第4話 王子様に呪いをかけた日

 おばあちゃんがあまりに偉大な人だったため彼女に恩があるという王妃様のご厚意で、わたしは幼いころ、おばあちゃんと一緒に王族の住む王宮の一角に住まわせてもらっていた。


 両親の記憶はない。


 お父さんはもともといない未婚の子どもだったらしく、お母さんもわたしがずいぶん小さい頃に家を出て行ったと聞いている。


 おばあちゃんの話では、お母さんには魔女になれる十分な魔力がなく、彼女をあんな境遇にしてしまったのはすべて自分が悪いのだといつもわたしに謝っていた。


 両親がいなくてもおばあちゃんさえいてくれれば、何にも問題はなかった。


 それに、お城の人たちも本当にわたしたちに良くしてくれた。


 騎士のお兄さんたちは薬草を取りに来るとき、わたしとも遊んでくれたし、料理人のおじさんたちはこっそり甘いお菓子をくれたりもした。


 みんながみんなおばあちゃんに恩義を感じ、尊敬していて、世界はとても明るく温かかった。


 キラキラしてかっこいい王子様たちも畏れ多くもよく顔を出してくれては話し相手をしてくれた。


 中庭にある自慢のバラ園にも連れて行ってくれた。


 王子様は全部で五人いて、みんな絵本で見るどの王子さまよりもずっとずっと優しくてかっこよかった。


 末の王子様がわたしと同じ年だったこともあり、わたしは彼の遊び相手をするよう仰せつかった。


 おばあちゃんのお手伝いをしながら、末の王子様のところに遊びに行く。


 それがわたしの日課となった。 


 だけど、末王子様はわたしのことが大嫌いだった。


 最初は兄王子様たちの後ろに隠れていただけだった彼も、いつしかひとりでわたしの前に立つようになった。


 きれいな顔の男の子だと思った。


 最初はぼんやりと見惚れてしまったくらい。


 それでも、彼はわたしに好意を抱いてくれることはなかった。


 なぜかはわからない。


 たかだか居候の分際で、兄王子様達に馴れ馴れしくしすぎたせいだろうか。


 いつも顔を見るなり、すごく嫌な顔をして、悲しくなってしまうようなことばかり言うようになった。


 わたしが泣いてしまったら、今度は面倒くさそうに虫を持ってくる。


 泣きながら逃げ帰るしかなかった。


 とにかくわたしを追い払いたくて仕方がないのだろう。


 毎日毎日、彼に会うたびになぜ自分はこんなにも嫌われているのだろうと自問自答するようになった。


 末王子様はわたし以外の人間にはとても紳士的で優しかった。


 十一、二歳の少年だったにもかかわらず品位が伴った立ち振る舞いでいろんな人に接していた。


 なぜわたしだけ……そんな彼の姿を見ると、悲しくなった。


 仲良くなりたかった。


 わたしにも、笑いかけてほしかった。


 一緒に、いろんなお話がしたかった。


 わたしは、ただその一心で、禁断のとびらを開いてしまった。


 おばあちゃんのレシピを勝手に見て、絶対に作ってはいけなかったものを作ってしまったのだ。


 そうして、わたしが末王子様に呪いをかけてしまったのは、その次の日のことだった。


 許されないことだった。


 仮にも一国の王子様に対して、あまりにも恐ろしい負の感情をぶつけてしまったのだ。


 おばあちゃんの孫でなければ、死刑だって考えられた。


 おばあちゃんは、自分の命はどうなってもいいからこの子だけは助けてほしいと言ってくれた。


 だけど、わたしは罰が欲しかった。


 とてもとても恐ろしい、あるまじき行為をしてしまったということは理解できていたから。


 末王子様は、明らかに以前と変わってしまっていた。


 ううん、あれは別人だった。


 幸い命に別状はなかったため、王様も王妃様も「顔をあげて」と泣いてばかりいるわたしに言ってくださった。


 怒ってほしかった。


 罰を与えてほしかった。


 優しくしてもらうのが、なによりもつらかった。


 一生入っていてもいいから牢屋に入れてほしいとお願いしたけど、王様は悲しそうに首を横に振るばかりだった。

 

 だったら、お城から出してほしいとお願いした。 


 それが一番いいだろうと思ったからだ。


 他の罪人たちが、国から出されていることを知っていた。


 見張りを付けられた状態で人里離れたところへ送られ、もう二度と悪さをするどころか悪さができるような場所にさえ行くことが叶わなくなる。


 大きな罰だった。


 だけど、今のわたしにはちょうどいいと十二歳ながら思ったのだった。


 わたしは、囚人となった。

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