第22話 弟子としての価値

 焚き火を囲んだ仲間が寝静まった頃、ソーニャは眠れないまま、燃え続ける炎の様子をぼーっと眺めていた。


(……私は弟子として師匠の役に立てていない。戦闘は見送ることしかできず、守られてばかりで、おんぶに抱っこです)


 せめて白魔術くらい使えるようになろうと、精神修行を始める。 

 ヴェルデ村にいたときやフォルティス村の滞在期間の際は日課にしていたが、旅の途中では無駄な体力の消耗を避けたいがために、あえてやらないでいた。

 精神世界とリンクしようと目を瞑ろうとしたそのとき、唐突に鼻がむずむずし出して、思わず「くちゅん」とくしゃみをしてしまう。

 その声で眠りから覚めたレトが、


「ん? 眠れないのか?」

「……はい、すみません起こしてしまって」

「いや、それはいいんだがな。何か悩み事でもあるんじゃないかなって、気になってな」


 普段の言動やノンデリから忘れがちだが、レトは意外に感情の機微に鋭いところがある。まあ長年、一緒に過ごしてきた影響もありそうだ。


「……はい。師匠の弟子として、戦闘の役に立ててないことに対する不甲斐なさを感じていまして」

「いやいや、さすがに消極的すぎやしないかい? 料理人として欠かせないし、俺や仲間の心のケアだってやってくれている。それだけで感謝でいっぱいだぞ。適材適所なんだから気にするなって」

「むう〜、なんだが言いくるめられている気がします……」

「まあ、納得できる言い方をするなら、白魔術を使えるだけじゃ俺のフォローは難しいということ。攻撃スキルがあることで初めて、お互いをフォローできる陣形が組めるからね」

「攻守をスイッチできるということですか……。なるほど……まだまだ私では力不足みたいですね」

「納得してくれたかい?」

「ええ、悔しいですが納得しました。ですが、この旅の間も無理しない範囲で修行は続けようと思います。ヒールが一回でも使えれば、九死に一生を得ることもあるかもしれないですからね」

「はは、相変わらずの頑張り屋だ」

 

 そう言うと、ソーニャの頭に手が伸びて、優しく撫でられる。

 ふわっとした気分が心を満たし、無意識に尻尾が左右に動く。


「ひゅうひゅう、熱いねお二人さん」

「デレク!」

「……デレク、聞いてたんですか」

 

 聞き耳を立ててたのか、ニヤついた顔でからかわれる。


「いやあ、せっかくキスシーンを待ってたのに、期待はずれだよ」

「おいてめっ、殴られてえのか」

「殴りますよ」

「わー、夫婦みたいに息ぴったり————痛ってええええええええええ」

 調子に乗るデレクに、二人は同時にゲンコツをお見舞いした。

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