### 第2話:逃避行の始まり
瑠華と雷鳴の間に、少しずつ信頼と心の絆が芽
生えていたが、その静かな時間は長く続かなか
った。ある晩、瑠華は雷鳴の隣で過ごしている
と、ふと耳に入ってきた大きな声に驚いた。
「瑠華!どこにいるんだ!」
その声は、かつて瑠華を虐げ、冷たい視線を向
けてきた村の悪童、響(ひびき)だった。彼女
の心臓は一瞬震え、思わず雷鳴に顔を向けた。
「彼らが、私を探しに来ている…!」
「落ち着いて、瑠華。私が君を守るから、すぐ
に隠れる場所を探そう。」
雷鳴は優しく彼女の手を握り、少しでも安心感
を与えようとした。
*
瑠華はうなずき、彼の導きに従い森の奥にある
小さな洞窟へと急いだ。心の中にある不安は大
きく、かつての虐めや村の人々の冷たい視線が
思い出され、恐怖が増していった。しかし、今
隣にいる雷鳴の存在は、彼女に少しずつ勇気を
与えていた。
*
二人は洞窟に身を潜め、外が静かになるのを待
った。瑠華は心の中で、自分の以上に雷鳴に安
心感を与えたかったが、動揺が隠せなかった。
「瑠華、恐れないで。大丈夫だ、私がいるか
ら。」
雷鳴は静かに言い、彼女の手を優しく握る。
*
しばらく探し回る声が続いたが、次第に響の声
が近づいてきた。
「瑠華、出てこい!お前のせいで、村は混乱しているぞ!」
彼の言葉には、瑠華に対する執着と憎悪が感じ
られた。
*
「何で…」
瑠華は小さな声で呟いた。何度も村の人々に冷
たくあしらわれた記憶が蘇り、心に暗い影を落
とした。
*
「君は自分が何者か、知らないのかもしれない。」
雷鳴が目を細め、彼女に向き直った。
「でも、今はそれが問題じゃない。君を守るた
めに、私たちが早くこの場所を離れよう。」
その言葉を受け、瑠華は少しずつ状況を理解し
始めたが、心の奥にはいつも抱えていた孤独と
恐れが消えないままだった。彼女は「どうなる
の?」と不安を抱えたままつぶやいた。
「今はともかく逃げよう。」
雷鳴は短く言い、再び外の様子をうかがった。
瑠華は彼の言葉に心を決めて、洞窟の入口をそ
っと覗いた。月明かりの下、響たちの姿が見え
た。休む暇もなく、不安を胸に秘めたまま、彼
女は雷鳴の指示に従い、彼の隣を走った。
*
深い森の中へと分け入っていくと、徐々に村の
喧騒から出られたことを感じ、少し安堵した。
しかし、彼女の心の中には、雷鳴の存在とは別
に、自分が本当に追われている理由を考える不
安が広がっていた。
「雷鳴、どこに向かうの?」
瑠華が尋ねると、彼はしばらく沈黙した後答え
た。
「安全な場所を見つけて、君を守るための手段
を考える。君は一人じゃないから、心配しない
で。」
瑠華は雷鳴の言葉に支えられながら、彼の後に
続いた。彼女は雷鳴のこまやかな優しさに少し
ずつ心を開いていったが、彼女がまだ理解して
いない隠された過去が、いつか彼らの道を変え
るかもしれないことを考えると、希望と恐れが
交錯した。
*
二人は、森の中の静寂に耳をすませながら足元
を進めた。運命が進んでいるのを感じながら
も、恐れや不安を抱えつつ、互いに絆を強めて
いく。瑠華は雷鳴がいることで少しずつ安心
し、自分の決意に少しずつ確信を持ち始めてい
た。
*
彼女たちがどこに向かっているのか全くわから
ないが、瑠華は心の奥で、ようやく自分自身を
見つめ直す旅に出ているような感覚を抱いてい
た。そして彼のそばで自分が少しずつ変わって
いくのを実感していた。
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