第43話 リアンとオルスロン
第四十三話 リアンとオルスロン
オルスロンとリアンは天星城から出た後、ミアーネの街の大通りを歩いていた。
夕方となり、あたりは徐々に暗くなっている。
目的地に向かう道中、二人は無言で進んだ。
通りにはちらほら人が歩いていたが、進むにつれて人は少なくなっていく。
あたりはすっかり暗くなり、お互いの顔が認識できないほどになっていた。
通り沿いを等間隔に並ぶ街灯の光を頼りに二人は進んでいく。
「なぁ、覚えてるか?俺達が初めて会った日のこと」
「初めて会った日かぁ」
リアンは遠い昔の事を思い出すように、腕を組み空を見つめる。
「うん。第一印象はよくなかったな」
「そうだっけか?よく思い出せよ!」
「人を殴っていた」
「いや、殴って………いたけど、それには理由があってだな」
「僕の担当してるクラスの生徒が、ガラの悪い大人に絡まれていたんだよね?」
「そうだな。でも自警団のヤツら、魔人が暴れてるっつって俺のことを最初取り押さえにきたんだぜ!?」
「オルスロンに殴られた人の顔が見たことないくらい顔がボコボコだったからね」
「ガキ相手に金をカツアゲしようとしてたんだから当然だ!」
「その節はうちの生徒を助けてくれてありがとね。でもやりすぎだったね」
当時のことを思い出し、苦笑する。
「自警団の人から、生徒を保護したから迎えに来てくれって言われたんだよね。そして、自警団の拠点に行ったら君がいたんだ」
「運命の出会いだな」
「大げさだなぁ」
ガハハと魔人が笑う。
衝撃的な事件だったが、この事件がなければ、オルスロンと出会うきっかけはなかった。
『お前の生徒を助けてやったんだから、飯をおごれ』
これがオルスロンと最初に交わした会話だった。
最初はやばい奴だと思ったけど──
そこからの経緯はよく覚えていないが、そこで一緒にご飯に行ったのがきっかけで、飲みに行く仲になったのだ。
「オルスロンは何で僕と仲良くなってくれたの?」
「そりゃあ…人間にしてはいい奴だったから」
「ははは…ありがと」
「後は、飲みに誘われる時便利な魔法を持ってたからかな」
「なんだそら!」
真っ暗な夜道の中、二人の笑い声だけが響く。
楽しい雰囲気の最中、終わりの時間が徐々に迫ってきている。
そんな空気を感じ取ったのか、オルスロンが悲しげな表情に変わる。
「…だからお前がいなくなるのが本当に寂しいよ」
「……」
「もう助からないのか?」
「うん…もうはほとんど時間が残されていない。それはなんとなく分かるんだ」
「そんなのって…ねーよ」
魔人の目から一筋の涙が頬を伝う。
目を逸らしてきた現実が近づいてくる。
やはりリアンの死は避けられないのだ。
「オレは…オレは!もっと一緒にいたかったよ!もっとしゃべって!もっと遊びたかったよ…!」
「最初に友達になってくれたのがリアンだ!お前がいなかったら、オレはしばらく一人だったろうな…!」
「お前とはもっと馬鹿やれると思ってた…」
「……ぐっ…うっ…」
いつの間にかリアンも堪えきれず、悲しさと悔しさと申し訳なさがこみ上げてきた。
「オレは今までずっと一人だったからよ。本当に嬉しかったんだ。お前と友達になれて」
「オルスロン…ごめん」
「謝るんじゃねーよ!リアンには本当に感謝してんだ。お前が大工仲間を紹介してくれたおかげで、俺も今では一人じゃなくなった」
「いや、みんなオルスロンの人柄……いや魔人柄っていうのかな?…それに惹かれたんだよ。君もいいやつだから」
「お前ほどじゃねーよ」
暗闇でも照れくさそうにしてるのが分かる。
話してるうちに、2人はだだっ広い平地にたどりついた。
平地の真ん中には小さな石の塔のようなものが建っている。
どうやらここが2人の目的地のようだ。
「おっ、オレの仕事仲間が一通り仕事を終えてくれたみたいだな」
「仕事が早いね。昨日頼んだばかりなのに!」
「ああっ!なんたってサンカエル1の大工職人達だからな!」
「うん」
「…キールさん帰ってきましたよ」
リアンは肩からさげているバッグから小さな壺のようなものを取り出した。
そこには先程火葬したキールの遺灰が入っていた。
広場の中央にある石の塔は、キールの遺灰を納骨するための墓石だった。
そして、この広場はかつて反則の魔女が住んでいた家の跡地──、リアンとキールの逃亡劇が始まった地であった。
すでにキールの家は、オルスロンの大工仲間に撤去され、跡形も残っていなかった。
リアンはキールの遺灰を納骨し、ゆっくりと辺りを見渡した。
目を瞑るとあの日のことが鮮明に思い出される。
『逃げよう!』
それが始まりの一言だった。
始まりのあの日──この先の強敵との戦いに目を輝かせるキールの顔を思い出した。
ここがスタート地点でゴールだったのだ。
これでキールの逃亡劇は終わったのだ。
そして、リアンも────
続く
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