第20話 アベンシャール国の末王子

 夢から覚めた時、夕暮れ時であたりが赤く染まる中、寝ぼけた頭でジャドールの姿を探した。


 静寂の世界に、わたしだけが閉じ込められたように感じられた。


「ジャドール……」


 目覚めた時にいつも近くにいてくれるのが当たり前になっている。


 よくよく考えたら恐ろしいことだなと自分でも苦笑しながらも、体を起こす。


 畑仕事を終えて彼とお茶を飲んだ後、うたた寝をしてしまったようだ。


 ここのところしっかり眠れなかったし、思ったよりも疲れが溜まっていたのだと思う。


 腰元にタオルケットがかけられていた。


「ジャドール?」


 お茶は飲みかけだった。


 ジャドールだったら飲み終わったものをすぐに片付けてくれていた。


 おかしい。


 異変に気付いたのはそのときで、わたしはあわてて入口に向かう。


 扉を開こうとして、息を呑んだ。


 橋の向こうに大勢の騎士がいて、何かをこちらに向かって話していた。


(どうして……)


 思ったよりも早くこの時がやってきたことに体が震える。


 彼らは跪いていた。


(ああ)


 すぐにわかった。


 一目見たら、すぐにわかる。


 その中心部に、記憶の中で生きていた末王子さまが立っていたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る