第33話 三魔獣



「ここで死んでもらうぜ」


ハイゼンのセリフと共に部屋全体に魔力が拡散される。


大広間は罠魔法の影響により、壁や床に罠が仕掛けられてしまった。


「アントーンの感知魔法なら分かるだろ?もう霹靂の間には入れさせないくらいびっちり罠を仕掛けたってな」


ニヤニヤしながらハイゼンはアントーンの方を見る。


アントーンは落ち着いた様子でハイゼンを睨みつけていた。


「まだこれほどの魔力が残っていたとはな。だが、また解除させてもらうぞ。お前の魔法の性質は理解したからな。短時間で解除可能だ」


「それをさせねーために、こいつらがいるんだろ?」


ハイゼンは両脇の魔獣3体に目をやる。


首無し怪鳥の『ガルダ』、丸い体で風船のように浮遊する肥満の竜『バルン』、4つの腕を持つ巨大コウモリ『ズゴルクロ』、3体ともノリエガ軍次将であったホークスの『保管魔法』により異空間で飼われていた魔獣達である。


いずれの魔獣も空中を移動する。

床や壁に触れずに移動できるため、ハイゼンの『罠魔法』の影響を受けない。


「こいつらは俺と相性がいいからホークスの野郎から借りてんたんだ。まぁ、あいつ死んじまったから今は俺のペットだけどな。さて…」


ハイゼンはアントーンを指差し、魔獣達に命令する。


「おい、お前ら!あの図体のデケーツンツン頭を殺して俺の前に持って来い!」


次の瞬間、魔獣達はそれぞれ雄叫びを上げ、アントーンの方に迫っていった。


空中を素早く飛び、距離を詰めていく。


「くっ…!迂闊に動くとヤツの罠が発動する…!これでは逃げれない…!」


「オッサンはそのままでいろ!」


アントーンの側方からオルスロンの声が響く。

空中に足場を作り、魔獣達に詰め寄る!そして、一番近くにいたガルダを蹴りつけ、バルンに当てる!


「オッサン!解析を続けてくれ!もう一度罠を破るんだ!」


オルスロンは大広間の椅子やらテーブルを浮遊させ足場を形成していた。しかし、足場の素材が少なく、今まで作ってみせた岩や木の足場と違い、不安定に見える。


「ぐっ…!」


オルスロンの一瞬の隙をつき、一体だけ残っていた巨大コウモリのズゴルクロが四本の腕でオルスロンの腕や足を抑えた。そして、首元にかじりつく。


「オルスロン!」


「……気にするな…リアン!俺は大丈夫だ!」


オルスロンはズゴルクロの腕を掴み引き剥がそうとするが、負傷して全力が出せないことと、思いの外ズゴルクロの筋力があるため、力負けしてしまったていた。


「……くそっ…このまま…やられるかよ…!」


するとリアンが、椅子やテーブルで作られた足場に飛び乗り、ズゴルクロに蹴りを食らわせた。

痛みのあまりズゴルクロはオルスロンを押さえていた腕を離す。


しかし、それで倒せるはずもなく、ズゴルクロはオルスロンとリアンの周りで羽ばたいていた。ダメージを負った様子はあまり見られない。


そうこうしている内に、ガルダとバルンも態勢を立て直し、リアンとオルスロンに接近する。


不安定な足場の二人と空を移動できる魔獣3体…

アントーンは再び解析に専念することになったために戦闘には参加できない。

ボロスも部下がいないため『感染魔法』により強化した兵で援護できずにいた。


「なあ…リアン…」


息も絶え絶えにオルスロンがリアンに小声で尋ねた。

その声からは覚悟のようなものがうかがえた。


「今のお前なら、この奥にいる甲冑の男を倒せるか?」


「僕が…シュバルトを…?」


コツア火山地帯で相対した時のことを思い出す。リアンは一瞬のうちに殺された。全く相手の姿を捕えることもできず。


リアンだけではない。国将であったノリエガやキールでさえ、戦闘で弱っていたとはいえシュバルトに倒されたのだ。

シュバルトは今…この国で最強の人間なのかもしれない。


全ての元凶で、ストロングシールドの末裔、世界を支配しようとする男……シュバルト。


シュバルトは確かに強い。

でも…



リアンはオルスロンの目をじっと見据えて力強く言い放った。


「勝つさ」


リアンはただただ静かに伝えた。

狂薬で力を得たためか、今のリアンはシュバルトに対して一切恐怖を感じていなかった。


頭の中では、シュバルトの野望を阻止することのみを考えていた。

ここでヤツを止めなければ全ての人間の未来が奪われる。


この場でシュバルトを止めることができるのは、もう自分しかいないことは理解していた。




オルスロンはリアンの一言を聞き、カカッと笑った。


長年連れ添った親友が、今はとても頼もしく見えた。それと同時にもうすぐリアンの命の期限が迫っていることに寂しさも覚えた。




もうすぐお別れなんだな…リアン…


じゃあさ、最期にぶちかましてやろうぜ…!





