第19話 王家の人間の来訪
おいしいケーキがありますよ~とか、お庭にきれいな花が咲いたので午後から見に行きませんか、なんて騒いでいたジャドールの言葉が今日は耳に入って来なかった。
わたしのこの平穏な毎日が終わりを告げているのがわかっていたからだ。
最近、おかしいとは思っていた。
やけにわたしに依頼が回ってくる。
まるで、わたしの力を試すかと言わんばかりに。
ひどい夢を見たのみ、そのせいかもしれない。
おばあちゃんが倒れた。
その文字が目に入ってもなお信じられず、王宮には戻りたくないと脳が拒んでいた。
おばあちゃんが心配だ。
だけど、考えると動けなくなってしまう。
ジャドールに気付かれないようにこっそり深呼吸を繰り返し、瞳を閉じる。
ゆったりした空気が流れていた。
新しいお茶を淹れましょう、とジャドールは張り切っていた。
いくつか良い香りのものを購入したから選んでほしいと。
申しわけないと思いつつも、感覚のない指でストロベリーのイラストの描かれたパッケージを選んだ。
お茶を淹れるのはわたしの役割だったのにそれ以上何も言わずボケっとしていたわたしに、何も言うこともなく彼は暖かいお茶を入れてくれた。
わたしの異変にはすぐ気付く人だ。
本当は気付いていたと思うし、もしかすると彼の耳にもすでにこの話は入っているかもしれない。
それでもなにも言わないでいたことに深く感謝し、安堵した。
この毎日が終わってしまう。
感情のこもっていない涙が頬を伝った。
最近、情緒不安定だ。
泣いてばかりいて、こんなことではだめだ。
またひとりに戻ってしまうかもしれないんだからもっと心を強く持たないといけないのに。
思いのほか、ジャドールとの日々が楽しかったため、その終わりを告げる鐘が鳴り始めたことが怖かった。
手紙には、近いうちに王族が直接ここにやってくる。
そう記されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます