第17話 地獄へ

ボクは双剣を地面に突き刺し、撃子に向けてタックルをぶちかました。撃子本人に大した力量はなく、きよたに簡単に押し倒されてしまった

ボクは、 撃子に問いかけた。できるだけ冷静に声色を保ちながら

「撃子、なんでお前はこんな酷いことをするんだ?」

撃子は答えてくれた。酷く優しい声色で、まるでたった今行なった行動に意味があるとでも言わんばかりに。

「これは、君にとって意味のあることだった」

「こんな地獄絵図を生み出すことが...俺にとって意味のあることだと」

きよたはだんだんと怒りを自制することが難しくなってきた。フツフツと沸き上がる負の感情

優しすぎるきよただからこそここまでの憎悪を生み出してしまう。

「言え!誰に指示された!」

「生憎私には雇用主のことを話せないようになっている」

「話せないだと?なんで!」

「それが契約だからさ」

撃子の透き通る瞳がきよたを射抜く。その瞳には酷く狼狽した自分の姿が映る。お互いの瞳にお互いを映す。その数秒後撃子はきよたに抱きついた。

「この手は使いたくなかったけど仕方ないね」

撃子は諦めたような顔をしていたが、その顔とは違いきよたを逃しまいと華奢な女の子からは出せないような力できよたのその身を留めていた。撃子の体は赤く輝きだし、その輝きが一瞬増した。

凄まじい熱と爆風がきよたの体を襲う。きよたは合気道の応用『集』で自分の体を必死に守ろうと保護した。それでも撃子の命を燃やした自爆技はきよたを行動不能にまで陥れた。


「合図だ」

体に漆黒の衣を纏い顔は般若の仮面をした集団

その集団はリーダー格であろう男の言葉を聞きすぐさま、目標の命を刈り取ろうと目に負えないほどの速度で行動を開始した。その集団は学校の屋上から、きよたのいる教室へと向かい、きよたを目視で捉えきよたへとその凶刃が迫ろうとした時だった。

「そこまでだ」

静寂を切り裂く鈴のような声。身長は160をいくかいくないかのような風貌。逞しいとは言えない体。幼い少年のように見える。だがその声に誰もが注目をせざるほかなかった。

「何者だ?」

黒衣を着たリーダー格の男が少年に問いかける

「僕が何者かなんてどうでもいい。大切なのは彼の身の安全だ。そのためにお前らをここでまとめて葬る」

般若の集団と少年はこれ以上言葉を交わす必要は無いと理解し、互いに刃を向ける。黒衣の男が先手を打った。黒衣の部下たちは確かにその目で現状を理解した。少年はリーダー格の男に斬られ、血飛沫をあげているはずだった。はずなのに地に伏しているのは先程少年が斬られた場所から血を吹き出しているリーダー格の男だった。その不可解な状況に脳を追いつかせようと部下達は必死に考えようとしたがその時間はあまりにも速く終わりを迎えた。般若の部下たちは全身から血を吹き出しながら命が途絶えた

教室は地獄と言うにはあまりにも優しすぎる惨状となった。辺り一面は炎が渦巻き、教室の壁は焼け落ち、下を向けばおびただしい量の血液が地面を覆った。

少年ははぁと溜息をつき愚痴をこぼした。

「全く。これくらい自分でもできたでしょう。なんで僕なんかに依頼したんですか?」

「私が助けたということを『彼』には知られたくなかったからだ。」

そう答えたのは少年のように後ろに立っている

その声は掠れていて年季を感じさせる。口元には大きな傷を持った老人が少年と地獄のような場所で言葉を交わしている。

「とにかく、きっちり報酬はいただきますからね」

「ああ」

老人は掠れた声で少年へ答えながら、学校から出ていった。

「まあ、僕にとってもきよたくんは大切なお客さんだからね」

倒れているきよたに向かって優しく微笑みかける少年はきよたの意識を戻そうと呼びかけた。

「きよたくん。起きて僕だよエイダだよ。」

それからボクが目を覚ますのは数時間後だった


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