第30話 サンカエルへ



「…僕が3日後に死ぬ!?どういうことですか…?」


ボロスの言ったことを理解できないリアン。


どうしてこの人にそんなことが分かるんだ!?


僕が…3日後に死ぬなんて…というか…あれ…?



何で…僕は生きているんだ?


シュバルトに心臓を刺され、意識を失ったはず…



改めて自身の体を見ると、口や心臓付近から出血した跡が残っていた。

服も貫かれた左胸のあたりが割けていた。


貫かれた瞬間、確かに痛みを感じた。


呼吸は荒くなり、意識が遠ざかるのを感じた。


死に直面した……はずだった。


リアンはその時初めて体の変化に気がつく。


血が止まっている!?

それだけではない、今は体の痛みもほとんどなく、呼吸の乱れも治っている。一体なぜ…?


しかし、体の変化はそれだけではなかった。


魔力が漲(みなぎ)っている。放出しない状態でも、全開の状態と同じくらいの魔力を創出している。


僕の体に何が起こっているんだ!?


戸惑った様子のリアンに、ボロスが現状を説明する。


「お前さんが今生きているのはこいつのおかげなんだ」


そう言いながら、ボロスは懐からある物を取り出す。


それは……空の瓶?一体何なんだ…?


「この瓶に入っていた液体がお前さんを救ったのさ。これは“狂薬(くるいぐすり)”と言ってな。ワシの血液から作る薬みたいなもんだ」


「狂薬…?」


「知らねぇのも無理はねぇ。軍の一部の人間しか知らねぇからな」


「その薬にはどんな効果があるんですか?」


リアンは、得体のしれないものを飲まされたという事実に不安な顔をする。


「……ん〜、まぁ、そんな不安な顔をするな。これはそんな悪い物じゃねえ。副作用はあるが、お前さんにはもう関係ねぇからな」


「こいつを飲むと一時的に魔力が増幅する。個人差もあるが、魔力の増幅量は通常の10倍ほどになる。お前さんも感じているだろう?


効果の持続時間は手のひらサイズの小瓶一本でも3日は継続する」


「そんな、すごい薬をなぜ僕に!?」


ボロスは考えるように口に手を当てた。


「この薬の効果には続きがあってな…効果持続時間内の3日間は、体に負った傷が超回復で治るのさ。それがたとえ“致命傷”だったとしても完治させる…」


「そうだったんですね…!?すみません!そんな貴重な薬で命を助けていただきありがとうございます!僕もう駄目かと…」


「……ただし!」


リアンの声を遮るように、ボロスは声を強めた。


「その効果は3日間しか続かねぇのさ。そして……効果が切れたらお前が受けた致命傷はまたお前の体に戻ってくる。ワシが見つけた時……お前さんの命はすでに秒読みだった。つまり…効果が切れた時、お前は死ぬ…!」


「………えっ!?」


ボロスさんが言っていたことはそういうことだったのか。


3日後に死ぬ。

3日とは、狂薬によって一時的に伸びた命の時間に過ぎなかった。


やはり、僕はあの時シュバルトに殺されていたのか。


リアンはそっと左胸を抑える。ドク…ドク…と今は心臓が活動をしているのを感じる。これが3日後にはまた止まってしまう。


ボロスのおかげで、僅かに生き永らえることができているんだ。


「事情を聞き出すためとは言え、薬を使ってすまなかったな」


「いえ…むしろ、3日間ですが命を救っていただきありがとうございました!」


「僕はもう一度、シュバルトと話がしたい。彼の計画を止めるために!」


リアンが生き残ったこと。それにはきっと何か意味がある。


キールとの逃亡劇はここで終わった。


キールはここで死んだ。


だが、キールの死体はシュバルトに奪われ、『千人魔法』の依代として使われてしまう。


そして…世界がシュバルトの思い通りとなってしまう。


そんなことは止めなければならない…世界中の人間のために……そして、キールのために…


「ああ、天星城を目指すぞ」


ボロスは翻し、西の空を見る。


「だが、お前の話が本当なら、シュバルトは大きな鳥の背に乗ってサンカエルに戻ったんだろ?今から引き返して間に合うか…。でももう行くしかねぇよな」


ボロスの言う通り、今から向かったのでは、『千人魔法』の儀式に間に合わないかもしれない。


瞬間移動の魔法が使えれば…



「よし!お前ら!サンカエルに帰還する!シュバルトの野郎に会いに行くぞ!リアンの言うことが本当なら、戦闘になる可能性もある!覚悟もしておけ!」


ボロスが周りの兵に注意を促す。


また帰れるんだ…僕の……僕等の故郷のサンカエルに……!


