幕間 ゴーレム競争

 ビトーリア町の宿屋に宿泊した真夜中のこと。

 借りた部屋の一室で、男メンバーとともにレトは熟睡していた。

 レトは小さな揺れを感知し、パッと目を開く。すると、顔を覗き込む二人組がこちらを見下ろしていた。


「「レトにい、一緒に探検しよ!」」

「ええ〜、いまからかよ」

 

 二人組の正体はテッドとエドだった。

 この双子は父親が冒険家ということもあり、その血を受け継いでいるのか、とにかく好奇心旺盛だ。

 かくいうフォルティス村でも、隅々まで探検していた。

 明日にはこの町を出ると思うし、その欲求を抑えることができなかったのだろう。

 

(ここで断ると、黙って二人で外出されちゃうかもしれないからな〜。モンスターはいないだろうけど、町の荒くれ者や酔っ払いに絡まれると危険だし)


 レトは観念したように、


「しょうがない、付き合ってやる」

「「やったあ」」


 セオを起こさないように、カバンを持ってそっと部屋を出た。

 

 宿屋の外に出ると、松明がところどころにあってぼんやりと明るい。

 レトはいつもの神官服ではなく、寝巻きとして使ってる筒形衣服ブリオーを着ている。

 三人はランタンを片手に町の探索を始めた。

 

 当然だが、どの建物も灯かりが消えていて、点いているのは深夜までやっているレストランや酒場などの飲食店ばかりだった。

 酒場の横を通り抜けるとき、笑い声や話し声がうるさいくらい漏れていた。

 

 町全体の大半を巡り歩いたところで、特に目ぼしいものはなかった。

 そろそろ帰ろうかと、三人は宿屋に足を向けたとき、真っ暗な建物の脇に人が倒れているのを発見した。

 そばに寄ると、中年くらいの男だった。レトは肩を揺らして声をかける。


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ……ありがとう。でも大丈夫だ。ギャンブルで負けすぎて、落ち込んでるだけだから」   

「ギャンブル?」

「実はこの建物の地下が賭博場になっていてね、さっきまでそこで遊んでいたんだけど、負けが込んで、気づいたら借金が20000コルンまで増えちゃったのさ」

「そうだったんですね」


 気の毒に思ったが、初心者のレトがやったところで彼の二の舞になるだけだろう。

 そう考えたレトが別れを告げようとしたとき、テッドとエドが不満を漏らした。


「レトにい、助けてあげようよ」

「ちょっとだけやって、ダメそうならやめればいいじゃん」

 

 二人は好奇心旺盛さをいかんなく発揮している

 宿屋を出るときカバンを持ってきたから、お金は手元に4000コルンある。4000コルンは、だいたい大人一人の二日分の食費に値する。

 ソーニャに1000コルン持たせていると言えど、王国内で使うことを考えたら、全て取っておきたい。

 強引に連れて帰ろうとしたところで、


「あの、よければこのチップを使ってくれないか?」

「え……?」


 中年男の持つ布袋の中には、百枚以上ものチップが入っていそうだった。


「全部で200チップある」

「本当にもらっていいんですか?」

「自分には才能がないって気づいたから。最後に人のためになってよかった。これで足を洗えそうだよ」 


 中年男は布袋をレトに手渡すと、満足そうに微笑んで星空を眺めた。

 200チップは換金すると1600コルンほどになるそうだ。

 両脇にいたテッドとエドは瞳をキラキラさせて、


「さっそく行ってみよう!」

「行ってみよう!」

「しょうがないなあ。でも寝不足は明日に響くし、少しやったら帰ろう」


 レトを先頭に、外観の大きめな建物のドアを開いた。

 入って廊下を進んだところに、上下に続く階段を見つける。

 その階段を三人は下りていくと、長い廊下が現れる。その廊下の突き当たりに一枚のドアが見えた。

 火のついた燭台が右側の壁面に沿って等間隔にここまで続いている。

 突き当たりまで歩いていき、眼前のドアを開く。その瞬間、圧倒的な光量が目に入ってきた。

 次第に目が慣れてくると、室内の様子を認識し始める。

 周囲には、射倖心を煽るような派手な色合いの壁や床が広がっていた。

 これでもかとシャンデリアや燭台が設置されているので、さぞ息苦しいかと思いきや、しっかり空気は循環していそうだ。通気口などで地上から空気を取り入れているのだろう。

 左右に幅広い室内には、左端に受付があり、そこに受付係が立っている。

 そこから横並びに、賭博用に使用される遊技場が点々と設置され、各々にディーラーが配属されている。

 

