### 第5話:希望の光

瑠華は雷鳴の傍で彼の苦しみを見守りながら、


心の中で次第に自分の力量の限界を感じてい


た。雷鳴の傷は深く、彼の意識は再び薄れてい


く。彼を救うためにはどうすればいいのかを必


死に考えた。


「雷鳴、しっかりして!あなたがいなくなった


ら、私はどうしたらいいの…!」


瑠華は涙を流しながら、彼の頬に手を添えた。


彼女の絶望感が次第に膨れ上がっていくが、そ


の時、雷鳴が顔を上げて弱々しく言った。


「瑠華、俺を助けてくれるか…?村の近くに、


年老いた鬼の医者がいる。彼は特別な治療法を


知っている…」


雷鳴は彼女に必死に伝えようとした。


「でも、彼の治療法は…」


「何でもします。あなたを助けたい。お医者さん


のところに行きましょう!」


瑠華は握りしめた手で彼の手を強く握った。



雷鳴は、彼女の強い意志を感じ取り、微笑みを


浮かべた。しかし、その表情はすぐに苦痛に変


わる。


「その治療法は…君の血を必要とする。俺が君


の血を吸うことで、治癒の力を手に入れるはず


だ…」


瑠華は驚いたが、彼の言葉の意味を理解する


と、すぐに頷いた。


「それでいいの。私は大丈夫、雷鳴のためなら


何でもする!」


彼女の声には強い決意があった。


「そうか…。」


雷鳴は安堵し、瑠華の手を握りしめた。このま


ま彼女を守ることはできないかもしれないが、


彼女の温かい心が彼に力を与えていくのを感じ


ていた。


「さあ、急ごう!」


瑠華は雷鳴を支えながら立ち上がり、できるだ


け早く老医者の元へと向かうために森を進ん


だ。立ち上がることもままならない雷鳴を彼女


は支え、時折倒れそうになりながらも、彼の負


担にならないように気を配った。



路の途中、瑠華は雷鳴の言葉を思い出す。


「老医者は村の森を越えた奥に住んでいる…そ


して、鬼の中でも名高い医者なんだ…」


彼女はその言葉を思い出しながら、一歩一歩を


大切に踏みしめた。



やがて、二人は古びた小屋の前にたどり着い


た。瑠華の心は期待と不安でいっぱいになっ


た。


「ここが、先生のところ…?」


「うん、ここだ。」


雷鳴は弱々しく頷いた。


瑠華は小屋の扉を叩き、呼びかけた。


「誰か…いますか?」


少し時間が経つと、小屋の中から年老いた鬼の


医者が現れた。


「何の用だ?こんな時間に…」


彼の目は鋭く見えたが、瑠華は彼に向かって必


死に頼んだ。


「お願いです!私の友人が傷を負って…治療が


必要なんです!」


瑠華は自分の心の声を叩きつけるように訴え


た。


「ふむ、見せてみろ。」


医者は表情を引き締め、雷鳴の状態を見てすぐ


に察する。


「この傷、確かに深いな。だが、方法はあ


る。」


瑠華は胸を撫で下ろした。「本当ですか?治せ


るんですか?」


「だが、君の血が必要だ。彼の命を救うため


に、君が覚悟を決めることが大切だ。」


医者は真剣な眼差しを向けて、瑠華に説明し


た。



瑠華は心の中で、その重みを噛み締めた。


「私はその覚悟があります!」


彼女は即答し、雷鳴を助けたい一心で決意を固


めた。



医者は道具を準備し、瑠華に指示を与えた。


「まず、彼をここに横たえさせろ。」


瑠華は雷鳴を慎重に横たえ、彼の顔を覗き込


む。彼の目には痛みが宿り、意識が途切れそう


になっていた。


「大丈夫、雷鳴。すぐに治るから…」


彼女は優しく彼の手を握り、安心させようとし


た。



お医者は瑠華の腕に鋭い針を刺し、彼女の血を


取り始める。痛みを伴うが、その痛みは雷鳴を


救うためには必要なものだった。瑠華は必死に


耐え、彼を思い続けた。


「大丈夫…私はここにいるよ、絶対に助けるか


ら…!」


瑠華は思いの丈を込めて叫んだ。



そして、雷鳴の口に彼女の血が滴り、彼の体に


流れ込んでいく。医者は彼の傷を手際よく処置


し、その様子に瑠華も目を離せなかった。彼女


は雷鳴が元気に戻ることを祈りながら、全てを


捧げていた。



時間が経つにつれて、徐々に雷鳴の表情が落ち


着いていくのを感じた。


「やった、これは成功だ…!」


瑠華の心に希望の光が差し込む。



最終的に治療が終わると、老医者は一息をつい


て言った。


「大したもんだ、君の優しさが彼を救った。雷


鳴はもう大丈夫だ。」


「本当ですか…?」


瑠華は涙を流しそうになり、老医者を感謝の気


持ちで見つめた。


「彼は少しの間休む必要があるが、きっと元気


になるだろう。」


老医者は優しく微笑み、阿吽の呼吸を整えた。



瑠華は雷鳴の綺麗な顔を見つめ、彼が少しずつ


意識を取り戻している様子を見て胸がいっぱい


になる。


「雷鳴、頑張って!もう少しだから…!」


雷鳴は目を開き、瑠華を見つめた。


「瑠華…やったんだな…俺を救ってくれたの


か?」


「うん、あなたを守りたい一心で…」


瑠華は泣き笑いしながら彼の頬を撫でた。


「嬉しい、ありがとう…全ては君のためにでき


たことだ。」


雷鳴は微笑むが、まだ弱々しい。彼の気持ちは


瑠華への感謝でいっぱいだった。そして、彼ら


の心はしっかりと繋がっていた。



瑠華の努力と雷鳴の強さが、彼らの未来を照ら


す明るい希望となり、二人は互いの存在の大切


さに気が付いていた。


「私たち、一緒に乗り越えられる。これからも


ずっと…一緒にいるから…」


瑠華は心の底からそう願った。



雷鳴は彼女の手をぎゅっと握り返し、微笑を浮


かべた。二人の絆が、さらに強く深まっている


ことを感じながら、未来を共に歩む決意を新た


にした。


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