第18話 現と現 呪いと呪い



「どうした!?キール!お得意の反則魔法とやらで、わたしを瞬殺できるのではないか?…………zzz……」


眠りにつくネイシャルアーツ。




──反則魔法で戦う時、毎回キールが苦労しているのは、『今は何の魔法が使えるのかを思考する』という作業があることだ。

反則魔法のルールとして、『過去に使った魔法』及び『それに類似する魔法』が使えない。


例えば、過去に使った反則魔法『刀を創造する魔法』で、“現(うつつ)”という魔法武具を創造しているが、以降、創造に関係する反則魔法は一切使えなくなるのだ。


この場合の類似魔法は、『武器を創造する。』『目の前の刀を複製する。』『建物を創造する。』『生き物を創造する。』等が該当する。

※基礎魔法の『創造』は使える。


軍にいた頃、戦闘に関する反則魔法をほとんど使ってしまったため、今のキールは未使用の魔法を必死に考えて戦っている。そして、新しい魔法を使う時も、その魔法の使用により、次は何が使えなくなるのかまで、気をまわさなければならない。


それが、戦闘中の思考の遅れとなる。


強力な魔法のほとんどを“ガイドシロンの戦い”で使ってしまったからね…

わたしの思いつく限り、君を瞬殺できる魔法はないんだ──



基礎魔法『衝撃』─発動!─


紫色の閃光がネイシャルアーツを追尾する…!

しかし、ネイシャルアーツには当たらない。


眠りながら、躱す一瞬だけ目覚め、再び眠りに落ちる。



シャリン…



次に、反撃のためネイシャルアーツが斬りかかる。


キールは攻撃を躱す。基礎魔法で肉体・耐久・動体視力を極限まで高める。


ネイシャルアーツは連続で斬りかかるが、キールは全てを紙一重で躱す。

反則魔法を選択肢から消すことで、ネイシャルアーツの攻撃を躱すことに専念できる。

しかし…裏を返せば躱すことに精一杯で、反撃ができない…!


シャリン………シャリン……シャリン…シャリン…


ネイシャルアーツが刀を振るう音が響く。


キールは全てを躱す。


ネイシャルアーツが姿を現した。頭を垂れ、地面に座りこんでいる。もちろん眠った状態で…


一見無防備な状態であるが、迂闊に攻撃をすると反撃されてしまう。


キールはゴーマのほうをちらりと見る。

ゴーマもこちらの戦闘をじっと見てるだけで、馬車の横に立っているだけだ。


どうやら、彼は戦闘に参加する意志はないみたいだね。

なら、そろそろ攻めようかな。防戦一方ではジリ貧になってしまう。

全く……逃亡が始まってから、面白い相手とばかり戦えて、幸せ者だな。わたしは……


その時、キールは過去の戦闘を思い出す。

そう言えば………、あの時の魔法…………

試してみるか。


ネイシャルアーツが起床し姿が消える。


かつての失敗を踏まえてか、キールの首だけに拘らずに体の至る所を攻撃するため、キールにもどこに攻撃が来るのか予測が難しい。


ネイシャルアーツがキールの近くまで間合いを詰める。


シャリン……


名刀“現(うつつ)”が敵の肉体を斬り裂いた…!

血しぶきが辺りに飛び散る。


「なんで…?」


苦しそうな声をあげたのは…………ネイシャルアーツだった。

“現(うつつ)”が斬ったのは、キールではなくネイシャルアーツの体だった。

致命傷ではないが、血を垂れ流すネイシャルアーツ…!


キールはネイシャルアーツに向き直る。

その手には“現(うつつ)”が握られていた。


「『犯罪魔法∶窃盗』。」


「なぜ…お前が…わたしの刀を持っている…?」


キールは過去に戦った、アントーン軍次将のザガーロの魔法を反則魔法で使ったのだ。


久しぶりに“現(うつつ)”を握り、恍惚(こうこつ)な表情になるキール。


やはり“現(うつつ)”はいいな…

なんて美しい刀身なんだろうか…

腕にしっくりくる。


キールは“あの時”と同じようなセリフをネイシャルアーツに言う。


「ネイシャル……勝敗はついた。刀を盗られたら負けだよ。またわたしの勝ちだね。」


ネイシャルアーツは冷静に言葉を返す。

まだ目の闘志は消えていない。


「確かに終わっていたよ…………あの頃のわたしならな!!」


ネイシャルアーツは基礎魔法を使う。


基礎魔法『創造』!!


