第8話 S級サポーターの実力

 僕が彼を知ったのはつい2か月前、サポーターの女の子のスマホを覗き見た時だった。

 そのスマホには彼が出演する動画が映し出されていた。僕は彼の動きを見て驚いた。その動き全てが僕の理想とするサポーター像そのものだったからだ。


 それから僕は彼の動画を見漁った。


 的確な状況判断、リスク管理。RPGとかで上級魔法に当たる四文字魔法を当然のように使い、身体強化の術もかなりの練度だった。


 僕は思った。もしも彼に、1人で戦える力オーパーツがあれば――と。


 それこそまさに鬼に金棒。そのポテンシャルはS級シーカーに届き得るモノとなる。


 この模擬戦はいわば最終試験。

 彼がを持つに相応しい力を持っているかどうかを試す、最後の試験。


「……さぁ、来たまえ」


 彼の策を、ワクワクしながら待つ。


――ズザン!!


 何の前触れもなく、竜巻が僕と彼の間で起こった。


 これは二文字魔法の【風巻】!! 二文字魔法なら無詠唱で使えるのか! 動画では魔法名を口にしていたけど、アレは視聴者にわかりやすくするための工夫ってわけね。


 って、おいおい……無詠唱魔法の使い手とか3人ぐらいしか知らないぞ。マジかこの子。


「最高だね……!」


 彼は砂漠の砂を竜巻で巻き上げ、辺り一帯を砂煙で隠した。


「視界を潰すか。それで次はどうするのかな?」


 いささかベターな手だ。

 魔法で砂煙を弾き飛ばすこともできるが、砂煙を弾いた後の隙をつかれるとまずい。


「!」


 彼の気配が完全に消えた。【消気】を使ったかな?

 僕は真横に体を移動させる。

 砂煙の範囲は恐らく50メートルほど。つまり、10メートル先に居た彼自身も視界は0。僕の姿は追えないはず。


――しまった。


 僕は、緑色に輝く己の足跡を見て、自身のミスに気付く。


「【看破】か……!」


 その輝きは砂煙の中でもしっかり見える。


「【飛燕爆葬】!」


 炎の熱気が正面から肌に当たる。

 砂煙で目隠し→【看破】で場所の炙り出し→四文字魔法で奇襲。見事な組み立てだ。


 距離2メートル先まで、紅蓮の鳥が迫ってきていた。


 人間を飲み込めるサイズ。僕が使える四文字魔法は【光点軌盾】のみ。タメ無しで出した【光点軌盾】じゃ【飛燕爆葬】は防げないな。


 彼は1つミスを犯した。それは周囲に“熱さ”と“爆音”を振りまいてしまう魔法をフィニッシュに選んだことだ。おかげで僕は一足早く魔法の方向・接近に気づき、回避できる余裕を作れた。


 ただ走って避ければ足跡を追尾される。ならば、一歩で大きく跳躍し、場を離れればいい。

 僕は砂地を思い切り蹴り、飛び上る。


――ゴツン!!!


「は……」


 僕の跳躍は、すぐ頭上の光の壁によって阻まれた。


――【光点軌盾】。


 防御魔法を跳躍を防ぐための天井に使ったのか!?


「足跡を光らせたのは、僕の跳躍を誘うため……!!」


 【光点軌盾】はすぐ目の前に壁を張る魔法。それをここまで遠隔で発動されるとは恐れ入った。

 【飛燕爆葬】をフィニッシュに選んだのはその爆音で【光点軌盾】の詠唱を僕に聞かせないためか。完璧な組み立てだ。素晴らしい戦闘センス……!


「完敗だ」


 オーパーツで【飛燕爆葬】を打ち消すことはできたが、それは流石に往生際が悪いしやめておいた。

 火炎の熱が、容赦なく僕のHPを奪う。

 あっという間にゲージは無くなり、僕の敗北が確定した。


 おめでとう葉村志吹君。


 君の勝ち……そして、合格だ。



 --- 



「勝った……!」


 砂煙が晴れ、ゲージが0になったアビスを見て、勝利を確信する。


「うん。君の勝ちだよ」


 ハンデマッチとはいえ、あの唯我阿弥数に勝った! やばい、これはかなり嬉しい!


「驚いたよ……君の実力は僕の想像を遥かに超えていた」


 いつも余裕な顔をしているアビスが初めて、表情に焦りを見せた。

 あのアビスに認められた……嬉しいな……。


「オーパーツ無しのお前にギリギリの勝利だけどな」


 と照れ隠しに言っておく。


「オーパーツ有りでも良い勝負はできたと思うよ。さて、僕に勝ったご褒美をあげようか。ついてきて」

「?」


 アビスについていき、またエレベーターに乗る。今度は地下の3階だ。

 エレベーターの扉が開く。研究室みたいなとこに出た。様々な器具、装置。培養槽やらカプセルやらがある。

 従業員と思しき白衣を着た人物が数十人ほどいる。その白衣の人物の中で、アビスは眼鏡を掛けたお姉さんに話しかけた。


「ユンさん。連れてきましたよ。例の彼です」


 ユンと呼ばれたお姉さんは背が高く、美人。だが目つきが鋭い。


「ふーん。そいつがねェ」


 ユンさんは椅子から立ち上がり、「ついてきな」と奥の部屋に入る。

 部屋は薄暗く、中央にある透明のケースだけが緑色に光っている。


「これは……腕?」


 ケースの中には機械の右腕があった。


「まだ長さや太さの調整は終わってないけどねェ。機能としては完成している」

「お疲れ様です」


 アビスはこっちを向き、微笑みながら、


「葉村君。これを君にあげよう」



 ――――――――――

【あとがき】

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『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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