27 本物の魔女
思わぬタスマの引退宣言に、テイト・ラオはなんだか気持ちが落ち込んだ。だが、本人がそう言っている限り、言えることは何もない。
テイト・ラオはタスマに礼を言うと、報告と相談をするために師匠キュウリルの元へと足を向けた。
「ふうん、じゃあタスマのおかげでほとんど方がついたってことなんだね」
「ええ、まあ一応は」
「そんで8割はなんとかなった、残りの2割ってのは?」
「それは、ベアリスさんの気持ちが本当に落ち着いて、周囲に呪いを飛ばさないようになるのを待つということと、タスマさんの守り札のことです」
「タスマのお守りがなんで?」
「ええ、中途半端な魔力が呪いの
なんとも気まずい結果になったと、テイト・ラオはそこで言葉を途切らせた。
「考えてもらうって、それは何をどう考えてもらうつもりだったの?」
「できれば守り札をやめてもらった方がいいかもと思ったら、タスマさん自身が引退するって。そこまでは思ってなかったからなあ」
「はっ!」
キュウリルは馬鹿にするように一言だけそう言った。
「ちょ、なんですそれ」
「呆れたって言ってんのよ。なんならもう一回言ってあげようか? はっ!」
そう言われてもテイト・ラオには師匠がなんでそんなことを言うのかさっぱり分からない。
「あの、僕の何にどう呆れたんでしょうか」
「1割は分かった。ベアリスの力が暴走しなくなるのを待つ。それから、自分の気持ちを自分で飲み込んでしまわずに、言いたいことはきちんと言うようになること。元々、そういうはっきりした子だったのが、なんだか分かんない悪口で内に
「そ、そういうことです。だったらタスマさんのお守りのことですか?」
「その通りよ」
ますます意味がわからない。
キュウリルは本物の魔女だから、多分人が名乗る魔女は「魔女もどき」ぐらいに思ってるんだろうとテイト・ラオは考えていた。その「まがい物」が作るあまり力のない守り札など、本物からすると不愉快ではないのだろうか。
「あんたさ、もしかしたらタスマは偽物の魔女だって思ってんのよね、違う?」
「いや、偽物とまでは言いませんが、本物の魔女はやっぱり師匠みたいな生まれついての魔女かなと」
「はっ!」
キュウリルはさっき以上の強さでそう言う。
「だからあんたは分かってないっての。タスマは本物の魔女よ、だからその守り札ってのも本物。その魔女が作った本物の守り札にいちゃもんつけようなんて、百年、いや百万年早いっつーの!」
「ええっ!」
ますますわけが分からない。
「で、でも、やっぱり師匠とタスマさんでは格が違うんじゃないんですか? 師匠だってそういうこと言ってましたし」
「あたしが? あたしがなんて言ったって?」
「ええっと、前に確かこう言ってたんですよ、魔女には二通りあるって」
テイト・ラオは必死に思い出す。
「師匠みたいな生まれつきの魔女と、それから人ががんばって魔女になる者。どっちがすごいかは言うまでもないだろうって」
「ああ、それね。言った言った。で、あんたはそれでどう思ったの?」
「いや、やっぱり生まれつきの魔女の方がすごいんだなって」
「はっ! はっ! はっ!」
三連発だ。
「あんたね、子ども産める?」
「ええっ!」
なんかとんでもない方向から責めてこられた気がするが、どういうことだろう。
「う、産めません」
「なんで?」
「なんでって、そりゃ僕が男だからでしょう」
「じゃあ、誰が産める?」
「え、そ、そりゃ、女性ですよね」
「そういうこと」
「え? え? え?」
やっぱり何を言われているかさっぱり分からない。
「いい、よおく聞きなさいよ。魔女は生まれつき魔女、だから魔法使えて当たり前。ここまでは分かる?」
「は、はい」
「じゃあ人は? 人は普通魔法使える?」
「えっと、僕は使えないのでよく分かりませんが、まず使えないのではないかと」
「よね? じゃあ、修行の末に魔法が使えるようになった魔女、タスマはすごいと思う? 思わない?」
「あっ……」
テイト・ラオはやっと師匠の言わんとすることが分かった気がする。
「どう思うかって聞いてんだけど」
「いや、すごいと思います」
「よね? だったらどうよ、生まれつきその力を持ってる者と、努力で手に入れた者、そりゃがんばって手に入れた方がすごいでしょうよ」
そういう意味だったのか。テイト・ラオは納得しながらもなんとなく納得できない。
「で、でも、力としては師匠の方がタスマさんより上ですよね?」
「そりゃそうよ、魔女だもの」
「だったらやっぱり師匠の方がすごいでいいんじゃないんですか?」
「あのね、あたしはすごいんじゃなくて、使えるように生まれてるの! だけど、元々ないものを努力で手に入れた、そんだけのことをやり遂げたタスマはやっぱりあたしよりすごいのよ! タスマも本物の魔女なの! そこんところをあんた、よく理解しなさい!」
何年ぶりだろう、師匠にこれほどこっぴどく叱られたのは。テイト・ラオは少しばかり身が縮こまる思いだった。
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