第44話 最期の伝達魔法
第四十四話 最期の伝達魔法
キール宅跡地
「オルスロンごめん。もう時間がないみたい」
リアンは申し訳なさそうに伝える。
「……ああ、オレでも分かる。お前の魔力が急速に弱まっているからな」
“狂薬”の効果が切れようとしているのだ。
その場合、薬の恩恵を受け、負傷してもすぐ回復していた3日間の蓄積したダメージがリアンに戻ってくる。
コツア火山地帯でシュバルトから受けた致命の一撃も含めて…
「オルスロン、色々とありがとね」
「こちらこそだ」
オルスロンはくるりと背を向ける。
弱っていくリアンの姿を見ることができなかったからだ。
「残りの時間はキールといてやってくれ」
「うん」
その言葉を聞いた後に、唐突にオルスロンが来た道を戻るように走り出した。
そして、暗闇でお互いの姿が見えなくなったところで、オルスロンはひときわ大きな声で叫んだ。
「リアン楽しかったぜ!じゃあな!」
その後ミアーネの町の方に走り去る音が聞こえた。
「じゃあね。オルスロン」
オルスロンには決して届かないくらい小さな声で呟き、そっと墓石の方を向いた。
墓石は建てられたばかりのため、ところどころ研磨された部分が光沢を放っている。
夜になってから月明かりのみが辺りを照らし始め、遮るもののないキールの家の跡地を照らしている。
不意にリアンのスボンの裾から水の様なものが流れ落ちる。それはリアンの血であった。
途端に、身体全体に激痛が走り吐血する。
まるでオルスロンとの別れを待っていたかのようなタイミングで、蓄積したものがリアンの身体を襲い始めた。
「これで“狂薬”の効果も無くなった。後は…」
──死ぬだけ──
ゴフッという嗚咽とともに、塊のような血が口から吐き出される。
分かってはいたが、身体はとうに限界を迎えていたのだ。
視界がかすみ、意識が途切れ途切れになる。
「『伝達魔法』発動」
残された魔力を振り絞る。
たくさん人に別れを告げてきた。
みんな悲しそうな表情をしながらも、リアンのことを送り出してくれた。
あと一人まだ別れを言えていない。
もう二度と声は届かないと思うが……
……。
……。
「……、……、聞こえますか?」
……。
………。
「……、聞こえませんよね」
…。
「……、長い旅でしたね。最初はリトナミを目指そうって言ってましたけど、最終的に家に帰ってきちゃいましたね」
……。
「……、軍の人達とたくさん戦いましたね。みなさん強い人ばかりで、仲間がいなければ、きっとすぐ死んでましたよ」
………。
「……。最期にもう一度会いたいですよ………キールさん…」
………。
………、
……、
……、
リアンくん
……、
ありが…とう
……
リアンの耳には、微かだがそんな言葉が届いた様な気がした。
その声のことを考える間もなく、リアンは永遠の眠りについた。
続く
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