「「すっごーーーーい」」

 

 テッドとエドは、異世界に迷い込んだかのように目を輝かせている。

 三人は端から遊技場を観戦していくことにした。

 

 ルーレットやカードゲームには客がいて、ディーラーと対戦している。

 順々に遊技場を移動していると、風変わりなゲームを見つける。

 縦長の土台には四つのレーンがある。

 一番手前にはスタートと書かれた場所があり、道中に障害となるエリアが四つ設置されていて、一番奥にはゴールと書かれた場所が見える。おそらく何かを競わせて、辿り着いた着順を当てるのだろう。

 三人が近づくと、人のよさそうな狐耳族の若い男のディーラーが話しかけてくる。


「いらっしゃいませ。ゴーレム競争へようこそ」

「「ゴーレム競争?」」

「はい。四体のゴーレムを競わせて、一番最初にゴールすると思うゴーレムを予想する単純なゲームです」

「ゴーレムというと巨体のイメージですけど、この小さな遊技場でどうやって競わせるのですか?」

「実は、手のひらサイズのゴーレムがいるんです。さっそくお見せしますね」


 ディーラーは後ろから地面に置かれた木箱を抱えると、こっちまで運んできた。

 その木箱の蓋を取ると、中には人形のような複数の物体が歩き回っていた。首元に色違いのスカーフが巻かれている。


「うわあ可愛い」

「ねえ触ってもいい?」

「いいですよ。たまに反抗的になって殴ってくることもあるので、お気をつけて」


 テッドとエドはディーラーに許可をもらい、木箱の中に手を差し入れる。

 

 本来ゴーレムとは、無機物を動かすマジックアイテム——蒼玉ソウルヴェスルによって自律型人形と化している個体を指す。

 埋め込まれている蒼玉を取り外されたり割られたりすると、動きが止まる。

 実は蒼玉とは、王国法により製造・販売が禁止されている代物なのだが、こっそり密売されているのかもしれない。 

 まあ、蒼玉が使われているとは断言できないので、問い詰めることはできないのだが。

 しかし、万物に魂は宿るというアニミズム的な考え方をしたら、生命への冒涜とも捉えられるので、あまり気持ちのいいものではない。


 ディーラーはゴーレムをスターティングゲートにそれぞれ置いた。 

 一番レーンはレッドスカーフ、二番レーンはグリーンスカーフ、三番レーンはブルースカーフ、四番レーンはブラックスカーフだ。


「参加者は一名様限定です。四つのレーンのいずれか一つに賭けていただき、お客様が賭けたレーンの出走ゴーレムが見事一位になると、賭けたチップの四倍のチップが配当されます。最低BET額は10チップとなります。10チップに満たなければ参加することができません」

「じゃあまず誰からやろうか?」

「ぼくがやってみる」

 

