第15話 夜景寄生異型

夜が訪れた。健と芽々は廃ビルの中に身を潜め、休息を取ることにした。だが、街の夜は異様な静けさと共に、不気味な気配を帯びていた。健は眠れず、手にしたナイフを握りしめたまま、窓の外を見つめ続けた。


「健…何か聞こえない?」芽々が囁くように言った。


健は耳を澄ませた。風の音がわずかに聞こえるが、それ以外は何もない。しかし、彼の胸には不安が広がっていく。異形の生物たちは夜行性であり、暗闇に紛れて忍び寄ってくるという話を何度も聞いていたからだ。


その時、不意に遠くで何かが崩れる音がした。健は身を強ばらせ、ナイフを構えた。芽々も同様に緊張を隠せない様子だった。


「ここは危険かもしれない。移動しよう。」健は声を潜めて言った。


二人は音を立てないように、慎重にビルを後にした。暗い夜道を進む中、健は自分たちを狙う視線を感じ始めた。それはまるで、無数の目が闇の中から二人を監視しているかのようだった。


「早く…あの建物に入ろう。」芽々が指差す先には、少し離れた場所に比較的無傷な建物があった。


二人は全速力でその建物に向かって走り出した。背後から何かが追ってくる気配が増していく。健の心臓は早鐘のように鳴り響き、全身が冷や汗で覆われた。


建物の中に飛び込むと、健はすぐにドアを閉め、息を整えた。だが、安心する暇もなく、芽々が天井を指差した。


「見て…」


健は目を上げ、愕然とした。天井には、何かが這い回る音が響いていた。その音は次第に大きくなり、まるで何百もの脚が床を叩きつけるようだった。


「上にいる…!」芽々が叫んだ。


突然、天井が破れ、異形の生物が飛び降りてきた。巨大な蜘蛛のような姿で、無数の赤い目が二人を捉えた。その口からは鋭い牙が覗き、唸り声を上げながら彼らに迫ってきた。


健は咄嗟にナイフを振りかざし、生物の一部を斬り裂いた。しかし、それはほんの一瞬の猶予を与えるに過ぎなかった。生物はなおも襲いかかってくる。


「ここから逃げるんだ!」健は叫び、芽々の手を掴んで建物の出口に向かった。


だが、異形の生物はしつこく追いかけてきた。彼らは何度も襲撃をかわしながら、廃墟の中を逃げ回った。健はこの状況に苛立ちを覚えつつも、冷静さを保とうと必死だった。


「どうしてこんなことになったんだ…」健は心の中で叫び続けていた。何かがおかしい。この世界は、ただの崩壊した日本ではない。何かもっと大きな力が、この世界を歪めているに違いない。

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