シオン
パ・ラー・アブラハティ
シオン
花が散れば、日付は巡る。君は遠くへ行ってしまう。通り過ぎる背中を私はただ眺めている。
大きく優しかった背中は一人で生きていく術を身に付け、今飛び立とうとしている。白くふんわりとした羽、私の背中にはまだない。私の背中にあるのは君が一歩前に行ってしまう、哀愁と焦燥。
悲しい、と口に出せばその羽はもげてしまわないだろうか。もし、そうなら嬉しい。私の横にはいつも君がいてほしい。君の笑顔は太陽でどこまでも広がる海のようで、澄み渡る青空は君の為にある。
わがままを言うべきではない歳。割り切ってこの世界を生きていかなければならない歳。でも、私も人間だ。何歳になろうと、嫌なものは嫌で。
だけど、世界は残酷で。無理やりにでも割り切れというように時計の針を進める。
花が散れば、君が一歩前に行く。ヒラヒラと舞う花弁には思い出が詰まっている。
君と行ったアクアリウム。優雅に泳ぐ魚は未来への憂いなんてきっとない。顔に投影された淡い水色は哀しみの色。私も魚のように優雅に自由に。
私の腕には鰭がない。激流を泳ぐための術をもたない。でも、君はいつの間にか激流を泳ぐための鰭をもっていた。私はまだここに残っている。
花が散ってしまったら、君は行く。
大きな荷物を抱えて、君は船に乗る。
太陽を反射させる海は、未来への希望に満ちた君だ。君は鰭と羽をもって、大空へ羽ばたけ。私はまだここにいるよ、君をずっといつまでも待つ。
いつか、君が帰ってきた時におかえりと言えるように。
シオン パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
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