第17話 変異魔法と余命魔法と光魔法と双子魔法



ダッダッダッ…!とキール達に迫るゾラゾ…!


「グルルル…こゆう…へんい…」


ゾラゾが何か言葉を発する。その途端、ゾラゾの腕が斧に変形する。

キールめがけて斧を振り下ろす。


キールは涼しい顔をしながら、人差し指と薬指の二本で斧を挟み受け止める。

そして、興味本位でゾラゾに話しかける。 


「君は人ではないね?岩陰にいる男の魔法が関係しているのかな?」

「グアッ!ウゥゥ…!」


ゾラゾは言葉にならない声で返答する。


次の瞬間、ゾラゾの魔力が膨れ上がる。


感知魔法で常に発動しているアントーンが叫ぶ。

「キール!気をつけろ!何か来るぞ!」


ゾラゾが再び呪文のような声を出す。

「こゆう…へんい…」


その直後、ゾラゾの体から剣が無数に生えだし、キールを襲う。


キールは剣が生える前に距離を取り、攻撃を躱す。

攻撃を躱し、態勢を立て直そうとしたその時──


キールの肩に矢が刺さった…!


矢を射った者は、キール達より西側にある大岩の上に立っていた。ノリエガ軍、次将のペーラである。


「ちっ!肩かぁ!急所は外しちまったぜ!」

悔しがるペーラは、次の矢を用意し、弓を構えようとする。


「もう一発来るぞ!キール!」

アントーンが叫び終わると同時に、もう一本の矢が放たれる。


それと同時にゾラゾも腕の斧で斬りかかる。


いやな連携をしてくるね…

変幻自在の攻撃をする男と、遠距離攻撃の男。

両方を躱すのは難しいかな。

しかも、弓矢の男の武器は、恐らく魔法武具。

魔力で強化してるわたしの体に深々と刺さったからね。


振り下ろされる斧を躱したが、矢の軌道からは外れられないキール。このままでは当たると思ったその時…!


パシッ!


ペーラが放った矢が空中でキャッチされた。


「そろそろ俺達にも攻撃してくんねーかな!暇してんだけど!」

矢を掴んだのは魔人オルスロン。


オルスロンが魔力の出力を上げる!

途端に、大地が隆起し階段状になっていく!

階段の先には、ペーラのいる大岩があった。


「弓矢を持ってる色黒男は、俺が倒すぜ!」


そう言うと、オルスロンは階段を駆け上がっていった。


オルスロンが接近してくることに気づいたペーラは、近接用の別の魔法武具を用意する。


「初めて使うから心配だけど、贅沢言ってられないっしょ!……魔法武具『兵(へい)ニ(じょう)棍(こん)』!」


以前、オルスロンを倒した武器『兵ニ棍』を手に持つペーラ。

見覚えのある武器を見て、ホークスとの一戦を思い出すオルスロン。


「その棒は見たことあるぞ!次は負けねーかんな!」


叫び声とともに、ペーラのいる大岩に飛び乗る。

次は必ず勝つ…!オルスロンの目には敗北の恐怖は微塵もなかった。



その東側では、キールVSゾラゾの戦いが続いていた──

体を自由自在に変形させ、四方八方から攻撃するゾラゾだったが、一撃もキールに当てられないでいた。

ゾラゾが両腕を刀に変形させ斬りかかるが、全てを躱し背後に回り込むキール。

ゾラゾは背後にキールが移動したことに気付き、背中を剣山のように変形させ攻撃するが、後方に移動され避けられる。


キールは避けながら、指先をゾラゾに向けて、魔力をためる。そして──


「基礎魔法『衝撃』。」


指先から紫色の閃光が放たれゾラゾに命中する。

致命傷ではないが、ゾラゾは痛みで動きが鈍くなる。


「………これ……かてない。」


ゾラゾは今のやり方では勝てないと悟り、別の魔法を使う。


「…こゆう……よめい……」


キールの耳にゾラゾの意味不明の言葉が届く。


こゆう…よめい?