 名乗りを上げたのはテッドだ。


「何チップを何番に賭ける?」

「う〜んと、一番にする。それで、30チップ賭ける」


 少し高さのある椅子に座ったテッドは、200チップ入っている布袋の中から、指定分のチップを一枚ずつ手で掴み取り、一番レーンの手前に積み重ねた。


「よろしいですか? それではBETの方を打ち切らせていただきます」


 賭けたチップの量を確かめたディーラーは、ゴール側へと戻っていった。


「カウントダウンでゲートを開きます。スリー、ツー、ワン……スタート」


 ゴーレムの目の前にあった敷居が、スタートの合図とともに取り外された。

 一斉にのっそりのっそりと進み始める。

 どのゴーレムも差がほとんどないまま、行く手を阻む第一エリアに突入した。

 第一エリアは砂場だ。レーンの一区画が砂で埋め尽くされている。

 ゴーレムたちは砂の上を歩きづらそうに進む。

 三番のブルーゴーレムがわずかにリードという展開で、四体は第二エリアの沼地へと突入した。

 からだの下半分が埋まっている状態で、泥の中を足で掻き分けるように進む。

 ここでアクシデントが起きる。四番のブラックゴーレムが足を取られて転倒してしまった。

 他のゴーレムと大きく引き離される。

 依然、三番のブルーゴーレムがわずかにリードという展開で、ゴーレムたちは第三エリアに入る。

 第三エリアの舞台は水中だ。水の中にトンネルがあり、その中を進んでいく。

 ここに来て二番のグリーンゴーレムが、足をもつれさせて一気に失速する。

 その間に一番のレッドゴーレムと三番のブルーゴーレムが、先に水中エリアを突破した。

 三番のブルーゴーレムが一歩リードのまま迎える第四エリアは氷床ステージだ。

 ツルツルと滑り、幾度となく転倒が予想される。だが、場外に落ちないようには工夫されている。

 実際は油を塗った白い板のようだ。

 このエリアを抜ければゴールは目前だ。

 三番のブルーゴーレムが順調に歩を進めて、四分の三までやってきた。

 そのとき、一番のレッドゴーレムが大きく転倒してしまう。


「「うわああああ」」


 テッドとエドは思わず声を上げる。

 このままいけば敗北は確実と思われたが、なんと、転んだ体勢のまま氷床を滑走し始めた。

 一気に三番のブルーゴーレムの横を追い抜いて、そのままゴールインした。


「「やったああああああ」」

「おめでとうございます。賭け金の四倍のチップをお渡しします」


 テッドの手元に90チップを上乗せした。

 レースを走り終えたゴーレムたちは、ディーラーの手によって水で満たされた容器に浸され、油を洗い落とされる。

 それから水気を浴布タオルで拭い、スターティングゲートのところに一体ずつ置かれる。


「よかったなテッド。どうする? 次はエドがやってみるか?」

「うん、外しちゃうかもだけど、やってみるよ」

「頑張れよエド!」

「ありがとうお兄ちゃん」


 エドは50チップを三番のブルーゴーレムに賭けた。残り240チップとなる。

  

 レースが終了した。

 その結果、三番のブルーゴーレムは三着フィニッシュとなり、賭け金は没収されてしまった。


「みんなごめんよ」

「ドンマイドンマイ、エドの分をぼくが取り返してあげる」 


 その後、すっかりゴーレム競争に熱中してしまったテッドとエドは、チップの大半を使い、手元に残ったのは10チップのみとなった。


「レトにい、ごめんなさい、こんなに減らしちゃって……」

「ごめんなさい……」

「いいんだ、気にしないでくれ。どうせもらいものだからな。最後は俺が賭けてみるか」


 レトはなけなしの10チップを、一番のレッドゴーレムにBETした。

 これで負けると八連敗となる。


(確率的にはこれくらいの偏りはいくらでも起こりうる。だが一応、やましいところがないか観察してみよう)


 レースは一番のレッドゴーレムがリードのまま、第四エリアに到達する。ここまでは不自然なところは見当たらない。

 氷床を五分の一ほど到達したところで、二番のグリーンゴーレムも第四エリアへと入る。

 だがここにきて、二番のグリーンゴーレムは氷床をほとんど進まない地点で、転倒してしまう。

 しかし、逆にそれが功を奏したのか、倒れ込んだ姿勢のまま滑走を始める。

 徐々に加速し、一番のレッドゴーレムを難なく追い抜いていって、ゴールインを果たした。


「残念でした。BETしたチップは回収となります」


 チップをディーラーに持っていかれてしまう。

 首を捻って顎に手を当てるレトは、さっき行われたレースの第四エリアに関して、疑念を抱いていた。


(二番のグリーンゴーレムは転倒しただけなのに、加速しながら滑走していったように見えたな……)

