第29話 リアンの目覚め



リアンはゆっくりと起き上がった。


さっきまで見ていたキールは夢だったのか…


実のところそれは分からない。


しかし、夢か現実か“キールが最後に言った言葉”がひっかかった。


僕にしかできない使命…


頭がボーッとするが、段々と体に感覚が戻って来る。

そして、キールはもういないんだという現実も、徐々に受け止め始める。


辺りを見渡すと、ボロスの他に赤い鎧をに見を纏(まと)った男と、十名ほどの兵士達がいた。


ボロスの部下たちのようだ。周辺を調査している。


ボロスが虚ろな目をしているリアンに話しかける。


「おい。大丈夫かお前?聞きてえことがあるんだけどよぉ。ここで何があったんだ?」


「それと、お前さんの名前は…キールと一緒に逃げていたリアン=ストロングシールドでいいんだよな?」


起きたばかりで意識が朦朧とする中、ボロスの問に答える。


「……はい。そうです。僕がリアンです」


その後、リアンはこの場所で起きた事や聞いた話をボロスに伝えた。


ノリエガとキールが戦ったこと、シュバルト=ストロングシールドのこと、千人魔法や奴隷魔法のこと、キールが罠に嵌(は)められ罪を犯したこと、そして…シュバルトが全世界を支配しようとしていること。


ボロスは目を瞑(つぶ)りながら、リアンの話を黙って聞いていた。


リアンは全てを話し終え、ボロスの方を見ると、何か考え事をしているようだった。


しばらくしてボロスが口を開く。


「……お前の話は大体分かった。お前のことを信じるかはまだ微妙なところだが、所々本当のことを言っているように思えた部分があった。これからサンカエルに戻り、シュバルトを問い詰めてみるか」


「お前も一緒に来い!」


リアンは腕を掴まれぐいっと引き寄せられる。


「僕の話を信じてくれたんですね!ありがとうございます!」


「勘違いするな。完全にはまだ信じてねぇよ。ただ今回の事件は軍の動きに不自然な点が多かった。キールの指名手配や捕虜のことなんかもな。何より……昔からワシはシュバルトが信用できねぇ」


ボロスは周りにいる部下に呼びかけた。


「おいお前ら!これからサンカエルに戻るぞ!もしかしたら、国のピンチかもしれねぇ!今すぐ準備だ!」


周りにいた兵士達は、ボロスの号令を聞き、すぐに出発の準備をする。


ボロスがリアンの方に向き直る。


「最後に一つ教えてくれねぇか?」


「何でしょう…?」


「お前らが逃げている途中、『グリアンテ』という次将に会ったか?」


ボロスは先程までと違い、怒りのような感情が混じった瞳で見つめる。

その表情に気圧されつつも、正直に答える。


「すみませんが、知りません」


「本当だな?」


「はい、出会った中にはいませんでした」


ボロスはしばらくリアンの目をじっと見た後、怒りの表情から柔らかい表情になる。


「そうか……それは信じよう。」


「お前さんとは今日初めて会ったが、不思議と信用できるような雰囲気があるな」


「そうですか?」


それは、もしかするとリアンの自動魔法である『奴隷魔法』がボロスに作用したためなのかもしれない。

しかし、リアンはその可能性についてはあえてボロスに告げなかった。


「人の良さそうな顔してやがる。なぜだか分からんが、お前さんを見てると、心が穏やかな気分になるな。あの“反則の魔女”が心を開いたのも分かる気がするな」


「そうですか。自分では分からないですけど」


リアンは心の中で少し嬉しく思った。

キールをよく知る人物から認められた気がしたからだ。


しかし、ボロスの顔が不意に曇る。

何か悪いことを思い出したような顔だ。


「ああ…そうだ。お前さんにもうひとつだけ……言っておかなきゃなんねぇことがあるんだわ」


「何ですか?」


ボロスの雰囲気に緊張するリアン。


ボロスは何かとても言いづらそうにしている様子だった。

少し黙って考えた後、リアンにその事実を伝えた。


「お前さんは………“3日後に死ぬ”」


「えっ!?」


予想外の言葉に固まるリアン。

リアンはボロスが何を言っているのか理解できなかった。



続く

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