第4話 反撃の始まり

西暦2025(令和7)年9月23日 ミズホ連合首長国オノゴロ島 オノゴロ市沖合


「壮観な光景だな。これ程までに強大な軍艦が揃うとはな」


 港湾を見渡せる場所にある海軍オノゴロ島鎮守府の一室で、国防海軍第2艦隊司令官のクキ中将は呟く。海軍最大の水上戦闘艦であるイセ級戦艦や、最新艦たるタケミカヅチ級航空母艦より巨大な戦艦や空母が、このオノゴロ港に錨を降ろしているのである。その光景は壮観そのものだろう。


「此度のパルディアの暴挙、ニホンにも多大な被害が出たそうです。侵攻に対して本気で抗う事でしょう。すでに彼の国は自国の都市フクオカを襲った艦隊を、自力で壊滅させているそうですし…」


 艦隊参謀長のアサダ大佐がそう語る中、クキ提督は地図の方に目を向ける。聞けば、皇国軍は支配領域に近しい国四つを呑み込み、現地住民を迫害しているという。それに空母機動部隊もまだ多数残っているとされるのだ、決して油断はできないだろう。


「それと…現在、タカツカサ家のご令嬢がニホン国の大使殿を引き連れて、弁務官殿にお会いになっているとの事です。改めて皇国に対して喧嘩を売るつもりでしょう」


「だろうな。さて、反応が楽しみだ」


・・・


ミズホ連合首長国イズモ島 首都オオヤシロ市 パルディア皇国弁務官事務所


 大使館に該当する施設である弁務官事務所に、カガリ達の姿があった。


「見たかね、ミズホの諸君。これが我が国の力だ。さっさと降伏した方が、卿らの身のためになるだろう」


 傍から見れば豪勢な別荘にしか見えない弁務官事務所の一室で、弁務官のアルフォンス・デ・ナバーロはワインで満たしたグラスを片手に言う。その目前では、カガリと日本国大使の岸野浩二きしの こうじが立たされた状態にあった。


「…それで我が国を、いや、大東洋の国々を全て滅ぼせると?」


「当たり前だ。我が国には強大な艦隊があるのだからな。先の懲罰攻撃にて貴様らの艦隊は一つ潰れた。これ以上無様を晒したくなければ、さっさと我が国の軍門に降るのだな」


 9月16日、福岡市が空襲を受けていた頃、ミズホもまたカグヤ島の港湾都市タケトリ市が同様の攻撃を受けていた。現地に駐留していた艦隊は大半が撃沈され、市街地にも多大な被害が出ていた。当然このニュースは日本にも届き、多くの国民を憤慨させていた。


「…では、私どもより一つ、お渡ししたいものがございます」


 岸野はそう言いながら、一つのケースをテーブルの上に置く。それを見たナバーロは侍従を顎でしゃくり、ケースを開けさせる。そして中に入っていたものを見て、ナバーロは余裕に満ちていた筈の表情を大きく崩した。


「な…こ、これは…!?」


「これは、確か貴国の海軍の軍艦旗でしたね?福岡市での戦闘の後に救助活動を行ったのですが、その際に現地部隊が回収したものです」


 岸野の言葉に、ナバーロは自身が落としたワイングラスが床を汚していくにも気づかず、ケースの中身を凝視しながら唖然とした表情を浮かべる。相手の反応を確認した岸野は、さらに畳みかける。


「我が国は既に、貴国を敵対的な勢力とみなし、自衛隊に出動を命令しました。よって此度のこの通達は、貴国に対する実質的な宣戦布告となります。もしこれ以上愚行を繰り返すのであれば、我が国は全力で以て貴国の侵略行為に対し抵抗します」


「…との事です。連合首長国政府は貴方達に対し、国外追放を決定。全ての兵力で以て貴国の侵略行為に対処する事をここに宣言いたします」


 二人はそう言い終え、踵を返す。と、その場を去る直前、岸野は加えて話す。


「…ああ、一つ申し忘れておりました。我が国は侵略を目的とした戦争は否定しておりますが、その分領土を取り戻すための努力は惜しみません。よって一時的にも自国の本来の領土を失う可能性をゆめゆめご理解頂きたい」


 そう言い終え、二人はその場を後にする。そうして弁務官事務所を後にし、カガリは車の中で微笑む。


「流石です、キシノ殿。彼の者の顔はまさに見ものでした。しかし、貴国は此度の戦争を如何様に終わらせるつもりでしょうか?」


「そうですな…先ずは相手の外征能力を完全に潰す事を主目的となります。我が国は大義というものを尊重致しますので」

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