キールさんはもういなくなってしまったけど…必ずキールさんをシュバルトから取り戻す…!


それは…僕がやらなくては駄目なんだ!


ボロスの号令により、ボロス兵達が馬で走り出そうとした。


その時────



周りの岩の塊がいくつも動き出した。


岩達は宙を舞いながら、高く積み上がっていく。


それはまるで階段状のようになっていく──


これは…この魔法は……


「こいつは一体何が起こってやがるんだ!?空に向かって岩が積み上がっていく!」


「この魔法は知っています!僕の…僕の仲間の……」


その時、2つの影が下から上がってきた。

二人とも浮かぶ岩の上に乗って移動している。


アントーンとオルスロンだった。オルスロンの方は負傷しているらしく、アントーンが肩で腕を担ぎ体を支えている。

身長差があるため、アントーンが屈んで窮屈そうにしている。


「アントーンさん!オルスロン!」


「リアン!キールはもう…」


アントーンの顔が曇っている。

アントーンは感知魔法で大体の事の経緯は把握しているようだった。

シュバルトの登場……キールの死……それらを魔力量の変化から、感じ取っていた。


「キールさんは…恐らくシュバルトに殺されました…」


先程まで見ていた夢……あれは夢なんかではなく、キールの最期の伝達魔法であった。そして、あの夢が終わった時、キールはもう帰らぬ人になったのだと、直感的に思った。


「そうか………残念だ。


しかし、お前が無事でよかった」


「いや…それがアントーンさん…」


「そんなことより…早くサンカエルに戻るぞ!俺を斬った野郎もぶっ飛ばしてーしな!」


オルスロンがリアンの言葉を遮る。


オルスロンはシュバルトに付けられた剣の傷が完全には癒えていないようだった。

致命傷ではないが、かなりの深手に見える。


魔人持ち前の耐久力と回復力が無ければ、今頃オルスロンも死んでいただろう。


「アントーン、久し振りだな」


「ボロス」


「後輩のくせに相変わらず呼び捨てかよぉ。お前もキールも。まぁ…そんなことはどうでもいいか。


んで、お前らもサンカエルに戻るのか?」


「ああ…キールがシュバルトに連れて行かれた。恐らく生きてはいないだろうが…キールを奴の好き勝手にはさせられない!」


「シュバルトはキールの死体を依代に『千人魔法』を使おうとしているらしい。この小僧が言うにはだが」


「『千人魔法』!?……そんなものは都市伝説だと思っていた。千人分の魔力を抽出し、依代となる人物の魔力を増幅させて使う魔法か。話には聞いてるが、シュバルトはそれで何をやろうとしているんだ?」


「世界中の人間に『奴隷魔法』を使うんだと。奴は世界を支配するつもりらしいぜ。とにかく今はサンカエルに戻って、シュバルトの話を聞こーじゃねーか」


「『千人魔法』に『奴隷魔法』か。にわかには信じられんが、もしそれが本当ならサンカエルだけでなく、全世界が危ないということか」


「アントーンさん!オルスロン!サンカエルに戻りましょう!キールさんを取り戻しに!」


リアンはすでに覚悟が決まっていた。


シュバルトの出現…

キールの死…

3日という命の期限…


短い間に目まぐるしく、色々なことが起きたが、リアンのやることはただ一つだった。


「キールさんを取り返し、シュバルトの野望を止めます!」


リアン達は、オルスロンの魔法で作られた岩の階段を登りだした。


リアン一行は西を目指す…!サンカエルのの地を…!


続く

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