第9話 魔女は秘薬を煎じる
浮いている。
そう察した瞬間に全ては終わる。
もう自制心はほとんど残っていないため、ぎゅっと目を閉じたまま、プライドも羞恥心も捨てて必死でジャドールにしがみつく。
わたしは、高いところがとっても苦手なのである。
もうバレてるんだろうけど、あまりにも魔女らしくないから、わたしだけの秘密である。
最初の頃は「ここからの景色は絶景ですよ~」と浮かれた声で笑うジャドールの声につられて片目を開いたりしていたものの、目を開いたら最後。
思わず絶叫して我が保てなくなるため、自然とモフモフの上にいるときはジャドールも話しかけてこなくなった。
数分くらいした頃に、「つきましたよ」というジャドールの声が合図でいつも目を開ける。
街の人を驚かせてはいけないため、目的地である街より少し離れた位置にモフモフを着地させ、そこからは歩いて街に向かう。
地面に足がついた時、生きててよかった、などと涙が出そうになる。
頭が重くなり、視界がぐらっと回って見えるため、しばらくはバランス感覚が保てなくなる。
おかげで情けなくも今度はジャドールの腕にしがみつくようにして歩くことになる。
ずっとひとりで生きていけると豪語していたものの、彼が現れてからは何もできない自分に気付かされてばっかりだった。
だけど、今日はどうしても手に入れたいものがあった。
流行病がある村を襲っているらしい。
王宮からの要請だった。
言われずとも、すぐにでも解毒薬を作りたいと思っている。
レシピは持っている。
アベンシャールを出た時に、おばあちゃんがこっそり持たせてくれたのだ。
あの事件以来、わたしは絶対にもう魔力を使わないと決めていたけど、必要になるときが必ず来るとおばあちゃんは言っていた。
人里離れたところに住んでいたって不穏な話は風が運んできてくれる。
何度目かの春を迎えた頃、アベンシャールの王宮からそろそろ戻ってこないかという提案の連絡が入ったことがある。
たしかに、高齢のおばあちゃんひとりでは対応しきれないこともあるのだろう。
手紙を交わすたび、「大丈夫だよ」と繰り返すおばあちゃんに内緒で、帰らない代わりに魔女の秘薬を提供することを約束させられた。
それが二年前のこと。
薬草を煎じるわたしを見て、騎士のひとりが倒れてしまったのがきっかけで彼は帰国し、代わりにジャドールがやってきた。
ジャドールと仲良くなっていく(そうよね?)月日の数だけ時を止めていたわたしの魔女としての力も大きくなっていった。
ジャドールは恐れることなく、むしろ前のめりで聞いてくれたり的確なアドバイスをしてくれることもあるから自然と彼に自分の力やその使い道を話すことが増えていた。
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