意味は理解できない。

しかし───


突然、キール、アントーン、リアンの頭上に数字が浮かび上がった。3人とも『5』と表示されている。


キールは見たことのない魔法に警戒を強める。


キールから見て、リアンとアントーンの頭上に『5』という数字が浮かび上がっている。

恐らく自分の頭の上にも『5』の数字が出ているだろう。


「アントーン!わたしの頭の上の数字を読み上げてくれ!」


「『5』だ!」


やはり、全員同じ数字か。

しかし、これだけの情報では何も分からないな。


ゾラゾが再度変形し、攻撃してくる。

腕の先を剣に変え、触手のように伸ばしてキールに攻撃する。

キールはあえて、肩のところでその攻撃を受けた。

かすった程度なので、傷は深くない。


その瞬間、キールの頭の上の数字が『5』から『4』へ変わる。

すかさずアンそれに気づいたトーンが叫ぶ。


「キール、お前の数字が『4』に変わったぞ!」

「ありがとう!アントーン!……この魔法の解析も頼む!」

「すでに解析中だ!」とアントーンは答えた。


次にキールはゾラゾの懐に飛び込み、鳩尾(みぞおち)に拳を打ちこむ。ゾラゾは痛みで倒れ込む。


その瞬間──また、数字が一つ下がる。

キールの数字は『3』となった。


「キール!今『3』に下がったぞ。」


やはりね…!

奴に触れる度に数字が一つずつ減っていく。

ということは、この魔法…

カウントが0になったら、何らかのペナルティが生じる魔法だ。


こゆう…よめい…………固有…余命…

この魔法はあの男の固有魔法…『余命魔法』か…!

ということは、頭の上のカウントが0になったら───


「アントーン!この魔法は恐らく『余命魔法』だ!奴に触れる度にカウントが減り、0になったら死ぬ魔法ではないかな?」

「キールの言うとおりだと思うが、そうなるとこいつは固有魔法を2種類持っているということか!?そんな奴は見たことないぞ!」


体を剣や斧に変える『変異魔法』。

相手に数字を付与し、0になったら死なせる『余命魔法』。

こいつは何者なんだ。人ではない、魔人でもない。

では一体…?


キールが考えを巡らせていると、ゾラゾは魔力を体に集めだした。


「………こゆう……ひかり…」


ひかり…?光か?


次の瞬間、まばゆい光がキール達を包みこんだ…!

視界を奪われるキール…!そして、ゾラゾの斧がキールの腹に打ち込まれる。魔力で防御したため、傷にはならない。

キールの体が後方に吹っ飛ばされる…!

しかし、倒れこむことなく、上手く後方に着地をするキール。しかし───


「キール…!お前のカウントが『1』まで減ってるぞ!」


なに!?『1』…!?


アントーン達の方を見ると、アントーンとリアンの頭の数字も『4』に減っていた。


これはどういうことだ!?

わたしは奴の斧の一撃を受けたときしか触れてないから、本来なら数字は『2』のはずだ。

なぜ『1』にまで落ちている…?そして、アントーン達は、なぜ奴に触れていないのに『4』に下がった…!?


これにはアントーンの方が先に答えを出していた。

「さっきの光魔法…あの光に触れても、奴に触れたことになるみたいだ!つまり、カウントダウンが進む条件は『奴の魔力に触れること』だ!」


なるほど、さすがアントーンだ。

しかし、そうなるとわたしはもう一撃も喰らうわけにはいかない。どうすれば──



西の大岩の上では、オルスロンvsペーラの戦いが続いていた。

ペーラの繰り出す兵ニ棍の攻撃を、ホークス戦の時のように躱すことができないオルスロン。


全ての攻撃を受けてしまい、片膝をついて倒れる。

その姿を見て、見下したようにペーラが言う。


「もうさ、降参してよ。弱い者イジメみたいで申し訳ないからさ。…………あっちもそろそろ一人死にそうだね。お姉さんが一番最初にリタイアかな?」


オルスロンはまた立ち上がり、ペーラに言い返す。


「…そんなことあるかよ!うちのキールは最強なんだよ!あんな奴には負けねーよ!」


オルスロンの心は折れていなかった。再度戦闘態勢をとる。


あの棍での攻撃はどうしても躱せない…

恐らく魔法武具の効果だろうな…

肉弾戦になると、こちらの分が悪い…


考えろ…考えろ……あの金髪次将に負けた時の屈辱を思い出せ…!俺は二度と負けねえ…!


オルスロンの魔力が膨れ上がる。固有魔法を使うために──


『足場魔法』発動!


発動した瞬間、ペーラの動きが止まる。


「ん…?なんだこれ!?う、動けない…!足が…足が…沈んでいる!」


ペーラの足元だけ、岩ではなく泥沼のように変化していた。


「……応用だよ。俺の『足場魔法』は足場を作るだけじゃねえ!今の足場の状態を変えることもできるんだよ!」


まあ、今日初めてやったけどな!…ということは、あえて言わないオルスロン。


身動が取れないペーラに拳を連続で叩き込んでいく…!

