第25話 王国直通トロッコ列車

 翌朝を迎えて、朝食を取ったあと、門番に紹介された炭鉱ギルドの建物にみんなでやって来る。

 中に入ると、作業服を身に纏う炭鉱夫が何人もエントランスにいた。

 神官と従者と言えば聞こえはいいが、子供にしか見えない集団が入ってきたことで注目を浴びる。

 いたたまれない空気感の中、受付まで進んで話しかける。


「あの、エーデル鉱山に行きたいのですけれど……」

「炭鉱志望なんて珍しいじゃねえか。けど女、子供にゃちっと重労働だぜ」


 レトは王国内部に入ることができないことを説明する。


「それで、エーデル鉱山が王国への貨物運搬ルートになっていると聞き及んだので、そのルートを通らせてもらえないかとお願いしに来ました」

「なんだ、トロッコに乗りたいだけか。そんなことならお安いご用だ。ちょうどこれからギルドの奴らが鉱石掘りに出かけるから、ついでに案内させるわ」

「ありがとうございます!」

 

 ギルドを出て、炭鉱夫たちについていくと、エーデル鉱山らしき山の麓が見えてきた。

 そのままトンネルの中に入り、話し声を反響させながら奥へと進んでいく。 

 トンネル内では分岐点と何度となく出会い、案内がなければきっと迷子になっていたに違いない。

 入り組んだ狭い通路を抜けた先には、吹き抜けの空間が広がった。ここが採石場の一つで、着手している地点なのだろう。至るところに穿たれた穴が見える。

 その穴の一つからレールが伸びていて、いくつものトロッコが並べてあった。


「そのトロッコを使っていけば王国近くに出る。ただ、先頭の二人がレバーを上下に動かさなきゃならねえ。まあほとんど傾斜だし、なんとかなるだろ」

「が、頑張ります……」

 

 炭鉱夫はレトにそう言い残すと、仕事場に向かっていってしまった。

 一行はトロッコのそばまで近寄る。

 先頭車両から後続車両までは、フックで連結されている。後続車両の無人トロッコには、子供三人くらいなら余裕で乗れそうなサイズだ。


「操作するのは俺は確定として、ソーニャ頼めるか?」

「了解です」


 二人が先頭車両のレバーを挟んで向き合うように乗車した。

 それに続くように、後続車両の一番手前にテッド・エド・セオ、二番目にフェイ・デイジー、三番目の最後尾にマリル・シェリルがそれぞれ乗り合わせた。


「マジで振り落とされないようにしてくれ。仮に振り落とされたら、しっかり大声でアピールするんだぞ」


 レトとソーニャは取り付けられたレバーを上下に動かすと、車輪に動力が伝わり、徐々にトロッコ列車が前進し始めた。

 緩い傾斜に入ると列車は加速し、薄暗い洞窟内を風を切りながら突き進む。この段階になればほとんど手放しでよさそうだ。


「うひゃああああああああああああああ」 

「きゃあああああああああああああああ」

「いやあああああああああああああああ」

 

 後ろから、恐怖と興奮が混ざり合った仲間たちの悲鳴が何度もこだまする。 

 速度の上がりすぎで脱輪するのが怖いので、カーブの手前で速度を落とそうと新たなレバーに手をかけた。

 試しに手前側に引いたところ、車輪から金属同士が擦れる音を鳴り響かせ、動きが緩慢化した。

 

 一度もトラブルなどに見舞われることなく、レールの切れ目がある広めの空間に辿り着いた。

 トロッコから降りて仲間を伴い、洞窟の奥へと歩いていく。

 途中、手動エレベーターのような装置もあったが、上に人がいないと動かなさそうだった。

 突き当たりまで進むと、地上から光が漏れ出ていることに気がついた。


「……師匠、この梯子から外に出られそうですね」

「ああ、ようやく王国へと辿り着ける」

 

 みんなで梯子を上っていって外に出た瞬間、明順応で目が眩む。同時に、太陽光が全身に降り注いだ。

 眼前には、城塞都市グロリトンよりも一回り大きい城壁が建造されていた。

 仲間たちがハッと息を呑む中、何度か訪れたことのあるレトも、改めて圧倒されていた。


「ここは正面ではないけれど、わざわざ回り込むのも手間だし、北門から王国内に入ろう」


 一行は北門に近づく。すると、門番をする二人の兵士が、訝しげにこちらを見た。


「貴様ら、跳ね橋は封鎖されていたはずだ! どうやって内側に入ってきた!」

「怪しい奴らめ!」

「あの聞いてください! 実は俺たち、魔物の大群によって故郷の村を壊滅させられまして——」


 この長旅をかいつまんで説明した。


「そうか……大変だったんだな……」

「血も涙もないのか、魔王軍め」


 身の上話を聞いた兵士たちは北門を開くと、レトたちの通行を快く許可した。

 コルキオン王国内部に足を踏み入れると、家々によって挟まれた中央の石畳が、遥か先から真っ直ぐここまで続いていた。路地にはたくさんの人が行き交っている。


「なんだがようやく肩の荷が下りた気がするよ」

「みんなの率先、本当にお疲れ様でした師匠」

「ああ、ありがとう。宿屋に着いたらすぐにでも横になりたいよ」

「ふふ、昼食の時間までゆっくりしましょう」

 

 出店を物色したり、食べ歩きしたり、そんな賑やかな人通りの隙間を縫うように一行は進む。


「みんな、はぐれないようにな」

 

 一応は注意を促すが、命の危険がない分レトの言い方も柔らかかった。

 

 中央広場から正門のある大通りに入る。

 通りを中ほどまで進んだところにある宿屋を選択しチェックインしたあと、借りた三階の二部屋に男女の割り当てで入った。

 

 宣言通り仮眠を取ったあと、ソーニャに起こされ、一階に付属する軽食屋にてみんなで昼食を済ます。

 昼食後は長旅を終えた安心感からか、緊張が抜けて、各自の部屋でくつろいだり、昼寝をした。

 夕食も同様に軽食屋で食べて、街の散策は明日以降にすることにした。

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