第2話 霹靂の空襲
日本より西の地にて、策謀が動き出す。
「間もなく、総攻撃が開始されます。これによって文明圏外の連中は皆、我が国に平伏すでしょう」
巨大にして絢爛豪華な宮殿の一室で、華美な衣装に身を纏う男達が、玉座に座る男に報告を上げる。
「素晴らしい…我が国の威光の前に、文明圏外にある全ての国は平伏す事だろう。必勝を祈願するぞ」
「御意に、皇帝陛下。ですが、西のガーリアの動向も気に掛かります。圏外国を呑み込んだ後はより強大な国力を以て、ガーリアの狂信者どもを攻め滅ぼしましょう」
「うむ…余はここに、東方文明圏の完全統一を目的とした戦争の布告を宣言する!」
・・・
西暦2025(令和7)年9月16日 福岡県福岡市 博多湾沖合
日本国が異世界に転移して1か月。日本国内の混乱は鎮静化し、ミズホ連合首長国を含む国々との貿易が開始された事によって、日本の経済は調子を取り戻しつつあった。
「しかし、あんだけ大騒ぎになったというのに、直ぐに慣れちまったもんだな。しかも、見知った国や地域がまだいくつかあるのが驚きというものだ」
博多港に停泊する貨物船の船橋で、乗組員の一人は呟く。現時点で日本と国交関係にある国・地域はミズホ以外だと、台湾、韓国、ロシア、アメリカの四か国。しかも韓国は済州島、ロシアは樺太北部、アメリカはグアムと北マリアナ諸島のみであり、少なくともアメリカと韓国は日本に命運を握られた状態にあった。
ミズホ連合首長国を中心とした、東方文明圏の件外国からなる『大東洋同盟』は、グラン・パルディア皇国を含む列強国が異なる世界から召喚した『召喚者』の手によって近代的な文明を得ており、結果として日本を含む異世界から来訪した国家の食料・資源問題をある程度解決できる程度の生産力を有していた。
「まぁ、だからこそ西の…パルディアだっけか?そんな国々を支配しようとする連中がいるそうなんだがな。俺達にとっても迷惑な話だよ」
「そうだよな…む、なんだ…?」
船橋で話を交わしていたその時、湾外に幾つもの奇妙な光が見えて来て、一同は首を傾げる。そして1分ほど時間が経っただろうか。遠くからレシプロの音が聞こえて来て、やがて空に幾十幾百もの黒点が見え始める。
「アレは…!?」
乗組員達はそれらに不気味なものを覚える。と直後、貨物船に黒点の幾つかが急接近。そして光が瞬き、船橋は一瞬で穴だらけになった。
・・・
福岡県築上郡 航空自衛隊
日本の西の空を守る航空自衛隊第8航空団の拠点、築城基地の施設内に警報が鳴り響く。
『国籍不明機は博多湾上に多数出現し、沿岸部へ攻撃を開始している。直ちに迎撃せよ』
「やれやれ、いきなりお客さんとはな…さっさと上がるぞ、新入り!」
建物内にて先輩パイロットはそう呼びかけ、
彼らは急ぎハンガーに駆け込み、準備を整えてあった機体へ飛び乗っていく。この基地に配備されているF-2A〈アリヨール〉戦闘機は、かつて存在した日本人民共和国の航空機製造工場を前身とする『大泊航空機産業』で開発された新型戦闘機で、外見はロシアで開発されたSu-30MKI〈フランカーH〉に似ているが、エンジンやアビオニクスは西側基準のものとなっており、敵航空機の迎撃や対艦攻撃などマルチロールな活動が出来る事が大きな特徴である。
キャノピーを閉め、準備を終えた機体から滑走路へと移動し、離陸位置に到着。オーグメンターを焚きながら次々と離陸していく。そうしてついに、宮野の乗る機体が滑走路の離陸位置に立つ。
『管制塔よりブレード5、離陸を許可する』
「ブレード5、離陸する」