ペーラは躱すことができず、ただ攻撃を受け続ける…!


「がっ…!ぐはっ…!うっ…ぐぁ…む…ゾラ…ゾ…!たす…け…!…て!」


オルスロンは攻撃の手を緩めない。



ペーラのピンチに反応するゾラゾ。


「ぐが!?……ペーラ…しぬ…!…………こゆ……ふたご…」


その瞬間、ゾラゾの体が二つになり、片方はオルスロンが作った足場を登っていく!


この魔法は固有魔法の『双子魔法』、自身と同じ能力値の分身を作る魔法である。双子魔法の特徴は好きな方を本体にできること。片方が破壊されてももう片方が生きていれば、死ぬことはない。


そして、もう片方はキール達のところに残り、再度魔力を溜めだす。

2回目の『光魔法』を放つために…!


「アントーンさん!僕、オルスロンの方に行きます!敵の分身が仲間を助けに行ったみたいなので!」


アントーンは少し悩んだが、リアンを信じて送り出す。


「分かった!リアン、無茶はするなよ!」

「はい!」


『双子魔法』を使ったことで、『光魔法』を発動するための魔力をためるのに時間がかかっているゾラゾ。


キールが基礎魔法で攻撃するが、ゾラゾは倒れない。


そして…


「たまった……たまった……おんな…しね」


魔力を錬り出す。次の瞬間、まばゆい光に包まれた。

キールもアントーンもゾラゾの魔力で作り出した魔力に触れる。


光が消えると、キールの姿も見えなくなっていた。


ドゴッ…!っと、ゾラゾの左顔面に激痛が走り、体が飛ばされる。

吹き飛ばされた後、ゾラゾはゆっくりと体を起こす。何が起こったのか理解できていない。


目の前にはキールが立っていた。先程ゾラゾを殴ったのはキールだった。そして、ゾラゾはあることに気づく。


「なんで…しんでない……?すうじ……きえて…る?」


キールはゾラゾの『光魔法』を受けたが生きていた。それだけでなく、頭の上の数字も消えていた。


「うちの『感知魔法』のスペシャリストに解除してもらったよ。」と親指でアントーンを指すキール。


光魔法が放たれる直前、アントーンは『余命魔法』の解析を終えていたのである。すぐに逆属性の魔法を作り、『余命魔法』を打ち消すことに成功した。


「間一髪だったけどね。」


「くそ…くそ…ぐらああああ!!」


ゾラゾが『変異魔法』で体を変形させていく。体が膨張していく…!体格差で攻めてくるつもりのようだ。


キールはアントーンに指示する。


「アントーン、リアンくんのほうに行ってやってくれないか?彼の頭の数字も消してあげてくれ。」

「分かった!お前は一人で大丈夫か?」

「もう大丈夫だよ。二度同じヘマはしないさ。……まあ、反則の魔女を信じてくれよ。」

「分かった!信じてるぜ、キール!」


そう言うと、アントーンもリアンを追って岩の階段を上がっていった。

アントーンが行ったのを見送ると、ゾラゾの方に向き直る。


さて、これで1対1だ。

変形が終わる前に攻撃するか。


基礎魔法『衝撃』を使おうとしたその瞬間…




鉄が空気を切り裂くような音が聞こえた──




シャリン………


ゾラゾの首が地に落ちる。


それを見たキールは魔法を使う。


『反則魔法』…!


パシン…!


キールは真正面から斬りかかってきた刀を両手で挟み受け止め、刀で斬りかかってきた女に話しかける。


「反則魔法『白刃取り』…君と戦うために、考えた魔法さ。」


斬りかかってきた刀の主が答える。


「久しぶりだな!キール!…でもその魔法使えなくなったな!次はどうするんだ?」


刀の主は国将ネイシャルアーツだった…!

ネイシャルアーツはキール達に追いついたのだ…!


ゾラゾを瞬殺し、ネイシャルアーツは姿をくらます。

キールの死角から攻撃するためだ。


キールはちらりとネイシャルアーツの馬車の方に目を向ける。

すると馬車の近くに、ネイシャルアーツ軍の次将らしき男が立っていた。


2体1か…

アントーンを行かせたのは失敗だったかな…

さて、どうしたものか…


心の声とは裏腹にキールの心は高揚していた…!

最強の刺客と戦えるということに…!


続く





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