第9話 2つの選択肢
「義手を!? そんな……安くないだろうコレ」
「開発費は15億円ってところだよ」
「15億!!?」
「もちろん、お金はいらないよ。無料であげるさ」
「無理だ! さすがに無理! 悪いって……!」
「いいんだよ。15億円なんて大した額じゃない」
さ、さすがS級シーカー……。
アマツガハラの上層で取れる魔石とかは1個数百万とかで売れるらしいし、コイツらS級シーカーにとっては大した額じゃないのかも。
「遠慮することは無い。もしも悪いなと思うなら……僕のギルドに入ってくれると嬉しいな」
「……聞きたいんだが、なぜ1サポーターの俺にそこまでするんだ? 俺の腕を高く買ってくれているのは嬉しいが、所詮サポーターだぞ」
「サポーターを舐めない方が良い。葉村君、1人の強力なシーカーと1人の優秀なサポーター、所属シーカーが30人のギルドに、どちらか1人を入れられるとしたら君はどちらを入れる?」
「それは、もちろんシーカーだ」
「まぁほとんどの人はそう答えるだろうね。でも僕はサポーターを取る。なぜならば統計で大人数のギルドに与える影響が大きいのは後者であると証明されているからね」
そうなのか。意外だな……。
「シーカーはオーパーツによって個性が大きく異なり、学ぶモノも大きく異なる。一方でサポーターは学ぶ方向性が基本同じだ。ゆえに、1人優秀なサポーターが入るとそのサポーターを見本に他のサポーターの能力が底上げされるんだ」
「俺に、サポーターの指導役をしろと?」
「その通りさ。僕はシーカーのリーダー、そして君はサポーターのリーダーとしてギルドを引っ張っていく。正直な話僕のギルドは他のS級シーカーが率いるギルドに比べてまだ弱く小さい。ここいらで一石を投じる必要がある」
その一石が俺か。
「だが強制することはない。ギルドに入らずとも腕はあげるよ。今日は一旦帰って、ゆっくり考えて、君が思う最善の道を選ぶんだ」
「……わかった」
俺が帰ろうとすると、ユンさんに引き留められた。
「待て。帰る前に身体測定をさせてくれ。義手の調整に必要だ」
「わかりました」
---
身体測定を受けてボロアパートに帰ってきた俺。
座布団に座り、天井を見上げ、考える。
フェンリルに残るか。
それともオッドキャットに移るか。
……。
「いや、考えるまでもないだろ」
義手までもらえて、しかもS級シーカーのギルドに入れるんだぞ。
オッドキャットのギルドランキングは9位。一方で、フェンリルは109位だ。
もう誰がどう見てもオッドキャットの方が良い。
ただ……半年間世話になった恩はある。美亜には1度相談してみよう。もし美亜が、どうしてもと引き留めてくるのなら、まだ考える余地はある。
もうグラビアの撮影は終わった頃だろう。俺はスマホで美亜に電話を掛ける。
『……なによ。疲れてるんだけど』
不機嫌全開の声で美亜は電話に出た。
「大事な話があるんだ。直接会って話がしたい。今日か明日、話せないか?」
『無理よ。明日はエステの予約とジムのパーソナルがあるから』
「そんなに時間は取らせない。30分あればいい」
明後日は迷宮探索の予定があるからな。それまでに話を決めたい。
『私の貴重な30分をアンタのために割けるわけないでしょ! 電話じゃダメなわけ!?』
聞く耳持たずか。仕方ない。
「わかった……じゃあ単刀直入に言うが、お前とのパートナー契約を打ち切りたいと思う。ギルドも辞める」
『勝手にしなよ。本当に辞められるもんならね!』
ブチ。と通話が切られた。
多分、本当に俺が辞めるとは思ってないな。アイツは俺が他に行くあてが無いと思っている。
――決まりだな。
夜19時。俺はフェンリルのギルド本部に向かった。
退団届を持って。
---
「なぜ黙っている?」
研究室。
義手の入ったケースの前で、ユンはアビスを問い詰める。
「なんのことです?」
「この義手のことだ。この義手は……ただの義手ではないだろう」
「まだギルドに入ると決めていない彼に、機密情報は漏らせないでしょう」
「だがギルドに入らずとも義手は渡すのだろう?」
「はい。その時は――ただの義手をね」
微笑むアビスに対し、ユンはやれやれと肩を竦める。
「オーパーツの残骸を合わせて作った対魔物兵器――オリジン。本当にあんな小僧にこれを扱いきれるのか?」
「僕に勝った男ですよ。扱えますよ。それに……」
アビスは義手の入ったケースを撫で、
「壊れてしまうのなら、また別を探せばいい」
――――――――――
【あとがき】
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