ネイシャルアーツの右手に再び刀が出現する。

しかも、その美しい刀身は、キールの持つ“現(うつつ)”と同じものだ。

ネイシャルアーツは基礎魔法で魔法武具を創造したのだ…!

それはキールにもできないことだった。


「ネイシャル…君は…」

「わたしは…あの時の負けから学んだんだ。二度と刀を失わないように…!基礎魔法『創造』だけを鍛錬した。その他の基礎魔法全てを捨ててな!わたしはお前みたいに天才じゃないからな…努力だけで魔法武具を創造したんだ!!!」


基礎魔法で魔法武具を創造できる魔法使いはこの世にいない。しかし、ネイシャルアーツは努力と執念でその不可能を実現したのだ!


現在、両者刀を持った状態。だが、ネイシャルアーツの胸部には先程キールに斬られた刀傷がある。若干ネイシャルアーツが不利な状況である。


しかし、ネイシャルアーツはその不利な状況を覆す切り札を持っている…!

懐から取り出した“それ”はキールも知っている奥の手であった。


「狂薬(くるいぐすり)か。ボロスからもらったのかな?」

「そんなところだ…!この薬を飲めば、傷は治り、3日3晩は死ぬことはない!!お前の負けだキール!!」


ネイシャルアーツは狂薬(くるいぐすり)の瓶の蓋を開け、グイッと全てを飲み干す。


「…すごい…!これが狂薬(くるいぐすり)…!魔力が溢れてくる…!お前の首が一瞬で落とせるぞ!!」


ネイシャルアーツの魔力が膨れ上がる…!

そして、3日の間であるが不死の体を手に入れるネイシャルアーツ…!

もう『睡眠魔法』を発動する必要がない程に魔力が溢れる。


キールはそんなネイシャルアーツを見てどこか寂しそうに呟いた。



「残念だよ、ネイシャル。」





一方、大岩のペーラvsオルスロンの戦いも佳境に入っていた。

オルスロンの拳を受け、倒れそうになるペーラ…!


あと数発受けたら死ぬ…!

そう思った瞬間、周りが光で包まれた!


オルスロンは眩しさに目をつぶる。

すると、オルスロンの脇を横切りペーラの元に駆け寄る影があった。


それはゾラゾだった。


ゾラゾは沼からペーラを脱出させ、その体を背負う。


「だい…じょう…ぶ?」

「ああ…ゾラゾか!?…オイラは大丈夫だ…『双子魔法』を使ってまで、援軍に来てくれたんだな。」

「まだ……かてる…ぺーら…かてる」

「……ああ…勝とうぜ!ゾラゾ!変異だ!」


ゾラゾは固有魔法を発動させ体を武器に変異させる。


3mほどの長さの武器になる。刀とも斧とも形の定まらない武器ができあがった。


「なんだよ、そいつ!?武器にもなるのか?お前のペットはすげえな!」

オルスロンが挑発したようなセリフを言う。

それに対して、ペーラはキレる。


「こいつはペットじゃねええ!オイラの『誕生魔法』で生みだした…俺の家族なんだよ……俺がここまで育てた…俺の家族を侮辱するなあああ!」


ペーラは手に持った刀を振りかぶる。

どんな攻撃が来るか予測できないオルスロンが身構える。


しかし、次の瞬間────


『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』


誰かの声がペーラの脳内に木霊する。

あまりの音量に頭をおおうペーラ。


そして、オルスロンの背後からリアンの声がする。


「攻撃が止まりました!アントーンさん!お願いします!」


脳内の声はリアンの『伝達魔法』だった。この魔法により、リアンの絶叫をペーラの脳内に流した。

動きが止まっているペーラにアントーンが手をかざす。


「ありがとう!リアン!……ペーラ、お前の魔法の解析は済んでいる。終わりだ!」


アントーンは解析済のペーラの『誕生魔法』を解除する。

その瞬間、ゾラゾの体が弾け飛んだ。辺りにゾラゾの肉片が飛び散る。


ゾラゾの死を目の当たりにし、戦意を喪失するペーラ。


「ああ…ゾラゾ…ゾラゾオオオ…!」


そして、放心状態のペーラにオルスロンが拳を叩き込む…!


