第3話 第三の男

 宮本武蔵と佐々木小次郎が静かににらみ合う中、突然、どこからともなく第三の男が現れた。夕暮れの薄明かりの中、その姿が徐々に明らかになる。長い髪を背中で束ね、着物を纏った男は、なんとも言えない優しい雰囲気を漂わせていた。


「おいおい、こんなところで何をしているんだ?」


 その声は、どこか心地よく、聞き覚えのあるような、穏やかな口調だった。武蔵と小次郎がその声の主に目を向けると、驚くべきことに、その男は吉岡清十郎であった。


 だが、何かが違う。彼の姿勢、話し方、そして表情――それらは、どこかで見たことのある誰かを彷彿とさせた。


「武蔵、小次郎、もうやめようじゃないか。戦いなんてものは、結局何も生み出さないんだよ…」


 清十郎は、まるで俳優の吉岡秀隆がドラマの中で話すかのように、柔らかいトーンで二人に話しかけた。その目には、穏やかな悲しみが宿っており、まるで戦いを憎む平和主義者のようだった。


 武蔵と小次郎は一瞬、清十郎の変わった様子に困惑し、互いに顔を見合わせた。特に武蔵は、かつて激闘を繰り広げた相手の異様な振る舞いに驚きを隠せなかった。


「お前、本当に吉岡清十郎か…?」武蔵は疑問を口にした。


 清十郎はその問いに微笑みながら、まるで吉岡秀隆が演じる優しい父親のように穏やかに答えた。「ああ、そうだよ、武蔵。でも、俺はもう戦いたくないんだ。ただ、平和に暮らしたいだけなんだ…」


 その瞬間、清十郎は突然、微笑を崩し、両手を広げながらさらに吉岡秀隆の真似を続けた。「さあ、みんなで茶でも飲もうじゃないか!」


 その場の緊張が一気に和らぎ、武蔵も小次郎も思わず肩の力が抜けた。二人は、かつての宿敵が見せたこの奇妙で平和的な態度に、少しの間呆然としたが、次第にその滑稽さに笑みをこぼしていた。


 戦いの気配が漂っていた海辺の空気が、まるで吉岡秀隆の温かい演技によってほぐされるかのように、穏やかなものに変わっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る