第35話 ストロングシールドvsストロングシールド
──時は戻り現在へ───
天星城、大広間
ハイゼンとオルスロン達が繰り広げていた戦いも終わりを迎えようとしていた。
戦いの最中、ハイゼンは今に至るまでの10年間を振り返っていた。
この10年間完璧だった。
俺とシュバルトはキール軍の次将となり、キールのことを監視した。
そして5年前、キールは突然国将を辞め、ミアーネ魔法学校の教師になる。その間もノリエガ軍の監視は続いた。
それと並行して、戦では他国の魔法使いを大勢捕虜にした。『千人魔法』の生贄となる者達だ。
途中、ホークスという男も仲間に引き入れ、奴の『保管魔法』によって捕虜集めが円滑に進んでいった。
そして、今回──
シュバルトの奴隷魔法を上手く使って、キールを犯罪者に仕立てあげることに成功した。
キール捕獲のため、国をあげての大捜索が始まった。
キールが手をかけたのがアルベイラのガキということもあり、国将や次将達を動かして、キールを追い詰めることができた。
そして、シュバルトがキールを殺し、死体を持ち帰る。これで“依代”を確保できた。
後は今夜、何も知らない
…はずだったのによ…
なぁ、シュバルト…
俺達はどこで間違えた?
それともまだこの計画は上手くいくのか?
大広間には、血を垂れ流し絶命している『肥満竜』バルンと『鬼蝙蝠』のズゴルクロが横たわっていた。
『感染魔法』により“
もうハイゼンを守るものは何も無い。
『罠魔法』もアントーンによって全て解除されている。
シュバルト、俺はここまでのようだ。
相手が悪かったみてーだ。
本気になった魔人に勝てるわけねーだろ?
魔人オルスロンがハイゼンに接近する…!
ボロスの“狂襲病”の影響で腕の筋力が膨張している。
「これでトドメだあああああ!」
シュバルト、死ぬなよ…
凄まじい衝突音と共にハイゼンは後方へ身体が吹っ飛ばされた。
腹のど真ん中に、魔人の本気の拳が叩き込まれた。
内蔵にダメージを負い、口から止めどなく血が吹き出した。
ハイゼンの身体は壁に叩きつけられ、その後地面に倒れこんだ。
叩きつけられた壁にはうっすらと亀甲状のヒビが入る。
そして、ハイゼンの意識はそこで途切れた。
唯一の仲間に最後の希望を託して。
意識を失ったハイゼンを見て、オルスロンも床に倒れこんだ。
「終わったーー!もう動けねーー!」
戦いの終結を見届けたボロスがオルスロンに声をかける。
「ワシの『感染魔法』で大分体を酷使したからな。当分動けねぇぞ。アントーンの方は大丈夫か?」
「…あぁ、なんとかな」
アントーンも立っているのがやっとのようだ。コツア火山地帯でのトリトニスとの戦いでこちらも大分負傷しているようだった。
出血が多く、意識を保つのに精一杯のように見える。
手で抑えてる傷口から血が吹き出す。
ボロスはアントーンに肩を貸しながら、壁際に移動させ座らせた。
「俺はしばらく休ませてもらう……リアンには悪いが…手助けできそうにない」
「ワシも同じだ。連日のように『感染魔法』を使い、魔力も体力も残ってねぇ。後はあの小僧に全てを託すしかねぇようだな」
二人が会話しているところから少し離れた所で、オルスロンは大の字になり仰向けで倒れていた。
アントーンとボロスと同じく、もう立つ力さえ残っていない。
「オッサン達!大丈夫だ!俺の親友は
根拠は全く無いが、必ず“リアンがシュバルトを止めてくれる”…不思議とそんな確信がオルスロンの中にあった。
オルスロンはそれだけ叫ぶと大きなイビキかきながらを眠りについた。
「あいつ、あれだけ叫んで寝ちまいやがったぜ。………と、こっちもか」
ボロスの傍らで休んでいたアントーンも気絶するように眠っていた。まるでもう戦いが終わったかのように安らかな顔をしている。
「あの小僧のことをそんなに信頼してるのかよ。ワシの“
ボロスは眠っている二人に独り言を投げかける。
「まぁ、後はなるようにしかならんか。…小僧、後は任せたぜぇ」
ボロスは二人の代わりにリアンの無事を祈った。
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──時は少し
霹靂の間に続く渡り廊下
リアンは霹靂の間に向っていた。
自分を殺した相手…甲冑の男、シュバルトともう一度対峙するのだ。
もうあの男を止められるのは自分しかいない。
シュバルトの圧倒的な身体能力を見せつけられ、為す術もなく殺されたはずなのに……
不思議と恐怖を感じていない。
“狂薬”の影響で身体能力や魔力が大幅に向上しているからか?
それとも、もう死ぬことが確定しているから覚悟が決まっているからなのか?
キールさんとの逃亡が始まってから、こんなに落ち着いていたことはない。
一切の波が立っていない水面のように、静かな気持ちだった。
そんなことを考えている内に霹靂の間の前までやって来ていた。
この扉の向こう側にシュバルトがいる。
リアンはゆっくりと扉の取手に手をかける。扉は両開きの仕様となっていたため、左右両方の扉を同時に前に押しながら、部屋に入っていった。
部屋は薄暗く、部屋の壁面に設置されている燭台に灯る火の明かりのみで部屋全体を照らしている。
これからここに『千人魔法』の生贄となる国民達が集められるのだろう。
「やあ、生きてたのかい?」
不意に部屋の中央あたりから声をかけられた。
言葉とは裏腹に、リアンが生きていたことにさして驚いた様子は感じられなかった。
声の方を見ると、中央のテーブルに甲冑を着た男が座っていた。
その頭部には、かつて常に表情を隠していた兜は取り払われていた。
リアンと同じく翠色の瞳が、リアンの姿を見据えていた。
「この城に入ってきたのはボロスとアントーン、あとは火山にいた魔人君かな?」
「そうだよ。お前を止めに来たんだ」
「君も魔人もちゃんと息の根を止めとけばよかったね。わたしもまだまだだな」
まだまだと言いつつ、微塵も失敗を反省している様子はない。
生きてたらまた殺せばいい。リアン程度ならいつでも簡単に殺せる、そんな口ぶりだ。
「次将も案外大したことないんだね」
心の奥底は怒りで煮えたぎっているはずなのに、口から発する言葉は落ち着きに満ちていた。
「一般人1人も殺せないなんてね」
「君が生きてるのは、“狂薬”の効果じゃないか?本当はもう命のカウントダウンが始まっているのだろう?確か効果は3日だったかな?」
どうやら手の内は知られているようだ。
「その通りさ。だからあんまり時間ないんだよね」
「じゃあ、早速始めようか。わたしを止めに来たんだろう?こちらも『千人魔法』の儀式までに君達を片付けておきたいんでね」
シュバルトは腰に携える剣を引き抜く。引き抜いた時の音の余韻がキーンと部屋の中に微かに響く。
「君を殺して、わたしは今度こそこの世界の王になる!」
「シュバルト・ストロングシールド……お前の野望はここまでだ。僕が止める!」
そう言い放つと、リアンは静かに魔力の出力をあげた。
続く
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