第7話 囚われた騎士の謎
自室に戻ると引き出しの中から大きなレンズの入ったメガネを取りだす。
ただのガラスなのだけど、外にいく時はいつも装着している。
あとはモフモフの持ってきた手紙を思い出しながらいつものショルダーバックにいろいろと詰め込んで、別に意味もないけど等身大の鏡の前に立つ。
華奢で小柄な顔色の悪い女の子がサイズの合わない大きなメガネをかけてこちらを見ている。
ローブのダボッとした感じがまた野暮ったさを強調している。
ずっとぼさぼさがトレードマークだった黒髪は今日もきれいにリボンで結われていた。
色気づいている立場でもないけど、銀色のリボンに視線を向けるとなんだか小さく頬が緩んだ。
人知れず彼が王宮から取り寄せているらしい王宮一押しのお菓子の中に入っているきれいなリボンや包装紙を彼がこっそりコレクションしているのを知っている。
それを使ってお部屋を飾ったり、わたしのヘア飾りにしてくれるなど、わたしよりも乙女な趣味を持っているんじゃないかと思うこともあるけど、彼はわたしを喜ばせることをいつも第一に考えてくれていた。
まるで、あの男はロボットなのではないか?と思えることがある。
なんであんなにもわたしに忠実なのだろうか。笑顔だって絶やさない。
家族でも人質にとられていて、そうせざるを得ない状況だとでもいうのだろうか。
わからなかった。
一番考えたくなかったのは、誰かに感情を操作されているんじゃないかということ。そう思うと小さくため息がもれた。
「あっ!」
だ、ダメだダメだ!
またこんなに隙をいっぱい作ってぼんやりしていたらどこからともなく現れて何をされるかわかったもんじゃない。
頭をぶんぶん振って、不安そうにこちらを見つめる女の子に笑いかけようと努力する。
実際は不気味に右口角だけ引きつったように見えたけど、仕方ない。
長い黒髪が揺れ、お守りである銀色のリボンが小さく光って見えた。
窓の外を見るとすでに準備を終えたらしいジャドールが大きな大木の前でふわふわと浮かぶ、モフモフに何か話しかけ、柔らかい笑顔を浮かべたのが見えた。
(ああ、もったいない)
あんなにも素晴らしい人なのに、こんな森の奥の閉じ込められて。
王宮はとっても華やかなところだったけど、彼の存在感だって負けてはいない。
きっと変わらず王宮で過ごしていたならば、可愛い女の子たちをはべらせて楽しい毎日を過ごせたであろう可能性を十分に秘めているのに。
こんな魅力のかけらもない魔女にとらわれたせいで、ついには魔女に甘い言葉を投げかけだすという奇行な言動を繰り返すようになった。
特殊な性癖を持ってしまったのかもしれない。
いや、異性がひとりしかいなければ麻痺もするだろう。
この前借りてきた本にそう書いてあった気がする。
彼を満足させてあげられるだけの行いが返せたらいいのだけど、彼が正気に戻った時に絶望するのだけは避けさせてあげたい。
お世話になっているのだから、わたしだってそれくらいのモラルはある。
何より、わたしの心臓が持ちそうもない。
(もったいない)
もちろん、わたしの視線なんて一瞬で彼には気づかれてしまう。
「フローラ!」とこちらに向かって手を上げる彼に飛び上がり、わたしはあわてて庭先に向かった。
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