第37話 シュバルトの奴隷魔法



シュバルトの魔力がリアンの体を包み込む。

並大抵の人間は抗えない。圧倒的な力がリアンの精神を蝕む。


『奴隷魔法』───


最強の魔法の一つと言われている。他人を意のままに操り、傀儡とする魔法。

強力であるがゆえ、扱える魔法使いはほとんどいない。

今、シュバルトの魔力は“狂薬くるいぐすり”の力で強化されている。

今までは魔法耐性のある者…魔法使い・魔女には効果がほとんどなかった。魔法を持たぬ者や、魔法を十分に扱えない幼い魔法使いぐらいしか操ることができなかった。


しかし、今は違う。


リアンのように魔力耐性のある者さえ、抗うことはできない。

それほどまでに薬の力は強力なのだ。


「さあ、お前をどうしてくれよう」


シュバルトはリアンに『奴隷魔法』を発動させたことで、勝利を確信する。


(どんなからくりかは分からないが、戦闘ではリアンには敵わない。だが、これで…)


「君さえいなければ…最後の砦である君が消えれば、この国は………いや、この世界はわたしの支配下となる!」


「……これが…『奴隷…魔法』……」


リアンの両手はだらんと垂れ下がり、完全に脱力しており、体を自分の意思で操れなくなっているように見える。


「君を始末した後は、上で消耗しているお仲間を殺して、魔力を持つ馬鹿な国民共を騙し、生贄に捧げる。わたしの計画はまだ立て直せる!思わぬ邪魔が入ったが意味は無かったようだな!馬鹿な国民共はまだわたしの計画は知らない。気付いた時にはわたしの奴隷となっているのだ!」


憎き相手に対して、高々と勝利を宣言する。


もう誰も止められない。


『千人魔法』は発動する…!


「もう…『千人魔法』の準備は整って…いるのか?」


喋ることも難しくなってきている。リアンの声も途切れ途切れになっているようだ。


シュバルトは不敵な笑みを浮かべながら、弱りつつあるリアンの問いに答える。


「まだ、意識が途切れないとはね。さすがわたしと同じストロングシールド家こ人間だ」


「君の大好きな“キール”を依代よりしろとし、残り千人の生贄が必要。500人ほどは戦場から拉致らちしてきた敵兵を使う。今日までホークスの『保管魔法』で飼っていた兵士共がいる。そして、残りの500人は…」


「サンカエルの国民を使う!数時間後、何も知らない国民共がここに集まることになっている。今日が人生最期の日とも知らずにね」


自分の目的のために、サンカエルの国民を犠牲にすることもいとわない。


「外道め…」


「何とでも言い給え。君ももう死ぬのだから」


言いながらゆっくりとリアンの方を指を差す。


「リアン=ストロングシールド、最初で最後の命令だ。“ここで自害しろ”!」


その言葉を聞き、ハッとした表情になるリアン。

その後、何かに操られているかのように、ゆっくりと歩き出した。


シュバルトの言葉を受け、リアンは霹靂の間の壁に飾ってある短剣のところに歩いていき、ゆっくりと手に取る。


装飾用に作られた短剣であるが、刃の部分は本物の鉄を使用しており、照明の灯を反射し、ギラつきを放っている。


それをじっと見つめた後、短剣を逆手に持ち替え、両手で持ち自身の腹にその刀身を向ける。

まるで自分自身を刺すような格好となった。


「本当はもっと君をいたぶりたかったが、時間があまり無いのが本当に惜しいよ」


「………」


「さよなら、リアン=ストロングシールド」


その言葉を聞き、勢いよくリアンは自身の腹に短剣を振り下ろした。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る