決意したような顔になるオルスロン。そして──


「赤髪のオッサン!俺に『狂襲病』を感染させてくれ!この化け物共は俺が倒すっ!!」


「……本当にいいのか…?お前にどんな副作用が出るか分からんぞ!?」


ボロスは『感染魔法』を使う時、感染対象者と狂襲病の相性を事前に確認している。相性が悪いと能力向上の効果を得ることなく、命を落とす可能性もあるからだ。


しかし、今は一刻を争う状況だ。


「構わねーよ!!このままじゃ、みんな死んじまうぞ!だったら抵抗して死のーや!!」




「……ったく……、分かったぜええええ!『感染魔法』発動!!!!」


ボロスの魔力がオルスロンに注ぎ込まれる。


オルスロンの魔力量と身体能力が向上する。

しかし、体には痛みが走り、今にも意識が飛びそうな表情に変わる。


「……ぐっ…うっ…『足場魔法』発動おおおお!!」


痛みを押し殺し、オルスロンが魔法を発動させる。

リアン達が乗っている足場が分裂し、霹靂の間に向かって移動する。


椅子がひとつずつ飛び地のように配置され、霹靂の間に続く道となった。


浮遊する足場を渡って行けば、床に設置された『罠魔法』を躱すことができる。


「リアン!そこの足場を跳んで行け!」


「オルスロン…!」


「あの甲冑野郎をぶっ飛ばして来い…!俺達も…こいつらを倒したらすぐに向かう…!」


オルスロンは意識が飛びそうになるのを必死に抑え、リアンに向かって叫ぶ。


「僕、シュバルトを倒しに行くよ!そして……必ず戻って来る!」


リアンはそう言うと、足場を渡っていく。

狂薬で強化された身体能力でなら、難なく渡りきれるだろう。しかし…


「おい!化け物ども!あのガキを止めろ!食い殺せ!」


ハイゼンの怒号が響き、魔獣達が慌ててリアンの後を追う。


「させるかよ!」


オルスロンが素早く後を追い、ズゴルクロを蹴り飛ばし、壁に激突させた。

次の瞬間、壁から槍が飛び出し、ズゴルクロの体を貫く。


『罠魔法』が発動したのだ。


「けっ!使えねーゴミだな」


「あと2体だ!」


リアンは仲間たちの援護を受けながらまっすぐ突き進んだ。

大広間の先にあるぽっかりと空いた霹靂の間の入口に滑りこむ。


「やった!突破した!」





「勘違いしてるとこ悪いんだけどよ。罠張ってるの、大広間だけじゃねーぞ?」


するとリアンの頭上から大岩が降ってきた。

霹靂の間に続く通路にもハイゼンの魔法はかけられていた。


「うわああああああ!」


最後の最後で油断した…!

僕はやっぱりシュバルトの元にはたどり着けないのか…


諦めかけたその時、さらに、大広間から声が聞こえた。


「リアン、問題ない!そのまま突き進め!」


それは、魔法解除のスペシャリスト…アントーンの声だった。


降りかかってきた大岩が一瞬のうちに消え去った。


アントーンの『解除』が間に合ったのだ。


「ありがとうございます!アントーンさん!」


リアンはそのまま突き進む。霹靂の間へ…!



リアンがいなくなった大広間には2体の魔獣とハイゼンが残っていた。


オルスロンがハイゼンを睨見つける。


「お前も降りてこいよ。これで3体3だぜ?」


「死に損ないが…!」


ハイゼンを挑発するも、オルスロンも限界が近かった。

気絶しそうなくらい体が悲鳴を上げている。

リアンが走り去った後の、霹靂の間へ続く通路に目をやる。


そして、その後首無し怪鳥ガルダと肥満竜バルンを一瞥する。




俺の最後の仕事はこいつらを片付けること…そして、後は…



リアン、後は頼んだぞ…


世界を救ってくれ。




続く

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