第2話 遭遇

空を飛ぶロボット、つまりドローンをミライは物珍しそうに見上げている。

目に映る空、地面、壁などの景色全てが、ミライにとって目新しく映った。

そんなミライのことを、そこにいることがおかしいと言いたげな驚いた表情で、一緒に駅のホームへと降りた背の高い女性は見ている。

そんな彼女の様子にも気付かず、ミライは周りの景色を珍しいものでも見るかのように熱心に見ていた。

その間に、一緒にいる女性は決心したような表情に変わり、そしてミライの手を取って引っ張った。


「こっちに付いてきて」


そう言うとその女性はミライの手をぐんぐんと引っ張ってどこかに連れて行こうとする。

ミライは彼女の手の引っ張る力に勝てず、そのまま為されるがままに彼女の求める場所へと連れて行かれた。


足元の光る点字ブロックに従って、彼女はどんどんと前に進んでいく。ミライはそうして移り変わる周りの景色を見ていることしか出来なかったが、これまで見たことがない景色を見ることはそう退屈はしなかった。

そして、周りの景色を見るのを楽しんでいると、ミライはあることに気づいた。


注意深く壁などを眺めていると、たまに景色が「ブレる」のだ。

ブレるとミライの目には景色が二重に見えて、もう一つの景色はまるで何もない簡素な見た目をしている。

手を引っ張られてどこかに連れて行かれているのに、ミライの頭は「景色がブレる」ことで一杯になっていた。

そうしてミライが景色を見るのを楽しんで進んでいると、気付けば歩道のエスカレーターに乗っており、彼女はミライと手を離している。 


「どこに連れて行かれるのだろう」とミライが疑問に思っていると、ふと景色の中に不思議なモノが映った気がした。

そこは光る掲示板が並ぶ壁であり、よくよく見ると掲示板と掲示板の間に扉のようなものがミライには見えた。

ブレて見えた景色では、そこにはボヤけた扉があった。

彼女にどこかに連れて行かれていたことを忘れて、ミライはその扉に近づいていく。

近くで見るとその扉は少し古ぼけた見た目をしており、覗き穴とドアノブがあって周りの景色とは見た目がかけ離れていた。


好奇心から、ミライはそのドアノブに手を掛ける。

ドアノブを引くと、そこは物置きのような狭い部屋で色んな物が置いてあり、その中央に鉄パイプに座った少女がいる部屋だった。

少女は無地の短パンと半袖を着ており、髪の毛はざっくりと切ってあって、まるで男の子のような見た目をしている。

部屋に中央にいるその少女は、ミライが入った事に驚いている様子であり、


「どちら様?」


とミライに問いかけた。

ミライはあわてた様子で


「ごめんなさい、扉が見えたからつい、好奇心で開けちゃったの」


と釈明した。


「そうなの?」


とその少女は納得すると、そのまま二人は見つめあった。


「これ、HISキットカー」


そう言うと、その少女は手に持ってきた小ぶりな車のオモチャをミライの方に突き出してきた。

よく見ると、その少女はもう片方の手にドライバーを持っている事にミライは気付いた。


「それ、自分で作ったの?」


そうミライが聞くと、


「そうなの!他にもね〜」


その少女は聞かれたことで嬉しそうになり、他にも何かを見せるためか、周りにある棚を漁っている。

その時、何かに気付いたのか漁る手を止めて、


「その子は何ていうの?」


と、ミライの方に掛けているカバンを指さしてミライに問いかけた。

ミライはしばらく沈黙した後、カバンから手のひら二つ分位の球体を取り出した。

それは、中央あたりに目の役目をするレンズと、その下に手足にある駆動部がついた球体であり、目は閉じられていた。


「この人はタマさん」


ミライはそう説明する。


「へー、あ!私も紹介するね」


そう言うと、その少女は近くにあった棚の上の方に向かって、


「おーい」 


と声を掛ける。

すると、棚の一番上にいた何かがその少女の胸の中へと飛び降りた。


「これはイヌ」


その少女はそれをそう呼んだ。


「ワン」

 

イヌは元気に返事をした。

そんなイヌをミライは物珍しそうに見ていて、「イヌ...」と呟いた。


突然インターホンのような音が鳴り響いた。

その音を聞いてその少女は壁にあったモニターの横にあるボタンを押す。


「パパどうしたの?」  


「そろそろ帰るから様子でも見ようと思ってな、元気か?」


その少女はその声かけに、


「元気だよー」と大きな声を返した。


「ならいいんだ、ん?」


「他にも誰かいるのか?」


「い、いないよ。イヌの様子を見ていただけ」


その少女はあわてた様子でそう返した。


「ならいいんだ、後でな」


そして会話が途切れると、その少女は少し急いだ様子で、


「パパが帰ってきちゃう」


と言いながら、ミライのことを部屋から出そうと手で押して誘導してくる。

突然思いついたような表情をその少女はした。


「あなたの名前、教えて?」


「私はミライ」


「僕はサキ。また、今度遊びにきてね」


「うん」


そう言うと、扉は閉まってしまった。

ミライが突然起こった様々なことによる情報を頭の中で整理していると、少し違和感を感じた。


顔の上の方が暗いなとと思って、顔を上げて見てみると、途中で別れてしまった女性の仏頂面が上に見える。


ミライに対して仁王立ちしながら、彼女は少し怒ったような表情で立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る