### 第2話:逃避行の始まり

瑠華と雷鳴の間に、少しずつ信頼と心の絆が芽


生えていたが、その静かな時間は長く続かなか


った。ある晩、瑠華は雷鳴の隣で過ごしている


と、ふと耳に入ってきた大きな声に驚いた。


「瑠華!どこにいるんだ!」


その声は、かつて瑠華を虐げ、冷たい視線を向


けてきた村の悪童、響(ひびき)だった。彼女


の心臓は一瞬震え、思わず雷鳴に顔を向けた。


「彼らが、私を探しに来ている…!」


「落ち着いて、瑠華。私が君を守るから、すぐ


に隠れる場所を探そう。」


雷鳴は優しく彼女の手を握り、少しでも安心感


を与えようとした。



瑠華はうなずき、彼の導きに従い森の奥にある


小さな洞窟へと急いだ。心の中にある不安は大


きく、かつての虐めや村の人々の冷たい視線が


思い出され、恐怖が増していった。しかし、今


隣にいる雷鳴の存在は、彼女に少しずつ勇気を


与えていた。



二人は洞窟に身を潜め、外が静かになるのを待


った。瑠華は心の中で、自分の以上に雷鳴に安


心感を与えたかったが、動揺が隠せなかった。


「瑠華、恐れないで。大丈夫だ、私がいるか


ら。」

雷鳴は静かに言い、彼女の手を優しく握る。



しばらく探し回る声が続いたが、次第に響の声


が近づいてきた。

「瑠華、出てこい!お前のせいで、村は混乱しているぞ!」


彼の言葉には、瑠華に対する執着と憎悪が感じ


られた。



「何で…」

瑠華は小さな声で呟いた。何度も村の人々に冷


たくあしらわれた記憶が蘇り、心に暗い影を落


とした。



「君は自分が何者か、知らないのかもしれない。」


雷鳴が目を細め、彼女に向き直った。


「でも、今はそれが問題じゃない。君を守るた


めに、私たちが早くこの場所を離れよう。」


その言葉を受け、瑠華は少しずつ状況を理解し


始めたが、心の奥にはいつも抱えていた孤独と


恐れが消えないままだった。彼女は「どうなる


の?」と不安を抱えたままつぶやいた。


「今はともかく逃げよう。」


雷鳴は短く言い、再び外の様子をうかがった。


瑠華は彼の言葉に心を決めて、洞窟の入口をそ


っと覗いた。月明かりの下、響たちの姿が見え


た。休む暇もなく、不安を胸に秘めたまま、彼


女は雷鳴の指示に従い、彼の隣を走った。



深い森の中へと分け入っていくと、徐々に村の


喧騒から出られたことを感じ、少し安堵した。


しかし、彼女の心の中には、雷鳴の存在とは別


に、自分が本当に追われている理由を考える不


安が広がっていた。


「雷鳴、どこに向かうの?」

瑠華が尋ねると、彼はしばらく沈黙した後答え


た。

「安全な場所を見つけて、君を守るための手段


を考える。君は一人じゃないから、心配しない


で。」


瑠華は雷鳴の言葉に支えられながら、彼の後に


続いた。彼女は雷鳴のこまやかな優しさに少し


ずつ心を開いていったが、彼女がまだ理解して


いない隠された過去が、いつか彼らの道を変え


るかもしれないことを考えると、希望と恐れが


交錯した。



二人は、森の中の静寂に耳をすませながら足元


を進めた。運命が進んでいるのを感じながら


も、恐れや不安を抱えつつ、互いに絆を強めて


いく。瑠華は雷鳴がいることで少しずつ安心


し、自分の決意に少しずつ確信を持ち始めてい


た。



彼女たちがどこに向かっているのか全くわから


ないが、瑠華は心の奥で、ようやく自分自身を


見つめ直す旅に出ているような感覚を抱いてい


た。そして彼のそばで自分が少しずつ変わって


いくのを実感していた。


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