 

 これは、一番初めにこのゴーレム競争をやって勝利したときの一番のレッドゴーレムと似たような動きだ。偶然にしてはありえない動きだったのは間違いない。

 テッドとエドが負けたレースのときも、BETしたゴーレムが第四エリアを一着で抜けたあと、追走する他のゴーレムが転倒し、逆転負けを喫したというパターンを二回ほど見かけた。

 レトは熟考し、あの現象に至る仕かけを何通りか予想してみる。その中で可能性として一番ありえそうなのは……


「レトにい、どうしたの?」

「やっぱり負けたのがショックだった?」

「あっいや、そういうわけじゃないんだ」


 二人に、落ち込んでいると勘違いさせてしまったようだ。

 もしイカサマを使っていたとして、それを見抜いたところで、チップが帰ってくるわけじゃない。

 テッドとエドに宿屋へ帰ろうと声をかけようとしたそのとき、ふとチップを譲ってくれた中年男の顔がよぎった。


(彼もイカサマで負けたんだとしたら、可哀想だよな……)


 チップをいただいた恩義があるレトは、ここにきて闘志が燃え始めた。

    

「テッド、エド、悪いがもう少しギャンブルに付き合ってくれるか?」

「もちろん! 負けたまんまじゃ、悔しいもんね」

「頑張って、レトにい!」

「すまない、ありがとう」


 レトはゴーレム競争の遊技場を離れ、受付の前まで移動する。

 

「4000コルンを全部チップに交換してください」

「かしこまりました——こちらが400チップとなります。引き続き遊戯をお楽しみください」


 ゴーレム競争までレトは戻ってくる。


(とにかく、勝つための対策を練るにしても、まずはイカサマの詳細を完全に見抜く必要がある。BETしたゴーレムが第四エリアに一位で入るまでは、消化ゲームとなりそうだ)

 

 最低BET額の10チップを賭けて、レースが始まる。


 三回ほどゴーレム競争をプレイしたところで、BETしたゴーレムが勝利した。

 低いBETしかしないと踏んで、大きく賭けてもらえるようにわざと勝たせてくれたのだろう。その証拠に、三着だったにもかかわらず、第四エリアの不自然な転倒から始まり、滑走しながらごぼう抜きして一着に返り咲いた。

 得意にならせて浮つかせる作戦なのだろうが、そうはいかない。

 とはいっても、上手くイカサマを引き出させるには、ある程度はBETした方がいいだろう。

 レトは一番のレッドゴーレムに40チップBETし、レースが始まった。

 第二エリアまでは四体とも差がなかったが、第三エリアで一番のレッドゴーレムが大幅にリードし、第四エリアに入ろうとしていた。

 唐突にレトは椅子から立ち上がると、土台の横を通り抜けて、第四エリアの付近までやってくる。

 その場でしゃがみ込みながら、眼前を走るゴーレムたちの動きとコースの雰囲気を注視する。


「お手を触れたり、息を吹きかけるなどの妨害・支援行為は禁止となっております」

「わかっています。そばで見守るだけです」


 一番のレッドゴーレムが氷床の上を半分ほど渡ったところで、二番のグリーンゴーレムが氷床に到達した。

 そのとき、コースの地形が明らかに変化するのを目にした。

 すると案の定、二番のグリーンゴーレムが転倒した。


(さっきまで平らだったはずの氷床が、いまはゴール方向に向かって傾斜している)


 二番のグリーンゴーレムはそのまま滑走を続け、一番のレッドゴーレムを抜かし、一着でゴールした。

 この賭博場は、イカサマを使って客から金を一方的に巻き上げる、極めて悪質な経営をしているようだ。

 おそらくこのゴーレム競争の場合、ギミックを遠隔で操作して傾斜を作り出し、意図的に転倒を引き起こしたあと、油と勾配の影響を受けてゴールまで滑走させる。これがイカサマの実態だろう。


