第4話 理想とは程遠く

「ただいま~……」


 ボロアパートの2階の端っこ。そこが俺の住居だ。

 一応A級シーカーのパートナーだから1人暮らしするぐらいの金はある。とはいえ、美亜は超高級マンションの最上階に住んでいるあたり、シーカーとサポーター間でかなりの格差はあるけどな。


 迷宮探索自体は18時に終わったのだが、クエスト達成報告、戦利品ドロップアイテムの換金・保存、消費アイテムの補充、迷宮探索で得た情報の共有等々をやっていたらあっという間に22時だ。しかもここからまだ長い作業がある。

 和室の部屋で1人、ちゃぶ台にコンビニ弁当を広げて食し、腹を満たす。

 それからPCを出して動画の編集作業。基本迷宮探索は生配信しているため、アーカイブの整理になる。美亜の映りが悪い所とかを見栄えよく編集、画面酔いするカットや見づらいカットは消去し、見やすい動画にする。


 後はコメント編集。これが1番大切だ。


《美亜ちゃん動き鈍くなった? 太ったんじゃない?》

《オーパーツの能力に頼り過ぎ。もっと剣術とか魔法とか学んだ方がいい》

《これで本当にA級?》


 こういったアンチコメントを削除する。

 美亜は翌日に動画をチェックする。だから明日までに美亜が気持ちよくなれる動画にしないとならない。美亜の機嫌が悪くなると俺に飛び火するからな。


 それにしてもA級に上がってから一気にアンチが増えてきたな。ブロックブロック……。


「またか……」


《Sサポきたぁ!^^》

《Sサポさん、ファンです。結婚してください》

《一度で良いから声聞きたい》

《講座開いてほしい。月額5万は出せる》

《伝説のサポーター》

《相変わらず完璧なタスク。シーカーのやってほしいこと全部やってくれる》


 最近こういうの多いな。

 俺を上げて美亜の評価を下げたいアンチの仕業だろう。美亜がA級にいるのは俺のおかげ、ってことにしたい連中だ。

 片腕でロクにサポーター教育を受けていない俺が伝説のサポーターなわけないだろうに。


 削除削除……。


 しかし動画の再生数がエグいぐらい上がっている。先月までは精々10万~20万程度だったのに、最近は70万が平均で、たまに100万を超える。A級上位のシーカーの動画でもここまでいくのは珍しい。


「は~……終わったぁ!」


 深夜3時、ようやく全作業終了。

 片腕ということもあって編集作業がキツい。


「明日は久々の休み……ぐっすり眠れる」


 美亜は明日、グラビアの写真撮影に行くらしい。グラビアの仕事には俺とは別にマネージャーがついているので俺は行かなくて問題ない(マネージャーはもう5代目らしいけど)。


「あーあ……」


 なにやってんだろうな、俺。

 同級生の好きでもない女子の機嫌取って、せっかく迷宮の街に来たのに雑務ばっかりやって。

 この街に来た時には確かにあった夢や希望、そのどれも欠片もなくなっちまったな。

 S級シーカーになって、世界中を飛び回って迷宮や魔物に困らされている人を助ける……そんな英雄になりたかったんだけどな。


 今やただの雑用係。


 全部はあの日、俺が初めてこの街に来た日に終わったんだ。



 ――――――――――

【あとがき】

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