第24話 解除
コツア火山地帯 中央部 山頂付近
リアンは仲間の帰りを待っていた。
オルスロンの『足場魔法』によって、ノリエガ軍の将軍達と1対1で戦うキール達。
戦闘魔法を持たないリアンは、戦いには参加させまいと、キール達はゾーコの町で取り決めをしており、オルスロンはリアンの足場には魔法を発動させなかった。
リアンは今、一人仲間達の帰りを待っていた。
しかし、いまだ誰も戻ってきていない。
「みんな、大丈夫かな…?やっぱり僕も援軍に行ったほうがいいんじゃ…」
しかし、過去のドスブスフク戦やペーラ&ゾラゾ戦でも、リアンはほとんど戦うことができなかった。
誰かを助けに行っても、足手まといになるだけ。最悪、人質になる可能性もある。
リアンは自分の無力さを噛み締めながら一人悶々としながら、待つことしかできなかった。
そんな時、南の方から魔力が近づいて来ることを感知するリアン。
アントーンさんが向かって来ている!?
あの細目の男に勝ったんだ!
しばらくして、火山地帯南側の岩場をピョンピョン飛んでくる影を見つけた。
もうすぐリアンのいる足場にたどり着くという時に……
リアンはそれがアントーンではないことに気がついた。
ズサアッ…と、リアンのいる足場に降り立つトリトニス。
この人はノリエガ軍の次将…!
でも最初現れた時と雰囲気が違うような…?
トリトニスふらついてる足元で少しずつリアンに近づいていく。
「よお!…お前もアントーン達の仲間だろお?……………雨は好きかい?」
目が虚ろで、普通の状態ではない相手に警戒を強めるリアン。
酔っぱらっているのか…?
トリトニスは魔力の出力を上げる。
「『雨魔法』──酸の雨──」
リアンの頭上に雨雲が出現する。
敵の攻撃だと気がついたリアンは走り出したが、雨雲はリアンの頭上から離れない。
くそっ!突き放せない!
酸の雨…この雲が降らせる雨に当たるわけにはいかない!
酸を降らせる雲だ!
しかし、間に合わない…頭上から雫が落ちてくる。
「うわああああああ!」
リアンは頭を覆うように、しゃがみ込む。
その時だった。トリトニスの後方から声がした。
「解析完了。雨魔法解除。」
その次の瞬間、雨雲は霧となって消える。雨粒は数滴ほどしか落ちなかったため、リアンは無傷だった。
トリトニスが後方の人物に気がつく。
「アントオオオォォン!生きてやがったのかああ!余計なことしやがって!」
「トリトニス、敵を殺すまで視線を外すな。戦場で学ばなかったか?」
魔法で止血したアントーンの傷跡からは再び血が吹き出す。
応急処置は施したが、次の攻撃には耐えられそうにない。
「『雨魔法』──霧鮫(きりさめ)──」
トリトニスがもう一度強力な魔法を使用する。
雨雲が、トリトニスの頭上に出現し、雨を降らせる。
雨の中で雨粒が集まり、鮫のような形を形成し始めた。
「アントーン!こいつはお前から垂れ流されている血の匂いに反応して、食らいつくぞっ!」
トリトニスは雨の中に出現した鮫を見る。
鮫は全長3mほどの大きさになり、体は水で形成されているため透明で、空中を泳ぐように漂っている。
血まみれのアントーンに気がつき、ジリジリ近づいていく。
そして、雨の鮫はアントーンとの間合いを一気に詰めだした。
リアンが鮫とアントーンにぶつかる瞬間、心の中で叫ぶ。
噛みつかれる…!逃げて下さい!アントーンさん!
アントーンは冷静に突進してくる鮫を見据える。
そして……
「解除。」
アントーンが両手を拍手するように一回叩くと、鮫はアントーンの目の前で霧のようになって姿を消した。
「言ったろ?トリトニス。『解析完了』だと。もうお前の魔法は何も効かないよ。」
少しずつ、トリトニスに近づく。
「解除。酔いは覚めたか?」
アントーンはもう一度パンッと手を叩く。
トリトニスの顔から赤みが消え、ここに現れた時の顔に戻る。
見開かれた目は、元の細めに戻る。
「……ハッ…酒が抜けてる!?」
「魔法で作られた酒なら、俺の魔法で解除できる。」
トリトニスは尻もちをつく。
トリトニスは酒を摂取することで、一時的に身体能力を上げられる特異な体質であった。
そのトリトニスの体から酒を全て消したのである。
トリトニスはアントーンのことを見上げ、言葉を振り絞る。
「いやー、流石はアントーン様…やはり、わたしレベルでは歯が立ちませんでした。」
諦めたような声を出すトリトニス。
すっかり元の状態に戻っている。
アントーンの右腕に魔力が溜まるのを感じる。
この一撃で終わらせるつもりだ。
「アントーン様…最後に…」
「何だ?」
「思いっきりお願いします。長い時間気絶していれば、サボれるので。」
「……安心しろ。そのつもりだ。」
アントーンはそう伝えると、トリトニスに頭に強化した拳を振り下ろして叩きつけた…!
拳を受けたトリトニスは地面に叩きつけられて失神した。
鼻から流れ出た血は、大きな血溜まりとなった。
「……こいつは最後まで、ブレなかったな…」
ふぅと一息つくアントーン。
そして、アントーンも力尽きてトリトニスの横に倒れ込む。
それを見ていたリアンがアントーンに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?アントーンさん!?すごい血じゃないですか!すぐに止血します。」
リアンはアントーンの体に手をかざし、回復魔法を発動させる。しかし、アントーンはそれを拒絶する。
「……リアン、俺のことはいい…それよりもキールの元に向かえ!…キールとノリエガの元に、別の魔力が近づいている。さすがのキールでも2体1じゃ勝てない…!」
アントーンはリアンの方に向かう道中、他の仲間の様子も探っていた。
まずは、ホークスの魔力が完全に消失していることに気づく。そして、オルスロンは魔力が弱まり、足場から動けていないようだった。
キール達の戦いはまだ続いているようだが、北から援軍が向かっている。恐らくノリエガの仲間だろう。誰の魔力かはまだ分からない。
少しでもキールの助けとなるように、リアンに託すアントーン。
「分かりました!東の足場に向かいます。アントーンさんは一人で大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫だ。魔力は残っているから、ここで回復魔法を使っているよ。トリトニスのことも見てなければならんしな。」
隣でのびているトリトニスに目をやる。
「分かりました。キールさんの元に向かいます!」
「頼んだぞ。俺も回復したらすぐに向かう。」
アントーンを残し、リアンはキールのもとに向かった。
向う途中、リアンは胸騒ぎがしていた。
今までにない不安。最強の男ノリエガとの戦い。
反則の魔女といえど、今はほとんど魔法を使いきってるキールでは勝てないのでは…?
いつになく弱気になるリアン。
しかし、ここまでの道中、キールは幾度となく敵を退けてきた。それもサンカエルの中でも屈指の実力者達を前に、全ての戦いに勝ってきた。
今回もきっとそうなる…!
今回も勝つんだよね?キールさん。
心の中で、キールの勝利を信じ、コツア火山地帯の東を目指した。
続く
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