(そっちがイカサマをするなら、こっちもイカサマで対抗するしかない)


 レトはまずテッドとエドを集めて、小声で指示を出す。


「次のレースが始まるとき、俺が賭けた四番のブラックゴーレムを、レースが始まる前から全力で応援してくれ」

「「わかった」」


 レトは四番のブラックゴーレムに370チップを全て賭けた。

 その間、テッドとエドは「「ブラックゴーレム頑張れええええ」」と大声で発破をかける。

 二人がディーラーの目を引きつけている隙に、レトはゴーレムの状態をチェックしているフリをして、四番のブラックゴーレムに手をかざした。


「麒麟の如く駆けよ————アクセラレーション!」


 詠唱に成功したその直後、レースが開始した。

 四番のブラックゴーレムが、見たこともない速度で突き進む。

 三十秒が経過し、術の効果が切れたときにはすでに、第三エリアに突入していた。

 他のゴーレムはまだ第一エリアの最終地点である。   

 ディーラーは目を丸くし、現状の理解に苦しんでいるようだ。

 レースの結果は当然、四番のブラックゴーレムの圧勝となる。

 レトの足元には木箱が用意され、払い戻された1480チップが入っている。


「よしっ、この調子でどんどん稼ぐぞ」

「「おーーーーーー」」

 

 それから二度ほど全BETを繰り返した。

 レトの後ろには十六箱にも及ぶ木箱が積み上がっていた。

 木箱に入ったチップの総数はなんと23680チップとなった。

 もう一度レトは全BETの意思を示そうとしたところで、すっかり顔面を蒼白にさせたディーラーが近づいてくる。


「お、お客様、大変申し訳ないのですが、次にお客様が予想を的中されますと、チップの在庫枚数が尽きてしまいます。なので、この辺で切り上げていただいてもよろしいでしょうか」

「あ〜それなら仕方ないですね」 


 レトは素直に従い席を立つと、ゴーレム競争を終わりにした。

 

「十分楽しんだし、そろそろ帰るか」

「うん。はしゃぎすぎて疲れちゃった」

「さすがにもう眠いよ〜」


 チップを全て換金する旨を伝えて、三人は受付まで向かった。

 23680チップを換金する手続きが終わり、目の前には数十枚の金貨が積み上がっていた。


「189440コルンとなります」

「「すっごおおおおおい」」

 

 換金するとき二十パーセント持っていかれていると言えど、一気に懐が暖かくなった。当分はお金に困らないだろう。

 賭博場をあとにして階段を上り、地上に戻ってくる。

 建物の外に出ると、外気が吹きつけてブルっと震えた。熱狂していたとき、気づかないうちに発汗していたようだ。

 宿屋に帰る前に建物の脇に立ち寄ると、中年男性がうつ伏せになって倒れていた。

 声をかけると、その体勢で眠っていただけのようで、目を擦りながらからだを起こした。


「おう、坊主たちか。ギャンブルはどうだった?」

「はい、おかげで大勝ちすることができました」

「え……?」


 中年男性は驚愕というより、唖然としている反応だった。


「チップをいただいたお礼に、このお金で借金の返済に充ててください」


 レトは22000コルンを中年男性に手渡した。


「い、いいのか? 本当にいいのか?」

「はい。もちろんです」

「ありがとう…………。感謝してもしきれねえよ…………」


 中年男性はこちらに向かって頭を地面に擦りつけながらお礼を述べた。

 三人は中年男性に別れを告げて、宿屋へと向かった。


◇◇◇◇


 中年男性は去っていく三人の子供を見送りながら、彼の胸中は驚きと戸惑いの感情で綯い交ぜになっていた。


「まさか、イカサマだらけの賭博場で勝つやつがいるなんてな……」


 何を隠そうこの男は、賭博場が雇っている客寄せだった。

 倒れたふりをして声をかけてもらい、お礼にチップを渡して賭博場へと誘う。そんな役割を担っていたのだった。

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