第12話 クズの本領

 2人の行方不明の報を聞き、俺とアビスはギルド本部を飛び出してアマツガハラに向かった。

 夜道を俺達は駆ける。車よりも速いスピードで。


「電波が届かず、さらに転移クリスタルも使えない場所にいる可能性が高いね」

「魔境か」


 外部との接続の一切を遮断するエリアを魔境と呼ぶ。


「魔境では全ての外部との接触手段を絶たれる。メールの送信と救難クリスタルの発動は魔境が展開される前にギリギリでやったか、それとも魔境から脱出してやったかの二択だね」

「転移クリスタルは起動から発動するまでに3分以上使うのが難点だよな。救難クリスタルを発動したり、メールを送る隙があったのなら、クリスタルを起動する余裕はあっただろうに」


 いま、こんなこと言っても仕方のないことだけどさ……。


「問題はどのパターンの魔境に入ったかだね」


 魔境と言ってもパターンがある。

 代表例はボスエリアだな。迷宮に存在するボスと呼ばれる存在はそれぞれ専用の大部屋を持っており、その大部屋の中は基本的に魔境だ。


「ボスエリアは無いだろうね」

「なんでそう思う?」

「君のメールには《助けて62》と書かれていた。62と言うのは階層の事だよ。救難クリスタルもそこから発信されている。だが62階にボスはいない。ボスがいるのは10階層ごとだからね」

「じゃあモンスタースプリングスか。だとしたら最悪だな」


 もう1つの魔境の代表例がモンスタースプリングスだ。モンスタースプリングスは簡単に言うと魔物の湧き所だ。うじゃうじゃと魔物がいて、さらに増え続ける。

 落とし穴の先や隠し扉の先がここに繋がっていることが多い。相手は雑魚ばかりだが、数が多いゆえ押し切られることが多い。このモンスタースプリングスがシーカーの死因第1位だ。


「あるいはクリスタルも連絡機器も破壊されたか。それか……」

「魔境を展開できる強力な魔物に出くわしたかだな。“特異体”……と考えるのが無難か」


 迷宮はRPGのように場所によって魔物のレベルが安定することは無い。

 魔物が魔物を倒してレベルアップしたり、シーカーと戦って成長したり、あるいは特殊な物を摂取して強くなったりすることもある。そうやってその階層にそぐわぬ進化を遂げた魔物を特異体と呼ぶ。


 俺のこの腕を喰ったのも特異体だ。


 よく覚えている。真っ黒な肌のミノタウロスで、真っ赤で血走った目をしていた。通常のミノタウロスと違って斧などの武器を持たず、その巨躯で蹂躙してきた。今でも背筋が恐怖を覚えている。


「今連絡があったけど、ギルド協会が救助隊を派遣しているらしいよ」

「それじゃ、俺達は救助隊に任せて待っていたらいいんじゃないか?」

「まっさか~。なに言ってんのさ~。50階スタートだとして救助隊のレベルだと62階までに3時間はかかるよ。でも、僕なら30分あれば十分。君がいれば20分でいけるね」


 そうか。突然の出来事に動揺していてそこまで頭が回らなかったけど、いま俺はアビスと組んで迷宮に入ろうとしているのか。


 唯我阿弥数と、S級シーカーと組んで……!


「さぁ着いたよ」


 俺とアビスはアマツガハラのどでかい門をくぐり、中に入る。

 エスカレーターの取っ手を足場に階を駆け上がり、一気に入り口広間へ。


「!?」


 入り口広間に……ギルド協会員に治療を受けている男がいた。


――飯塚敦だ。


「飯塚!?」

「あぁ? テメェは……美亜のサポーターか」


 やけにテンションが低い。やつれている感じだ。

 胡坐をかき、腕に包帯を巻いてもらっている飯塚。しかし、周囲に如月の姿が無い。


「もしかして助けに来てくれたのかぁ? お生憎様、お前に助けられるほど落ちぶれちゃいねぇよバーカ」

「……おい、如月はどうした?」


 とは思う。

 もしもそのだったなら、俺はきっと……ブチぎれるだろう。


「ああ、アイツね。アイツなら……立派に俺の囮になってくれたぜ」


 俺は飯塚の胸倉を掴み上げる。すると飯塚は着火された花火の如く怒りを燃やした。


「テメェ! 誰に手ぇ出してやがる!!」

「ふざけやがって……! サポーター1人置いて逃げて来たのかよ!!」

「サポーターの命よりシーカーの命が優先に決まってるだろうがっ!! テメェらの命は幾らでも替えが効くが、こっちは『選ばれし者』……替えが効かない存在なんだよ!!!」

「オーパーツ持ってくるクセに……なんでテメェはそこまでクズなんだ!! アイツは、如月は! 魔物と戦える手段を持ってないんだぞ!! 自分の攻撃の効かない魔物の巣窟に置き去りにされることがどれだけ恐怖か! 危険か! わからねぇのか!!!」


 殴ろうと腕を振りかぶったら、アビスに肩を掴まれた。


「落ち着け葉村君。こんなゴミに構っている暇はない」

 

 ゴミ呼ばわりに反応し、飯塚はアビスに顔を向ける。


「おい女ぁ! いまなんて……」


 飯塚はアビスの顔を見て、みるみる顔色を青くさせる。


「唯我阿弥数……!? S級シーカーの……!!」

「君のような底辺にも名を知られているとはね。やれやれ、有名になったものだ」

「ぐっ! このっ……!!」


 アビスは興味無さそうな顔で飯塚を一瞥した後、俺の方へ視線を移す。


「葉村君、時間が無い。協会員の話によると飯塚敦と如月小雪は62階で特異体と接触。その後、如月小雪が囮となり飯塚敦は特異体が展開した魔境より脱出、転移クリスタルを使って迷宮からここへ来た。これがつい7分前のことだ」

「如月……!」

「一刻を争う。彼と喧嘩するのは後にするんだ」

「……くそっ!」


 俺は飯塚の胸倉を放す。飯塚はその場に尻もちをつく。


「……」


 俺は飯塚の足もとを注視する。


「テメェクソサポーター! この礼は必ずするからな」

「上等だ。テメェこそ覚悟しておけ」


 俺が冷淡に言うと、飯塚は怯えながらも睨んできた。

 俺とアビスは中層ゲートへ向かう。


「中層のゲートに入るよ。準備はいいかい?」

「いつでも!」

「いいねぇ。こんな状況だけど君と組めるなんて心が躍るよ……」


 歪な笑みを浮かべるアビス。


「お前はもっと危機感持て!!」


 人命がかかってんだぞ!


 ……ったく、まぁ俺も、アビスと組めるのは正直嬉しいけどさ。


 俺とアビスは共に中層ゲートに入る。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る