ペーラは大岩の下に落ち、そのまま気絶する。

生きてはいるが、しばらくは動けないほどのダメージを負った。


オルスロンの元にアントーンとリアンが駆け寄ってくる。


「大丈夫?オルスロン?怪我はない?」

「あちこち殴られていてーよ…でも二人とも助かった!なんとか勝つことができたわ。」


棍で殴られた後が体中に残るオルスロン。

痛みで立ってられなくなり、尻もちをつく。


「よく頑張ったな、ちょっと待ってろ。」


アントーンが回復魔法でオルスロンの体を治療する。


「おおっ!なんか楽になってきたかも!」

「俺の回復魔法はそこまで即効性はないから、しばらくは安静だな。」

「ええっ!?もう完治した気がするのに!…………ありがとな、オッサン!」


そして、リアンの方に向き直るアントーン。


「君の『余命魔法』も解除してあげなくてはね。まだペーラが生きてるから、ゾラゾの魔力も僅かに残ってるのかもしれないな。じっとしててくれ。」


そっと、リアンに手をかざすアントーン。

余命魔法を先程と同じ要領で解除する。


しかし、その時リアンの魔力に触れ、違和感に気がつく。


なぜ?どういうことだ?なぜリアンから…


アントーンの驚いたような顔を見て、オルスロンも心配になる?


「…オッサン、どうした?なんか顔色悪いぞ?」


声をかけられ、オルスロンの方を向いたアントーン、そして、アントーンはオルスロンの魔力にも違和感があることに気がつく。


なぜ今まで気が付かなかったんだ。これはどういうことだ…?

何が起こっている。


まずはオルスロン…

オルスロンの魔力を見た時、オルスロンを纏(まと)っているのはオルスロンの魔力だけではなかった。別の魔力がオルスロンを包んでいた。それはキールの纏っていた“呪いのような魔力”と同じものだった。

リアンの魔力と同じ性質の魔力。

リアンと近しい二人が呪いにかかっている…?


この瞬間、キールにかかっている“呪いのような魔力”もリアンのものだと確信する。

リアンが何かしらの魔法をキールとオルスロンにかけているのだ。


それだけではない。


一方で、リアンの魔力に触れた時、リアンも別の魔法使いの魔力を帯びていることに気がついた。これも“呪いのような魔力”となっており、リアンに何かを強制させる魔法のようだった。

そして、リアンにかかる呪いの魔力の持ち主もすぐに誰だか分かった。アントーンがよく知っている魔力の形質。


リアンは“キール”から呪いを受けていたのだ。


思わず、リアンの肩を掴みながら大声を上げるアントーン。


「どういうことだ!?リアン!なぜお前はキールから呪われているんだ!?そして、リアンはなぜオルスロンとキールを呪っている!?」


混乱するアントーンを見て、オルスロンとリアンも混乱する。


「僕がキールさんとオルスロンを呪う?そんなことしていません!」

「俺がリアンから呪われることなんてあるかよ!オッサン何言ってんだ!?」


二人は反論するが、オルスロンも状況が整理できない。そして続けて、リアンはアントーンにもう一つの疑問をぶつける。


「アントーンさん、キールさんが僕を呪っているというのもどういうことですか?」


それはアントーンにも分からない。なぜリアンとキールがお互いに“呪い合っている”のかを───


「すまない、俺にも何が何だか分からない。一つ言えるのは、キールの呪いもリアンとオルスロンにかかる呪いも危険なものではないということだ。」


僕とキールさんが呪い合っている…!?

そして、僕はオルスロンのことも呪っている…!?

彼らを呪った記憶はないし、呪われた覚えもない。

今はまだ結論が出ないような気がする。


リアンは二人に提案する。


「と、とりあえず、キールさんのところに戻りましょう。まだあちらは戦っているようですし…」


「そうだな。この件はあっちが片付いてからだ。ネイシャルアーツが来ている。」


「ネイシャルアーツと戦っているんですか!?急がないと!?」


慌ててキールの元に移動する3人。





しかし、キールとネイシャルアーツの戦いは、この後あっけなく終わりを向かえることになる────


続く

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