14 タスマとの会食
翌日、午前の診療を終えると約束通りテイト・ラオはラクカタの森に向かった。
「すみません、お邪魔します。タスマさんいらっしゃいますか?」
「おや、ラオ先生また何かご用事ですか?」
タスマは忙しそうに何かの準備をしているところだった。
「いえ、この間はいきなりお邪魔をしてしまって失礼だったなと思いまして。お昼をご一緒にどうでしょう」
師匠キュウリルのところへ持って行ったのと同じ物を買ってきた。
「おや、この匂いはモリアンの店の肉の煮込みじゃありませんか?」
「え、すごいなあ、鼻が効きますね。そうです、僕はこれが大好物で」
テイト・ラオが紙袋を掲げて見せると、タスマもしわだらけの顔をゆるませて笑った。
「私もあの肉は大好物ですよ。とても誘惑を払いのける勇気がないので、喜んで」
こうしてテイト・ラオはタスマの正式な客となった。
師匠キュウリルと食べた同じ食事を、同じような話をしながら食べ終わる。
「はあ、本当にごちそうになりました。やっぱりこの煮込みは絶品ですね」
「そうなんですよ。こういう特別な時にはやっぱりこれに限ります」
「で、本当は一体どんなご用でいらっしゃったんです?」
テイト・ラオははははと軽く笑い、
「そうですね、正直に言った方がいいですよね」
前回訪ねた時にはさらりと本当のことを言えと流された。タスマはそういう持って回った言い方を嫌うタイプだとあの時に学んだはずだ。そして、ミユーサに重々言われているように、バカ正直に言ってしまうのではなく、相手の気持ちを考えながら話すこと、だ。
「こちらに来られるある患者についてなんですが」
「
そうだった。ここに来る人はあくまで「客」なんだった。
「すみません、つい自分の感覚で。こちらに来られるあるお客のことなんですが、その家族の方からちょっと相談を受けたんです」
タスマは返事をせず、黙ってお茶を一口飲んだ。聞いてはいるようなので続けてもいいんだろうなと判断し、テイト・ラオは続ける。
「こちらに来た後は調子がよくなるのだが、その後でまた具合が悪くなる。一体何が起きているのか知りたい、ということでした」
この言い方でよかったかなとテイト・ラオはドキドキしながら考えていた。できるだけタスマの自尊心を傷つけず、それでいて本当のこと。自分にはこれで精一杯だ。
「さようですか」
タスマはそう言ってまたずずっとお茶を一口飲んだ。
「前も言ったんですけどね、うちに来るお客のことは申せません。守秘義務というものがありますから」
また魔女の口から出るにはあまり似つかわしくない言葉が出てきた。
(これを持ち出されると厳しいんだよなあ。でもその通りだからどうしたらいいものか)
テイト・ラオは思わず少し困った顔になる。だが、タスマが意外な申し出をしてくれた。
「お客の秘密についてはお話はできません。ですが、そのご家族のご心配もとてもよく分かります。ですから、もしも、お困りのご家族のために力になれることがあれば、お話を伺ってもようございますよ」
「いいんですか! あ、ありがとうございます!」
一気に気持ちが楽になった。
「ただ、勘違いしていただきたくないので、先に申し上げておきますけど、どうしてそのお客がうちに来るのか分かりますか?」
「その客がここに来る理由ですか。いえ、分かりません」
言ってしまってからちょっと失敗だったかなと慌てる。まるでタスマの腕が悪いのにどうしてか、という意味に取られないだろうか。せっかく協力してくれると言ってるのに。
「いや、あの、こちらが信用できないとか、そういうわけではなくですね、そのお客の気持ちが分からないと言いますか、あの、えっと」
言えば言うほどまずくなる気がする。
「いえいえ、構いませんよ」
またまた意外にもタスマはほほほほと笑ってくれた。
「私だって自分のことはよく分かってます。だからこそ、どうしてそのお客がうちに来るかを説明してあげられるということですよ」
「はあ、すみません」
テイト・ラオはただ謝るしかできなかった。
「まず気楽だということです。お医者に行ったり、キュウリルさんのところに行くほど深刻ではない、だけどちょっとした手助けはほしい、そういう方がまずいらっしゃいます。それから、今よく来る若いお嬢さん方は、それこそ遊び半分ですね。ですから、ちょっとした守り札やハーブ、お守りやアクセサリーなんかを持たせたら、もうそれで満足するんですよ」
「はあ……」
「先生もそのへんはおわかりでしょう? じゃあ、そのうちに来て一度は落ち着いたのにまたひどくなる方、その方はどうしてかと言うと、まずはやっぱり来たことで満足する、それが一つです」
タスマはなんとも冷静に自分のことを分析してみせる。もしかしたら、この魔女はなかなかに大した人なのではないだろうかとテイト・ラオは思った。
タスマは人から魔女になった人。本物の魔女ではない。だからあくまで魔女っぽいだけのいい加減な仕事をしている人だと思ってしまっていたが、話を聞く価値はありそうだ。きっと信頼もできるとテイト・ラオは自分の思い込みを反省した。
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