第36話 セオside:病室での再会

 ふくらはぎの奥深くまで突き刺さった矢を取り除く長い手術が行われた。

 セオは終始、想像を絶する痛みに、ひたすら泣き叫ぶ。

 手術が無事に終わった頃には、意識を失っていた。

 

◇◇◇◇ 

 

 気絶から目覚めた途端、強烈な光に思わず目を眩ませる。

 目が慣れてくると、いま自分が寝ているのが病室のベッドであることを認識した。

 ふと、右頬に違和感があり、手で触れると、そこがわずかに湿っていた。


「——ききき気がついたみたいね。気分はどうかしら?」

 

 横になりながら声のした方に顔を動かすと、ベッドの右側で椅子に座ってこちらを見つめるマリルと目が合った。なぜか少し顔が赤い気がする。

 セオは起き上がって、包帯の巻いてある右脚のふくらはぎを手で軽く揉んでみながら、


「うん、もうすっかり完治してるみたい」

「そう、それを聞いて安心したわ」

「マリルの方こそ無事でよかった……肩の傷は大丈夫?」

「ええ、矢が突き刺さってたあんたと違って、ヒールを使ってもらえばすぐ完治よ」

「そっか、よかった」

「でも城壁を登ってるとき、あんたが庇ってくれなきゃ、今頃死んでたかもしれないわ。守ってくれてありがとね」


 マリルは温かい眼差しで微笑んだ。

 どういたしまして、とセオも笑顔で返答する。

 心地よい沈黙の時間が流れ、ふと疑問に浮かんだことをセオは口にした。


「そういえば、みんなが城門前にいてくれてたの、タイミングバッチリだったよね。なんか僕たちが城門を乗り越えてくるのを予見してたみたいに」

「あ、それ? 実はマリルのおかげ。ほら、マリルがロープに登るとき、指笛吹いたでしょ? それでいまここにいることを知らせたってわけ」

「ええっ、ナイスアイデアだよ! すごいねマリル」


 ヴェルデ村にいた頃、指笛はデレクから教わったことがあり、みんな吹けるようになっている。


「まあ一番の助かった要因は、マリルたちが城壁を乗り越えてくると信じて、仲間が受け止める土台を準備して待ってくれていたからなんだけどね」

「そっか、じゃあみんなの絆が一つになったおかげだ」


 病室の窓から覗く満天の青空を眺めて、セオはたった一人でカーディグラス城に向かったレトのことを思い起こす。


「レトがソーニャを救い出して、二人は必ず帰ってくる」

「そうね……信じて待っていましょう」


◇◇◇◇


 窓の方を見るセオの傍ら、目覚める前のやらかし・・・・を思い出したマリルが、顔から頭にかけて沸騰したように熱を持つ。


(ほっぺたにキスした瞬間に起きなくてもいいじゃない……セオのバカ!)


 これじゃまるで童話のワンシーンだわ、とマリルの脳内にいるリトルマリルが恥ずかしく身悶え、もう一人のリトルマリルがそれなら男女逆でしょうがと文句を言っていた。

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