第3話 自衛隊出動

西暦2025(令和7)年9月17日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸


「福岡市の被害ですが、破壊された建物の数は凡そ300棟、港湾部にて破壊された船舶の数は20隻。死者・行方不明者の数は凡そ1万人です。市民の大半が屋内にいた事や、出来る限り早期に敵の攻撃を迎撃出来た事が大きいです」


 首相官邸の地下にある会議室で、森野隼人もりの はやと内閣官房長官は大川首相達に報告を上げる。2011年の東アジア大戦以来、戦火と無縁だった日本本土に対して軍事攻撃が行われた事の衝撃は大きく、すでに都内ではデモが巻き起こっていた。


「同時に、ミズホ連合首長国を含む大東洋同盟諸国に対して、空母機動部隊が奇襲を敢行。相当な被害が出ているとの事です。さらにそれをタイミングに、グラン・パルディア皇国が宣戦布告。複数国へ侵攻を開始しているとの事です」


 その報告に、大川はただ表情を暗くする。彼の国の残虐性はミズホ側から良く聞かされてはいたが、まさかここまで粗暴な国だとは思いもしなかった。


「総理、これは非常に由々しき事態です。このまま彼の国の邪知暴虐を放っておけば、今度こそ存亡の危機に立たされてしまいます。ここは防衛出動を命じ、国難に全力で対応するべきです」


 相手は既に戦端を開いているし、実害も出している。よってこちらが正当な理由で武力を行使しても問題ないのだ。外交チャンネルで非難する手段も取れない中、先ずは如何様に戦局を安定させて穏便に接触するべきかが重要だった。


「…分かった。工藤統幕長、及び宮下防衛相、閣議決定の上で自衛隊に対し防衛出動を下令。ミズホ連合首長国との協議を実施した上で自衛隊を現地に展開せよ」


 この1時間後、政府は公式会見にて『グラン・パルディア皇国の武力攻撃に対する積極的防衛』を閣議決定した事を発表。14年振りの防衛出動が成される事となった。


・・・


9月18日 神奈川県横須賀市 海上自衛隊横須賀基地


 海上自衛隊の主力艦隊が一つである第1艦隊は、東京湾の浦賀水道周辺に複数の拠点を有する。在日米軍の水上戦力たる第7艦隊が横須賀の旧海軍鎮守府及び海軍工廠の敷地を母港としている関係もあり、膨大な数の水上艦を停泊させるのに港の規模と数が不足していたからだ。


 よって、護衛艦のうち巡洋艦級と駆逐艦級は同じ神奈川県の横浜市や、千葉県の館山市に分散して配備。陸上司令部の置かれている横須賀は主に戦艦級と空母級の母港として利用されていた。その港湾内に大型護衛艦「しなの」の姿はあった。


「先程、防衛省の総合作戦司令部より、防衛出動が下令された。本艦は第1艦隊隷下部隊としてミズホ連合首長国に展開。統合任務部隊JTF『季長』の水上打撃部隊旗艦として作戦に参加する」


 「しなの」の艦橋にて、能登艦長は各部門責任者にそう述べる。何せ14年振りの戦争なのだ、空気に漂う緊張の色はかなり違った。


「福岡に悲惨な被害を問答無用で与えた連中だ、決して侮るな!それと現地に到着次第、ミズホ軍オブサーバーを迎え入れる。パルディア軍の取るであろう攻撃について情報を提供してくれるそうだ。何せ突然現れたからな、それに対する対抗策は取れた方がいい」


 能登はそう言いつつ、港の外に目を向ける。その方向は米海軍第7艦隊の停泊場所。そこには第7艦隊に属する原子力空母「ジェラルド・R・フォード」と戦艦「モンタナ」、原子力ミサイル巡洋艦「ダグラス・マッカーサー」の姿があった。


「なお在日米軍は我が国の領海警備を主軸に活動する事となる。この手の敵には最も有効な戦闘能力を持つが、グアムの事もあるしな。我らの実力、野蛮な敵に見せつけるぞ」


『了解!』


・・・


9月19日 福岡県築上郡 航空自衛隊築城基地


 福岡の空襲から3日、築城基地の会議室には数十人の隊員達が集められていた。


「此度のパルディア皇国の武力攻撃を受け、政府は自衛隊の出動を決定。JTF『季長』を編成し、ミズホ連合首長国に派遣する事となった。そのうち航空部隊は我ら第8飛行隊を含む4個飛行隊が参加する」


 隊長が述べる中、宮野は挙手する。


「隊長、我らが海外へ派遣ですか?確かに此度の戦闘にて実績はありますが…」


「その実績が必要だ。此度の相手は物量を得意としているそうだからな、こちらも相応のエース達によって対応するという訳だ」


 隊長はそこまで語って、言葉を続ける。


「明日には早速ミズホに向かう。直ぐに準備を整えておけ!」


『了解!』

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