第21話 忍び寄る魔の手

 フォルティス村を出て六日目の朝になる。

 一行は朝食を食べ終え、旅を再開する。

 すると間道の先の方で、誰かが地面に仰向けになっているのが目に留まる。


「誰かが道の先で倒れてるみたいだ。ちょっと走ってみてくるから、みんなはここで待機しててくれ。あ、ソーニャだけは一緒に来てくれ」

「はい」


 人が倒れていると思われる道端に、急いで近寄ろうと二人は走り出した。

 距離が縮むにつれ、その凄惨な光景の現場を理解し始める。倒れているのは一人どころではなかった。

 うっすら緑が広がり遠くまで伸びる地面には、雨上がりのあとに見かける水溜りのような血が、広範囲に散見される。その血溜まりの上には決まって人が倒れている。

 望みは薄いが、一人一人の安否を確認していく。

 どれも大きさのある打撃武器によって、肉を抉られた痕跡が残っている。おそらくは魔物の仕業だろう。というより、見境なく人を襲うのは魔物しかいない。徒党を組んだ野盗でも、殺人までは滅多にしない。

 あまりの生々しさに、レトは吐きそうになる衝動をどうにか抑えつける。

 全員の安否確認を終えたが、等しく絶命していた。

 遺体に冥福の祈りを捧げていたソーニャは、新たな事実に気づいた途端、顔面が蒼白になる。


「フォルティス村の人たち……?」

「え……?」


 ソーニャの言葉に、自分の耳を疑った。


「それが本当なら、馬車がどこかにあるはずじゃないか」  

「そのはずなんですけど……あっもしかして、ヴェルデ村が襲撃を受けた事例に当てはめると、馬車を利用して子供たちを攫っていったと考えられませんか?」

「確かに、子供の姿だけなかったな」


 近くを通っていて、たまたま近くを走る馬車を見かけたから、襲ったら子供が乗っていた、というパターンが一番ありえそうだ。馬車は行商人の運搬手段としてよく使われるので、見境なく襲撃したというだけかもしれない。

 辺境の村を襲うこともあるから、間道にいること自体にも不自然さはないが、


(何か引っかかる。まるで、取り逃がした獲物を罠に嵌めて捕獲し直したような、そんな違和感……)


 仲間を待たせているので、頭を振って強引に思考を中断した。

 

 二人は亡き骸を林の木陰に運んでいく。

 本当なら土葬したいところだが、土を掘る器具が手元にない上、この人数分の穴を掘るとなるとかなりの手間がかかってしまうので諦めた。 

 

 全ての亡き骸を運び終えると、二人は子供たちのもとへと戻った。


「レト、いったい何があったんや」

「魔物がキャラバンを襲撃したみたいなんだ」

「なんやて⁉︎」


 デイジーに事情を聞かれ、フォルティス村の村民であることは伏せた。


「近くに魔物がひそんでいるかもしれないから、充分に警戒して進もう」


 レトの言葉に頷くと、一行は旅を再開した。

 血溜まりの路上を通る際、仲間からのうめき声が何度も漏れていた。


◇◇◇◇

 

 一行がホラントの森に着いた頃には夜も更けていたので、入り口付近で野宿し、一夜を明かすこととなった。

 ホラントの森は王家御用達の狩場である。

 モンスターや危険な野生動物は駆逐してあるので、安全地帯だとレトは認識していた。だが念のため、中には入らないようにとみんなに呼びかけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る