第10話 如月小雪
フェンリルのギルド本部は酒場のような外観・内装だ。
昼夜問わずギルドメンバーが飲み盛っており騒がしい。
俺はギルド本部に入り、真っすぐと受付嬢の元へ向かう。
「これの受理をお願いします」
俺は《退団届》と書かれた封筒を受付嬢に渡す。
「えっと……」
受付嬢は戸惑いの孕んだ瞳で俺を見る。
「正気ですか? あなたが?」
「どういう意味ですか?」
「だって、そのナリで……他のギルドに採用されると思っているのですか? あ! もしかして、サポーター自体を辞めるとか」
酷い言われようだな……。
「サポーターは続けますし、次のギルドは決まってます」
「へぇ~。物好きなギルドもあるものですね。わかりました。こちらで退団手続きをします。ギルドマスターにも伝えておきますので」
「お願いします」
ビックリするぐらいアッサリだったな。
ギルド本部を出る。
うん。まったく感慨はないな。むしろスッキリした。
美亜との繋がりを全て断ち切ろう。通話は拒否、メッセージツールはどれもブロック。これでOK。
「あ、あの!」
誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。
振り返ると、黒子――じゃない。飯塚のサポーターの如月小雪が小走りで近寄ってきていた。
「どうした如月、何か用か?」
「いえ、その……辞めると聞いて……」
さっきの話が聞こえていたのかな。ギルドの中じゃなくて外で話しかけてくる辺り気が利くな。
「……ずっと言えなかったのですが……あ、ありがとうございましたっ!」
「なんか感謝されるようなことしたっけ?」
「覚えてませんか? 2か月ほど前に、迷宮でタイタンにやられそうになった時、助けてくれたじゃないですか」
「ああ、飯塚と美亜でパーティを組んで入った時か。仲間だから当然だろう」
「当然じゃ……ないです」
うん。確かに当然じゃ無かったな。仲間だからと言って助けてもらえるとは限らない。俺達はそれが痛いほどわかっている。
お互い、相棒に助けられた覚えがないだろうからな。
「最後にさ、1つお願いがあるんだけど」
「な、なんでしょう」
「顔、見せてくれないか?」
「え?」
「一目でいいんだ。顔もわからないままお別れなんて寂しいだろ」
如月はモジモジして、数秒悩んだ後、
「わかりました……」
か細い声でそう言ってフードを脱ぎ、口元まで上がっていたジッパーを下げた。
「……!」
――驚いた。めちゃくちゃ可愛い。
月明かりに照らされた光沢のある銀色の髪、真っ白でハリのある肌。蒼の双眸は不安そうに俺を見上げている。その小柄な体に合った小動物のような愛嬌のある小顔。八の字に下がった眉、仄かにピンク色の頬、いずれも保護欲をそそる。
なんで今まで隠していたんだろうか。正直、美亜よりよっぽど――
「終わりですっ!」
恥ずかしいのか、すぐにジッパーを上げて顔を隠してしまう如月。
「あ、ありがとな。えと、その……如月は今後もギルドに居続けるのか?」
「はい。私、親が遺した借金がいっぱいあって、辞めるわけにはいかないんです。飯塚さん、厳しいけど……お金はいっぱいくれるので」
ギルドマスターだから金は大量にあるだろうな。
「そっか。わかった。プライベートなこと聞いて悪かったな。それじゃ――」
「あ、あの!」
「ん?」
「れ、連絡先!」
「そういや交換してなかったか。いいよ。交換しようぜ」
スマホを出して連絡先を交換する。
如月は俺の連絡先を見て、ぎゅっと両手でスマホを握った。
「ありがとうございます……」
「何か困ったことがあったら気軽に連絡してくれ。じゃあな」
如月と別れて夜道を歩く。
暫く歩いてチラッと振り返ると、如月は俺と別れた場所から動かず、ずっと小さく手を振っていた。
なんて優しい子だ。あんないたいけで可愛い子が飯塚の言いなりになってるって現実が嫌になってくるな。でも如月は納得しているみたいだし、俺が口出せる問題でも無いよな……。
シーカーに比べ、サポーターは数が多い。シーカーと組めていないサポーターが過半数なのだ。だからそう易々とサポーターはシーカーと契約解除できない。その後で誰とも組めない可能性があるからだ。
俺も例外ではなく、暫くはシーカー探しをすることになるだろうな。ま、その辺りは多分、アビスがサポートしてくれるはず。
明日はオッドキャットに出向いて正式にギルド契約を結ぼう。
――――――――――
【あとがき】
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『続きが気になる!』
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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