夏の夕暮れ

ゆ〜

寒蟬

4対6

ワンアウト、三塁。

時間的にこの回の攻撃でおしまい。

カウントは2ボール2ストライクで追い込まれている。


ふぅー……


大きく一呼吸ひとこきゅう

夏のグラウンドは、やけに照り返しが強くて、

下を向いている目を前に据える。


ミーン ミーン ミーン ミーン ミン……


ピッチャーがモーションに入る。

ゆっくりと、綺麗なフォームだった。

セミはやけに五月蝿うるさくて、監督の指示も、応援も聞こえない。

ピッチャーは勢いよく腕を振り下ろして、

……投げた


ジジッ……


なんでこんなときに静かになるのかなぁ、セミ。

しかも、完璧なストライクゾーンだ。

負ける。

そうだと確信してしまった。


ガッ、という鈍い打撃音がした。


ボールは遠くへは行かず、空に打ち上がった――




――ぅわっ!?


カナカナカナカナ……


またあの夢か。

夢のせいか早く起きすぎてしまった。

窓の外でまだヒグラシが鳴いている。


夢での試合は、別に引退試合だったわけでもないし、

そこまで思いれのある試合じゃない。


あの時、僕の打ったボールは空高くあがって、

呆気ないほどに簡単に捕られた。


それで2アウト。


制限時間いっぱいまで試合をしたこともあり、

暑さと疲労で判断力の鈍っていた三塁ランナーが間違えて飛び出してアウト。


計3アウトで負けた試合。


僕があの時、をしていたら、バントをしていれば。

「気をつけろ」とランナーに一言伝えていれば、指示していたなら。

結果は変わったのかもしれない。


「たられば」は良くない。

分かっている、分かっているけども。後悔でいっぱいだった。


ただただ僕は無力だった。



「……ヒグラシって、朝も鳴いてんだな。」

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