第9話 戦闘開始
「なあ、
「……あっ、俺か」
私が呼んで数秒経ってから
「
「今は
「それはそうだけどさあ。まあ、いいや。何?」
「実はさっき、さ……」
「え、マジか。そこまで動けるように……!」
と、驚きの声を上げた後、
「でも助けたってことはもしかしたら……、あーくそっ」
と、頭をくしゃくしゃとかき乱す。
「なんだよ、俺がわかるように言えよ」
「いや俺が言っていいのかわかんなくて。やー、まあ、でもどうせわかることだしいいのか?」
自身を納得させるようにぶつぶつと呟いてから、
曰く、
「
「んぇっ、どういうことだ?」
「
「でも
「5年2組に通う
「そうなんだ。じゃあ、悪態ついてたのは何なんだ?」
病弱な人が元気に動いた話を聞いて「あーくそっ」はないんじゃないかな。
「病人がそう簡単に動けると思うか? 俺たちがしているように他の誰かがロールプレイしてる可能性だってあるだろ。いろいろ考えてんだよ、こっちも」
「はいはいはいっ! オレ、オレ見抜ける! コノカちゃんわかる!」
「知ってる、だから誘ったんだ」
「マジか。純粋にオレのこと認めてくれたんだとばかり」
「いや素の
あっ、心に傷を負った。
言葉のナイフが人を傷つける。
知ってる、本当の私がダメな人間だってことくらい。
本物のコノカちゃんと会って友達になりたいなんて思ったけど、
所詮これは偽りの姿。
……って、ダメだ! 油断するとどうしても素の自分が出てしまう。まだ上手に切り替えできるほどロールプレイできてないから心までなり切ろうって考えてるのに。
パンッと己の頬を叩き、気持ちを切り替える。
「
「急に自分で自分を叩いたからびっくりした。……興味あるか?」
「ある!」
「よしっ、なら
「確かに! 頼もう」
腰に手を当て、
少しすれば
「お待たせ。次の出現場所がわかったよ……って、カツヤ君、どうしたの?」
「コノカちゃんと会わせてほしいって頼もうと思って待ってた」
「圧つよ……」
ずずいと近寄れば、
「悪いけど、僕の一存で決められることじゃないから」
「会いに行くの難しい?」
「そりゃあ、まあね。
「妖怪退治百体突破」
こともなげに
「えっ、百! もしかして
思わず出た言葉に、
「もしかしなくても俺はすごいんだよ。言ったろ、俺は
「すげー」
「だろっ、もっと崇めろ」
「調子に乗りすぎ」
ふんぞり返る
「出現場所はこの公園、時刻は今だって。
「ちぇっ、わかってるよ」
「『隔離世』」
その瞬間、周囲の空気が一変する。静寂が満ちる。
昨日、学校で他の人と会わなかったのと同じ。
私たちだけの空間。
退治をするための空間。
「いいよなー、
「カツヤには無理無理。で、
なんで無理なんだよ、と言いたかったけれど、それより先に
「……いざというときはちゃんとプレイするし」
「あっそ。じゃああとは俺たちに任せてな」
しっしと追い払うような仕草で
二人にはわかるやり取りなんだろうけど、私にはわからない。
ロールプレイをしないと戦えないってことなのかな。
「
「生身の人間が相対したら死ぬだろ」
何を当然と言わんばかりの表情で
「じゃあオレ達ロールプレイしてる人間はどうなるんだよ」
「致命傷を負っても本体は大丈夫だ。死なない。心に傷を負うぐらい」
「それは大丈夫って言うのか?」
「勝てばいいんだよ、勝てば!」
あ、そのセリフ、
今だってコノカちゃん、というか
でも今隣にいるコノカちゃんは
「怪物と戦うコツを教えてやる。ひるまないこと、驚かないこと。心を強くもて。ビビッて動けなくなったらそれでおしまいだ」
どこから敵が姿を現してもいいよう周囲に目を向ける。
ひるまないこと、驚かないこと。
吸血されるまで姿が見えない、とも。
あれ、じゃあ、目でとらえようとしてもダメなんじゃ。
「なあ、
「っらぁ!」
「!」
拳が地面に当たったわけではない。
でも、何かがぶつかったように砂煙が立つ。
「な、どうした!」
「気をつけろ、敵が来た」
「!」
もくもくと立ち上がる砂煙が徐々にひいていけば、襲撃者の正体が見えてくる。
衝撃で透明性を失った赤黒い生物。生物と言えるのかもわからない。顔も手も足もなく、ただ血液を吸い上げるための無数の触手と、獲物を刈り取るための鉤爪を有した未知の物体。
奇妙で、おぞましくて、人の精神をすり減らす得体の知れなさを宿した不可思議の存在。ソイツを目の当たりにしてしまう。
────。
──。
「ッハーーーー」
盛大に息を吐き出す。
うん、大丈夫。
事前に
「やるぞ、カツヤ!」
「おうっ!」
一番最初に動いたのは赤黒い生物。狙いは私。