オーグメンターによって推進力を引き上げられたターボファンが高熱の吐息を吐き出し、機体は1000メートルを滑走。軽やかに空中に舞い上がり、先んじて離陸していた先輩機と合流する。その数は10機。
『JWACS〈シルバーアイ〉より編隊各機、国籍不明機体群は相当数展開している。海自航空集団と連携し、領空侵犯と港湾設備への強襲を行って来た敵対勢力を全て撃墜せよ』
『聞いての通りだ。ブレード隊各機、ビジネススタート。不届き者を全て撃墜せよ』
『了解』
返答を返し、宮野はレーダーで敵航空戦力を捕捉する。ヘッドマウントディスプレイに映し出されたその光点の数はまさしく膨大そのものだった。
『隊長、視認しました。アレは…レシプロ機?』
『おいおい、骨董品の群れが大挙して押し寄せてきているのかよ…』
僚機のパイロット達が各々感想を口に漏らす。見えてきたのは、航空技術博物館や海上自衛隊の資料館でもよく見た、アメリカのTBF〈アベンジャー〉雷撃機に類似した艦載機の群れ。その数は余りにも膨大だった。
『各機、攻撃開始せよ。1機でも多く減らせ!』
「了解。ブレード4、
敵機をレーダーで捕捉し、狙いを定める。リアクションは迅速だった。
「ブレード4、フォックス3」
主翼下部より2発の99式空対空誘導弾が投下され、飛翔を開始。マッハ3の超音速で二つの目標へ突っ込んでいく。その狙いは正確だった。
瞬く間に20機が火球となって叩き落とされ、編隊は即座に次の目標を狙う。相手は味方が一気に20機も撃墜された事に浮足立ったのか、編隊は乱れつつあった。さらにそこに99式空対空誘導弾と04式空対空誘導弾の追撃が入る。
『陸自の高射特科群と海自の第2艦隊も対応を開始している。このまま数を減らしていくぞ』
「了解」
隊長の言う通り、レーダー上での敵機の数はみるみるうちに減っていた。このまま攻め押せば勝てるだろう。しかし、この未知の敵が一体どうやって現れたのか、宮野には不思議でならなかった。
そう言っているうちに、ついに武装は機銃のみとなる。敵機は既に80機以上も喪失し、残るは50機程度だった。だがこのままのペースであれば、陸自の地対空ミサイルと海自護衛艦の対空射撃で全て捌けるだろう。
そう考えた矢先、宮野は殺気を感じ取る。背後より1機の敵戦闘機が現れ、宮野は全長19メートルの巨体を翻させる。ベース機の〈フランカー〉より受け継ぐコブラ機動で射線を交わし、空中で一回転。瞬時に相手の背後を捉える。
「フォックス4」
20ミリガトリング砲が唸り、瞬時に敵機の主翼が吹き飛ぶ。そして墜落していくのを見ながら、宮野は小さく息を吐き出す。すると向こうから数機の編隊が迫りくる。それは海上自衛隊航空集団の第32航空隊に属するF-2NA〈オルラン〉艦上戦闘機だった。大泊航空機産業が〈アリヨール〉をベースにした新型艦上戦闘機であり、現在の海上自衛隊にて空母艦載機として運用されているF-14J〈トムキャット〉を置き換えるものとして期待されていた。
その中の1機、尾翼に錨と2本の交差する剣のエンブレムを載せた機体を、宮野は見つめた。その機体は他の機よりも鋭くカーブを描き、空を切り裂く様に舞っていた。
この日、福岡県福岡市を国籍不明の大編隊が襲撃し、航空自衛隊第8航空団と海上自衛隊第32航空隊が迎撃。次いで海上自衛隊第2艦隊が、博多沖合に展開していた敵艦隊と交戦し、空母2隻と巡洋艦6隻、駆逐艦8隻を撃沈。襲撃に対して相応の報いを返したのだった。
そして時を同じくして、グラン・パルディア皇国は大東洋同盟に対して宣戦布告。日本は突如として、大きな争乱に呑まれていく事となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます