第3話 衝突

その女性は、ミライが勝手に離れてどこかに行っていたことに怒っているようだった。


「どこに行ってたの?」


と少し起こった口調で、ミライに聞いてくる。

 

「ごめんなさい」


とミライは素直に謝る事にした。


「扉があったからつい好奇心で入っちゃって」


ミライが扉の前でそう説明すると、彼女は不可解なことを言われたような顔をした。


「扉なんてどこにあるの?」


そう言われて、ミライがさっと振り返るとそこには扉が無い。ミライが驚きながら、


「あれ、さっきまでここに扉があって...」


ペタペタと扉があった場所を触って見ても何もなかった。

その様子を見ていた彼女は少し何か考える素振りを見せた後、またミライの手を引っ張って、どこかへ連れて行こうとし始める。


「また、扉が見えたら教えて」


そう彼女は言うと、どんどんと道を進んでいく。

ミライはそんな彼女のされるままになっていた。


ミライは手を引かれながら色んなところに連れて行かれた。

周りに何もない、空に浮いているエスカレーターだったり、たくさんの分かれ道があるガラス張りの道路だったり、そうしてたくさんの場所を訪れているとまた、ミライは扉を見つけた。


「あった!」


「どこ?」


「ここ」


そこは一見何もないような壁だったが、よくよく見ると前より大きな扉がうっすら見えた。

彼女は扉があると言われた場所に手を触れた。

すると、くっきりとその場所に扉が目に見えるようになる。

彼女もその扉が見えるようになったようで、驚いた目で扉を見ていた。

見えるようになった扉は、両開きのもので大きく、おしゃれな紋様が付いていて高級感があった。

彼女は慎重に、その扉をゆっくりと両手で開けた。


開けた中は広々とした部屋で、複数人がいるようだった。

そんな部屋にゆっくりとミライと彼女は入っていく。

入って見てみると、中央には豪華なソファー二つとその間にあるガラスのテーブルがあり、そこに男が一人座っていた。

その周りでは、ヘッドフォンで音楽を聴いている人が壁にもたれ掛かっており、イヤホンで何かを聞きながら歩き回る人や、懸垂している人、縄跳びしている人がいた。 


「部屋の中で縄跳び?」とミライも疑問に思ったが、まずは部屋に入ってきたことを説明しなきゃいけないと考えた。


「あの」


「だれだよ、こんなお嬢さん達を招待した奴」


ミライが話しかけるより早く、中央のソファーに座っている男が話し始めた。

その男は話しかけた後、周りの人達を見渡したが、返事がないのを確認すると、頭をかきながら


「招待状はある?」


とミライ達に聞いてきた。


「ない」


と彼女が答えると、彼は明らかに困惑していた。


「ないのか...まあ、いいか」


そう言うと、彼は自分自身が座っているソファーの向かい側のソファーに手を差し伸べた。


「とりあえず、座って」  


言われた通り、ミライと彼女は座る。


「招待状がないならどうやって入ってきたんだ?」

 

ミライ達が座るなり、彼はそう聞いてきた。

それにミライが答える。


「扉が見えたの」


「扉?」


「そう、扉。ぼんやりと見えた扉に触れたらくっきりと見えるようになって、そこに入ったらここに来たの」  


「それはおかしいな、招待状なしでは入れない設定になってるはずだぞ。見えたとしてもオートロックが掛かってたはずだ。」


話が噛み合わず、二人して首を傾げた。

そんな時、横から彼女が話し始めた。


「ここの人たちは何をしているの?」


それにその男が答える。


「何って何もしてないさ、ただの知り合いの集まりだよ」


その事について、ミライは部屋に入った時から気になっていた事を聞いた。


「ねぇねぇ、なんでここにいる人達って縄跳びとか懸垂をしてるの?」


「そりゃ空間こそがか「おい」


ミライと彼が話している時、突然横から別の男が話しかけてきた。

 

その男は手にスタンガンのようなものを持って、それを向かいにいる彼に向けている。


「マスターキーをよこせ」


そう言った男は姿がぼやけていて、うまく体の輪郭が認識できないようになっていた。

周りを見渡すと、他にいた人達もモザイクが掛かった見た目になっており、ミライ達の方を見ている。


「みんなグルだったってわけか」


「そこの嬢さんら以外はな」


彼とその男、二人は会話している。


「痛い目に遭いたくなければさっさとよこすんだな」


男は彼にスタンガンらしきものを押し付けて脅した。

その時、彼女が席を勢いよく立って、向かいのソファーにいる、その男に飛びつきにいった。

それに反応して、周りにいる男が彼女を止めようと動く。

それに合わせて、彼が男がいる方とは反対の手を挙げようと手を動かしていた。

彼の手の動きを止めるために、男はスタンガンを持つ手に力を込めた。

そんな時、ミライにはスタンガンが彼に当たる直前、急に電源が落ちるのが見えた。


「E(Emergency)コード」


彼は片方の手を挙げてそう宣言する。

すると、部屋にいる彼以外の手に突然、手錠がかけられた。


「あれ」 


「うっ」

 

「なにこれ」 


「ああ、ごめんね、今外すよ」  

  

そう彼は、ミライと彼女に声掛けた。


「ガキンッ」 


彼が手をかざすと、二人の手錠は取れてなくなる。


「緊急時のコードなんだ、無差別に手錠が掛けられるから、二人にも掛かってしまったんだ」


彼はそう説明する。

 

そんな時、彼女は天井を見ながら


「ありがと...」


と声掛けていた。

それに返事するように、天助に付いている蛍光灯が「カチカチ」と光った。


「助けてありがとう、そういや名前をまだ聞いてなかったな」


「俺はコウ。あなた達は?」


その問いかけに二人は答える。


「私はミライ」


「ユニ」


彼は笑顔でミライとユニに話しかける。


「ミライさん、ユニさん、お礼をちゃんとしたいのは山々なんだけど、俺はこの人達を警備の人に突き出さないといけないし」


コウさんは、周りに手錠をされて倒れている人たちを見て言う。


「とりあえず、今日はこれで解散でいいかな?」


「はーい」


「分かった」


ミライとユニが返事をして、帰ろうと席を立つと、何か思いついたのかコウはあわてて話しかけてきた。


「そうだ、招待状を渡しておこう」  


そう言うと、コウはポケットから出したカードを二人に渡してくる。


「また遊びにきてくれ」


そうして、三人は手を振りながら別れた。


コウの部屋を出てミライとユニは二人きりになる。


「...帰ろうか」


ユニはそう言ってきた道を戻ろうとする。

そんなユニにミライは話しかけた。


「あの...ユニさん」

 

「ん、何?」


ミライは畏まった態度でユニに話す。


「また、会えますか?」


その質問に対して、ユニは背を向けながら


「会えるよ」


と答えた。

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