第16話 魔女が夢見た未来

「操られた?」


「わたしは魔女です。あなたたちにできないことをなんでもできてしまいます」


 彼無くしては生活さえままならないのが悲しい現実ではあるけど、こういう場面でくらい大きいことを言わせてほしい。


「わたしは長年、いろんな騎士たちに嫌われ、怯えられてきました。そんなわたしが自分にもっとも忠実でわたしだけを思ってくれる騎士を切望したら、どうなるかわかりますか?」


「その騎士を倒して、俺がここへ向かいます。未来は変わりません」


「そ、そういうことじゃなくって……」


 どうしてこうもわたしのことになると斜め上からしか考えられないのだろうか。


 根気強く、わたしは続ける。


 言いたくなかったけど、今しかないような気がした。


「それがあなただったら、どうしますか? ここに来る前から、わたしの魔力に操られていたんです」


「本望です!」


「………」


 話にならない。


「万が一の可能性で、操られていたとして、その効力が切れたあとからもずっと、俺はあなたのもとを離れないと誓いますよ」


 優しい瞳を向けられたらもう何も言えないではないか。


 胸がぐっと苦しい。


「わたしも、あなたにそばにいてもらえたら、どれだけ幸せなことか……何度も想像したことはあります」


 ドクドクと高鳴る鼓動をおさえ、必死に彼の瞳に訴えかける。


「だけど、わたしは囚人です。あろうことか、王子様に呪いをかけた。彼の未来を奪ってしまった。わたしだけ、幸せな暮らしをすることが……許されてはいけない」


 夢を見た。


 何度も何度も。


 ジャドールとこのままここで毎日一緒に笑いあえる日々が続いてくれたらと。


 時にからかってくるジャドールもべたべたに甘やかしてくるジャドールも、今まで見たことがなかった彼をこれからも発見しながらふたりの歴史を築いていく。


 彼さえ嫌でなければ、これほど希望にあふれた未来はなかった。


 しかしながら、そんな夢はかなわない。


 それは誰よりも、わたしがよくわかっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る