまでに10分もかからなかった。


「敵機、全機撃墜を確認…一方的でしたね」


「14年前の巡航ミサイルの雨あられに比べたら、幾分かマシだな。とはいえ敵は数で圧倒的なんだ。先ずは敵前衛を蹴散らす。対水上戦用意、両翼の護衛艦は左右に展開せよ」


 命令を受け、左右に広がる6隻の護衛艦は、側舷を見せる形で横へ広がっていく。レーダーで把握できている150キロメートル先の敵水上艦の数は凡そ12隻。地方隊より引っ張ってきた6隻のめぐろ型多機能護衛艦FFMの07式艦対艦巡航誘導弾SLCMを1隻につき2発と割り振れば、全て撃破する事が出来よう。


「攻撃、開始」


 能登は命じ、6隻の護衛艦は一斉に07式SLCMを発射。煙突の直後に斜めに備え付けられた四連装発射筒より連続して放たれる。海上自衛隊がこれまで運用してきた〈ハープーン〉や93式艦対艦誘導弾SSMよりも一回り大きいそれらは、先ず海面すれすれを亜音速で飛翔し、130キロメートルの道のりを7分かけて突き進んでいく。


 そして残り20キロメートルを切ったところで、24発のSLCM群は急上昇。同時にターボファンエンジンのオーグメンターが作動し、加速。マッハ2の超音速まで引き上げる。敵艦隊は12.7センチ両用砲や7.6センチ対空砲、40ミリ機関砲による弾幕射撃で迎え撃つが、超音速で突き進むミサイルの驟雨を全て防ぐには手法が古典的に過ぎた。


「全弾着弾を確認。被害効果は不明。ですが、無事では済んでいないでしょう」


 管制官の言う通り、レーダーモニターでは敵艦を表すアイコンの並びに乱れが生じており、動きも止まっている様に見える。機関の息の根が止まったのは明らかだろう。


「これは、勝敗が決まりましたかね」


「まだ分からん。後は本隊を叩くだけだからな。もしくは…」


 能登が呟いたその時、レーダー上にて新たな動きが見えた。先程叩きのめした前衛艦隊の後方、主力艦隊は急に反転を開始。しかもモニター上にて『急に姿を消し始めた』のだ。それが何を意味するのか。


「…腰抜け共め。味方を置き去りにして逃亡を計ったか。船乗りの風上にも置けんな」


 能登はそう呟きつつ、指示を出す。


「全艦、ヘリを出せ。敵兵の救助を開始する。こう二度も殴り返されたんだ、次は倍の兵力で攻めてくるだろうな」


 斯くして、『カグヤ島沖海戦』は海上自衛隊第1艦隊の完勝に終わった。敵は150機の艦載機と12隻の艦船を失い、JTF『季長』司令部は敵戦力の大幅な低下を確信。次の作戦フェーズに移る事としたのだった。

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