捕まらないように動き出し──。
「ふぎゃっ!」
こけた。
盛大にこけた。
ひざは擦り剝け、足に延ばされた触手で血液が奪われる。一度に吸える量に限りがあるのか吸血が止まった隙を見て逃げ出したはいいものの、思うように力が入らない。
「くらいやがれ!」
代わりに
くそぅ、やられたままで終われるかっ。
力のない足で蹴りを放つけれど、避けられるまでもなく空振りに終わる。
それでも、次は避けてみせるという意地で伸びてきた触手をかわし、そのままこぶしを振り上げる。が、当たらない。足に力が入らなくて、直前で失速してしまう。
元の身体の運動神経は関係ないって聞いてたのに、これじゃあただの
戦闘の才能がなさすぎる。
戦闘慣れしている
相手にとってより厄介なのは
面倒な相手を先につぶそうとでも考えたのか、標的を私から
触手が
苦悶の表情を浮かべる
がむしゃらに体を動かして敵を振りほどき放った拳は、二人分の血を吸って力を蓄えた相手には届かない。それどころか、力の入らない
このままじゃ、
「『プレイ』№32。ゾーイ・ミラ!」
声がして、
癖のある長い赤髪を一つにまとめた長身の綺麗な女の人。
全然違うのに、わかってしまう。
この人、
「カツヤッ、動け! 蹴れ!」
「はっ、はいっ!」
見とれていたのをとがめるように命令され、反射的に足を動かした。
ドンっと、私の脚が怪物の身体に食い込む。
……当たった?
当たった!
表面が固いのか全力ダメージとまではいかなかったけど、それでも当たった。ようやく当たった。
やったぁ。
「ぼさっとするんじゃないよ。次に備えな」
感動する私に
「ちんたらちんたら、と。おい、クズっ、さっさと倒しな」
こ、
「ロールプレイのめりこみすぎだろ……。でも助かった。感謝する」
私の蹴りで距離を取っていた怪物が、再び襲い掛かってきた。対象はまたもや
「避けなっ、正臣!」
「わかってる」
二人のやり取りを聞きながら、私は
「
「
二人が私の名前を呼ぶ。
わからない。
でも、とにかく、こう思った。
こっちが早いって。
「いまだ、こいつをやっつけろ!」
私の声を聞いて
九重君は銃で、
それぞれの攻撃方法で敵を倒そうとして、より早かったのは
赤黒い生物はピクピクと動いた後、さらさらと塵となって消えていく。
一瞬の静寂。
塵がすべて風に飛ばされ消えたのを見て、ようやく終わったのだと理解した。張りつめていた糸が解け、へにゃへにゃと地面に座り込む。
「終わったぁ~、緊張した~~、疲れた~~~」
もう本当に本当に、無事でよかった。戦うのって怖い。できれば今後は避けていきたい。
安堵の息を漏らしつつ顔をあげて空を見上げれば、
男の子二人、でも見た目はコノカちゃんと綺麗な女の人。
そして私は男の子の姿。
なんか改めて不思議な感じだ、なんて、のんきなことを考えていたら、
「え、あの、痛いんですけど」
「なんで飛び出した。言ってみろ」
「えっ、オレが囮になった方が早いかなっていたたたたた!」
さらに強くつねられる。
「死んだらどうするんだ」
「死ぬことはないって
「俺のせいにすんな。心に傷を負うっていったろうが!」
なんで、なんで。私、頑張ったのに。
「いひゃいひゃいっ、ごめん、悪かったって」
「二度とこんな真似をするなよ」
うぅ、ほっぺたが痛い。
「『エンド』」
「足すりむいてたよね、そこだけでも治療するから見せて」
気づかわし気に尋ねてくるその様子もまさしく
「このくらい放っておいても治るから平気だけど……、
「……」
「格好いい女の人だった」
「……」
「どんな設定で、何て名前なんだ?」
「や、やめて、僕のことはいいから」
「えー、なんでだよ。もっと教えてくれたっていいだろ」
「やめてやれ、カツヤ。こいついっつもこうなんだよ。あとで恥じるくらいなら、もう少し抑えりゃいいのにな」
「全力で演じたほうが楽しいんだからいいだろ。調子も上がる気がするし。でもそれを普通の時に言われるのは照れ臭いんだよ」
「はー、中途半端な奴。ロールプレイも早々にしまいにしやがって。カツヤを見ろ、まだ役になりきってるぞ」
「あ、これは戻り方がわからないから。エンドって言えばいいのか?」
「ごめん、教えてなかったね。ロールプレイを終えるって言う気持ちを持ちながら、一言いうか、一つアクションするかすればいいよ」
なんでもいいなら、どうしようかな。
えーと、キャラの物語の締めでもあるしやっぱりこれかな。
「『めでたし、めでたし』」
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