3章

第11話 クラスで過ごす

 思い返せば、コノカちゃんについては不自然なことばかりだ。

 本物のコノカちゃんは病弱だって言っていたけど、奏汰かなた君も才波さいば君もコノカちゃんに成りきっているとき病弱なそぶりをしたことがない。

 それどころか、コノカちゃんは戦闘に特化したキャラというようなことも言っていた。

 病弱な人を参考に作られたキャラでそんなことするかなあ?

 しちゃいけないわけじゃないけど、違和感はあるよ。

 お見舞い行くのに優秀な成績が必要って言うのも謎だし。

 そもそも才波さいば君がコノカちゃんと会ったのはお見舞いなのかな。

 あの時聞いておけばよかったって思うことが、あとからあとからどんどん出てくるよ。

 いつ聞こう……。

 ちらりと奏汰かなた君、才波さいば君を見る。

 昼休みの教室内。二人はそれぞれの友達と話して、って、あれ。才波さいば君と数人の男子が私を見ているような……?


「若ちゃん。さっき向こうの男子たちが、わかちゃんのこと話してたよ」


 一緒に話していた友達の奈都乃なつのちゃんがコソコソと教えてくれる。

 私の話?

 なんだろう……。気づかなかった振りしちゃダメかなあ。

 反応に困って、男子たちから目をそらしたのもつかの間、男子グループの一人から声がかかる。


永田ながたさーん。日曜、才波さいばと遊ぶってマジ?」


 ニヤニヤとからかうような声。

 男子の声は教室全体に聞こえるほど大きく、みんなの視線が一気に私に向く。

 視線が痛い。

 怖い。


「し、知らないっ」


 うつむきながら出たのはかすれた声だけだった。

 男子は、今度は標的を才波さいば君に変える。


永田ながたさん知らないってさ。ふられてんじゃん、才波さいば~」

「そりゃ知らねえだろ、言ってねえし」


 対する才波さいば君は視線なんて気にせず堂々と答えている。


「知らねえって……、勝手に予定立てるとかやばくね、お前」

「あとで言うつもりだったんだよ。つーわけで、永田ながたさーん、日曜空けといてなー」


 ひぃっ、またお鉢がこっちに回ってきた。

 うつむいててもわかる。みんな見てる。奈都乃なつのちゃんもどうするのって気づかわし気に見てる。

 早くこの場を終わらせたくて、必死で頭をコクコクと縦に振る。

 才波さいば君たちのグループは興味を失ったようにグループ内での会話に戻るけれど、でも、私を見てこそこそと話している人たちはいた……。



 掃除の時間は班ごとだから、奈都乃なつのちゃんとは離れちゃう。逆に違うグループの人と一緒になるから何か言われるんじゃないかって思ったけど、今のところ私に話しかけてくるのは奏汰かなた君だけだ。

 コノカちゃんのロールプレイをしている奏汰かなた君。

 普段の掃除のときは時折話すぐらいなのに、今日はずっとそばに居る。


「それでね、うちで猫を飼いはじめてね。若葉わかばちゃんは猫好き?」

「え、うん」

「良かった。今日遊びに来てよ。猫かわいいよ」

「う、うん」


 しているのは他愛のない話。

 えっと、うんと。


「もしかして化け物退治の話?」


 周りに聞こえないよう声を抑えて奏汰かなた君に耳打ちする。奏汰かなた君はきょとんと首を傾げた。


「猫の話だよ?」

「そうだけど、でも」

「──本当はさ、若葉わかばちゃんと正臣まさおみの関係聞いてきてって皆に言われてきたんだけど、聞くまでもなく知ってるから若葉わかばちゃんと話したってアピールだけでもしておこうかなって」

「あ……」

若葉わかばちゃんと正臣まさおみの親が友達同士でとかなんとか適当にごまかしておくから安心して」

「ありがとう。ごめんね」

「謝らなくていいんだって。悪いのは正臣まさおみなんだから。──なんだったら、好きな人がいるってことにしとく?」


 箒を手に奏汰かなた君がじっと私を見る。


「僕の名前出していいしさ」


 私にだけ聞こえる小さな声。

 奏汰かなた君の瞳は強い熱を帯びていた。

 それほどまでに私を心配してくれているんだ。

 優しい奏汰かなた君の負担になんてなりたくない。私もしっかりしないと。


「大丈夫、そこまでしなくても、皆に説明できるよう私が頑張るから」

「…………そっか」


 少しの間の後、奏汰かなた君が眉尻を下げて笑う。


「じゃあ、私は誤解だってことだけ言っておくね」


 みんなに聞かれてもいい声の大きさ。ここからの会話はコノカちゃんとしてってことなんだ。


「あ、遊ぼうって言ったのは本当だから。放課後、うちのマンションまで来てね」


 お願いするように両手を合わせる。

 でもよく見れば少し手の角度が違って、あれは本を閉じる仕草だった。

 私たちにだけわかる合図。

 ロールプレイの始まり。

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