21 主治医
テイト・ラオは今までのことから総合的な結論を出した。
「大体のことは分かったんじゃないかと思います」
「本当ですか!」
クラシブが目を輝かせながら身を乗り出す。
「多分ですが、治療の方向性は分かったと思います。ですが、治療方法がちょっとどうしようかなあ……」
テイト・ラオがそう言いながらペンの尻で頭をカリカリかくと、クラシブと乳母が不安そうに顔を見合わせる。
「あ、大丈夫です。怖いこととかむずかしいこととかをするわけじゃないです。ただ、その方法なんですよね、どうするのが一番いいかなと考えてました」
テイト・ラオは今までのところの結論をまとめて2人に話し、必要なことを決めた。
「じゃあ、その方向で構いませんか?」
「ええ、ベアリスがそれで楽になるのなら」
「私もそう思います」
クラシブも乳母も、その方向で同意する。
「じゃあ、明日から動きますね。今日は帰って色々と用意しないといけないし、頼みにも行かないと」
翌日、テイト・ラオは再びタスマの庵を訪れた。
「ええっ、それじゃあなんですか、私がベアリスさんの治療をするということなんですか!」
話を聞いてさすがにタスマが驚いた声を上げる。
「ええ、どう考えてもそれが一番の方法だと判断しました」
「ですが……」
タスマは少し考え込む。
「僕は、タスマさんはベアリスさんの一番の主治医だと思ってるんですよ」
テイト・ラオはタスマに納得してもらえるように、じっくりともう一度説明することにした。
「ベアリスさんに呪いをかけている人、それはべアリスさん本人です。これは間違いないと思います」
あの日のベアリスの様子を見ていて、テイト・ラオはそう確信を持ったのだ。
「だから、守り札を出してもお守りを身に着けさせても、魔除けのハーブを炊いても無駄なんです。一時しのぎにしかならない。この場合やらなければならないのは医者の領域、患者の心を穏やかにし、自分がやっていることが間違いだと気づかせることです」
「ですが、だったらやっぱりラオ先生がおやりになった方がいいんじゃないですか?」
「いえ、だめです。タスマさんがやるのが一番いい」
テイト・ラオは優しい微笑みをタスマに向けた。
「ベアリスさんの症状がここまでひどくなってしまった原因、それはタスマさん、あなたにあるからです」
「私にですか」
「そうです。タスマさんがベアリスさんの亡くなったおばあさんに似ていたこと、それが今回の事件に拍車をかけていると僕は判断しました」
テイト・ラオの判断はこうだ。
ベアリスは街一番の美男で「欠けるところがない」と言われているクラシブと結婚をした。そういう人にはしばしば妬みの目や羨望の目が向けられる。時にそれが呪いにならないこともない。そういう人をテイト・ラオも、そしてタスマも何人も見てきている。
「だから、普通ならそれだけで結構終わってしまうことなんです。呪いを受けている本人がこれでもう大丈夫、そういう強い気持ちを持つことでそんな呪いなんてはねつけてしまいますからね」
だがベアリスの場合は少し違った。
「おそらく、ベアリスさんは自分に自信がない人だった。もしかしたら誰かに直接何か言われたとかされたとか、もしくは自分について悪口を言われていることを耳にしてしまった。その時にクラシブさんにふさわしくないとか言われたのかも知れない。そして自分でもその通りだと思う気持ちがあったので、まず気持ちが負けてしまったんでしょうね」
自分は夫に選ばれたのだ、そう言って何度も勝つ、勝ちたいと言っていたことからそうではないかと判断した。
「そんな時にタスマさんを見かけて、亡くなったおばあさんと似ていたことからこの人に話を聞いてもらいたい、そう思って軽い気持ちで話しかけた。そうしたら思った以上におばあさんに似ていることを見つけてしまい、すっかり依存するようになった。タスマさん、ベアリスさんから、何かこういうところが特に似ていると言われたことはありませんか?」
「ああ、あります」
タスマにも心当たりがあるようだ。
「なんだか、話の最後に私がそうだろう、とか、そうでしょう、とか言った後に少し首を傾げる仕草がそっくりだ、そう言ってましたね」
「じゃあ多分それでしょうね」
ベアリスはタスマの中にますます祖母を見て、タスマが祖母そのもののように思い込むようになった。
「だから一つはそれです。タスマさんに会いに行ける理由があればまたおばあちゃんに会える、そんな気持ちから足繁く通うようになったんだと思います」
「じゃあどうしてどんどんひどくなっていったんです? 私に会いたいだけなら、同じことを繰り返すだけでいいでしょうに」
「それがさっきの勝ちたいにつながるんじゃないかなあ。おそらく、タスマさんに会った後、ベアリスさんは無敵な気持ちになっていたと思いますよ。自分には魔女がついてる、魔女にもらった守り札とお守りがある。それにおばあちゃんも私を守ってくれている。おまえたちになんか負けるものか。そういう強気になって他の女性たちにその目を向けてたんでしょうねえ」
そしてその目を向けられた女性たちが呪いを受け、テイト・ラオのところを訪れていたというわけだ。
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