第40話 師弟の旅立ち
そんなこんなで、さらに二年もの年月が流れた。
王国内にある早朝の霊園では、デレクの墓碑で祈りを捧げるレトとソーニャの姿があった。
祈りを終えると、二人は荷物をまとめて街に出る。
厩から預けていた馬二頭をそれぞれが引いて、西門へと向かった。
西門に辿り着くと、そこにはエーベネ村の仲間たちが集まっていた。
出立することは事前に知らせていたのにもかかわらず、エーベネ村を出る際に見送りがなくて寂しかった。だが、まさか王国まで先回りして見送りに来てくれているとは思いもよらなかった。
レトとソーニャは一人一人と会話を交わす。
最後にレトはセオへ言葉を送る。
「みんなを守ってやってくれよ、セオ」
「うん、任せてよ」
初めてコルキオン王国に来たときと比較すると、身長が随分と伸びて、顔立ちも男らしくなった。レトの身長などあっさり追い越してしまった。
セオは将来的にヴェルデ村に移住し、復興を目指すのが夢だという。
ちなみにセオとマリルは、いまやエーベネ村公認の恋人同士だ。
ついでに言うと、レトとソーニャの関係性に進展はない。デレクがもし生きていたら、にいちゃんとねえちゃんは奥手すぎ、とからかわれるのが容易に想像できる。
みんなから勇気づけてもらったレトとソーニャは、最後の別れを告げる。
「それじゃあ行ってくる!」
「行ってきます!」
二人はイヴの誕生日プレゼントを盗賊団から取り返すため、レトの故郷でもある港湾都市マルセラへと歩み出した。
王国の西門が小さくなっても、何度も振り返っては手を振り続ける。
完全に見えなくなったところで、二人は馬に乗った。
ソーニャは修行の末、無事に白魔術師となった。盗賊団と戦うことになっても、いまやサポート役として欠かせない存在だ。
また、王国にある道場に足繁く通って徒手格闘を習得している。
左目が見えない弱点を抱えてはいるものの、それを補う修行のおかげで、並の格闘家におくれをとることはない。安心して前衛を任せることができる。
レト自身も鍛錬を怠っていたわけではない。ナイフとバフ魔術を使った攻撃的な戦術をいくつも編み出している。
旅から帰ってきたら、レトとソーニャは王国軍に所属する心づもりだ。
ちなみにソーニャには、馬を乗りこなせるように訓練させた。どっちみち王国軍に入るのなら、乗馬スキルは身につけておくべきだ。
「すまないな、俺のわがままというか自己満足に付き合わせるみたいで」
「いえ、むしろありがたいです。個人的な事情にも関与できるということは、信頼されていることの証だと思うので」
「そう言ってもらえて助かるよ」
「マルセラに着いて、まずは盗賊団のアジトがどこにあるか、聞き込みを始める感じですか?」
「ああ、そうだな。アジトがわかり次第、どういう作戦を取るのか決める。争いごとに発展しないように、交渉のみで解決するのが一番いいのだがな」
ならずもの相手にそんな正攻法が通用しないのは百も承知だから、戦いに勝って口を割らせないといけない。多人数を相手にするので、できれば仲間を増やしたいところだ。
「貴族学校の旧友にでもあたってみるか。どうせ帰省するなら、実家やカルロスさんの教会にも顔を出したいところなんだがな」
「目的と前後するのも、師匠さえよければいいのではないでしょうか。生死を賭けた戦いに挑むのですから、心残りがない方が戦闘時のパフォーマンスもきっと上がりますし」
「そうだよな! よっしゃ、それじゃあ着いたらソーニャにマルセラの街を案内してあげよう。美味しいレストランから、灯台岬、劇場、酒場、賭博場、行きつけの風俗店まで……」
「そうですね〜、気になりますね〜、特に行きつけの風俗店が一番〜」
「あっやっべ——」
「覚悟はいいですね」
「ちょ、ちょっとたんま、弁解の余地をくれ——ってどうして急に馬を停止させた……? その突き出した腕はいったい……?」
ソーニャは鞭を振るい、こちらに向かって馬を急発進させた。
馬の勢いを乗せたエルボーを喰らったレトは、馬上で白目を向いて気絶した。
まさに乗馬訓練と徒手格闘の集大成だった。
◇◇◇◇
大自然が広がる街道を二頭の馬が静かに進んでいく。
白魔術師たちは潮風の運ぶ街を目指す。
"元"隠居神官レトの英雄譚は、まだ始まったばかりだ。
隠居神官レトの英雄譚〜白魔術しか使えないけどやるしかない〜 緋色凪 @renta2
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