アンタの歌が聞こえなくても

@zawa-ryu

アンタの歌が聞こえなくても

こんな大事な夜にさ、アンタはやっぱりいないんだね。

アンタってばいっつもそう。

ワタシがいて欲しい時に限って、いつも隣にいないんだ。

今日だっていったい、どこをほっつき歩いてんだか。


それでいて、ワタシがホントにヤバくなった時には、

「Baby心配するな、俺がついてる」

そんな歌でワタシを守るの。


だけどさ、ケータ。

今日に限ってなんでいないの?

今日は、今日だけはさ。

アンタがいてくれなきゃシャレになんないよ。


こんな世界のはじっこで、今日みたいな日に置いてけぼりは酷いよ。

ホントはアンタに真っ先にさ、この子の声を聞かせたかった。


ねぇ教えてよケータ。

アンタはこの子にどんな声をかけるつもりだったの?

ほんのさっきこの世界に飛び込んできた、アンタと私が連れて来た天使。

剥き出しの感情を有り余るパワーでさ、世界に向かって喚き散らしてるよ。

ねぇケータ聞こえてる?

聞こえたんならお願い、返事ぐらいしてよ。


ワタシにはアンタの歌が聞こえない。

いくら耳を欹てても、世界中どこにいたって、ケータの歌がもう聞こえないんだ。


でもさ、

いいよ。

うん、もういいんだ。


アンタの歌が聞けなくなっても、ワタシは一人で悲しんだりしない。

だってさっきから、アンタのぶんまで背負い込んだみたいに、一生懸命ワタシに向かって、

「俺がついてる」

この子はきっとそう叫んでる。


だからさ、ケータ。

もしも天国にまでこの子の声が届いてるんなら、

安心してよ。

アンタの歌の代わりに、この子がワタシを守るってさ。


ケータの歌が聞こえなくても、

ケータの歌が、もう聞こえなくても、


ワタシは一人悲しんだりはしない。

ワタシは一人悲しんだりはしないよ。

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